なんだかここも懐かしくなっちゃったな…。
まだ人の少ないラウンジを歩く。学生はまだ学校にいる時間だろう。
ついこの間まで毎日の様にここに来ていたのに、知らない場所のようだった。

時間の流れは早い。それに気付いたのは、大人になった証拠だ。

大学生なのかまだ早い時間なのに、ちらほら人がいた。
トリオン体の人とすれ違い、うずうずと久しぶりにブースへ入りたい気持ちになる。
戦闘員あがりの職員は、防衛任務こそ参加はしないが万が一の時はトリガーを起動しての戦闘も許可される。
勤務時間外に申請をすれば、練習や模擬戦も可能だ。
今度申請してみようかな。でも全然戦えなくなってたらショックだな。
なんて、ぼんやりとしていたら、目的地の自販機についた。
お茶でも飲んで休憩したら仕事戻らないとな。
自動販売機のミルクティーのボタンを押したのに出てきたのは、青いパッケージのスポーツドリンクだった。
補充したやつ出てこい。
クレームを入れるか本気で悩んでいたら、奥の角を曲がる人影が気になった。
なんだか、ふらふらして体調が悪そう。

お節介だけど、気になるから一声だけかけよう。一瞬見えたその人の顔色は心配になるほど悪かった。
急いで追いかけると、角を曲がった所で壁に寄り掛かっていた。やっぱり体調が悪そうだ。

「大丈夫?とても体調が悪そうだけど、」

そっと肩に手を添えながら、声をかけると驚かせてしまったようで
びく、と肩が跳ね上がった。

          ◇

昨日刺さったクソうぜぇ感情がまだ身体にまとわりついてる気がする。
イライラして学校に行ったところで余計な視線を浴びるのはわかってるからボーダーに来たのに、胸クソ悪いのが治らねぇ。今日は隊室で寝るしかねぇなと、自販機の角を曲がってからぐらりと視界が歪んだ。
身体も重いし、風邪でも引いたのかと思っていると、急に知らねえ女に声を掛けられた。
肩に触れられるのと感情が刺さるのに同時に気付くなんて、とうとうクソ能力ともお別れか?と思った。
こちらを覗き込む女からは、感情が刺さる。すべての調子が悪い。
チッと舌打ちをする。
肩に乗せられた手を振り払うと、目の前が真っ暗になった。
耳鳴りが煩くて、上と下がわからなくなった。

          ◇

振り返った男の子は、顔色が悪かった。
マスクを顎の下に引っ掛けていたので、風邪をひいているのかもしれない。
大丈夫?ともう一度声を掛けると
こちらを一瞥してから舌打ちをして、手を振り払われた。

いきなり馴れ馴れしすぎたかな、と反省した。
知らない人に触られるのは誰だって嫌なはずだ。
戻ろうか迷っていると、急に彼の体が傾いた。
慌てて抱きとめたはいいが、ガリガリの身体の割に重い。
もう少し小さかったら何とか抱き上げて医務室に連れて行けたのに…
今日から筋トレちゃんと頑張ろう。と心に決めて、男の子を床に寝かせる。

太ももの上に乗せた彼の額に手を当てるが熱はないらしい。
顔色も白いので貧血か何かだろうか?それなら、少し横になれば楽になるはずだ。
前髪を手で解いていると、パシッとまた払われた。

「勝手に触んじゃねえ」

よかった。顔色は悪いがすぐ気がついたようだ。しかし、現代っ子にしては珍しい位とんがってるなあ。

「顔色悪いけど、大丈夫?気持ち悪い??」
「鳩尾がいてぇし、吐き気がする。あとあんまりこっち見んな。」
「うーん、やっぱり貧血かな?」

あと恥ずかしがり屋さんかな?と心の中で付け足して、さっきミルクティーの代わりに出て来たスポーツドリンクを渡す。

「それね、さっき自販機で買おうと思ったのと違うのが出て来ちゃったからあげるね。
水分摂るとちょっとは良くなると思うんだけど、今日はもうお家帰った方がいいよ。なんなら、送っていこうか?」
「子供じゃねえ、1人で帰れる」

そう?じゃあ、途中でまた気持ち悪くなっちゃったら遠慮なく連絡してね。と男の子の大きな手のこうに携帯の番号を書く。話している内に顔色が良くなってきたからこのまま一人で帰しても大丈夫だろう。

「変な女」

頭をぐしゃぐしゃにかき混ぜられて、彼は去っていった。

後日携帯にショートメールでお礼の言葉が入ったので、多分ツンデレってやつだと思う。