後半注意






霧絵:花火みにいきたい!
生駒:ええやん
嵐山:今度の大きいやつか?
迅:みんなで行くかー
嵐山:隊のみんなも誘っていいか?
霧絵:え?!誘ってほしい!!
玉狛も生駒隊も呼ぼう!!

生駒:生駒了解
嵐山:嵐山了解
迅:実力派エリート了解








ラウンジの大きいディスプレイでぼーっとランク戦を眺めていると
腰のあたりがざわっとした。

びっくりして振り返ると、なんてことはないただのセクハラ野郎だった。

「迅!
びっくりするから急に触らないでって言ってるじゃん!」

「…………触ったおれが言うのもなんだけど、怒るところ違くない?」

「別に迅だし、減るもんじゃないし、そこは良いんだけど気配消されるとすごいビビるからやめて」

「てか、そんなことより、花火大会もうすぐだね!
嵐山たちが任務で来れないの残念だけど…」

わたし浴衣買っちゃったんだー!
とるんるんで話してるのに、迅はこちらを顰めっ面で見た後ため息をついた。

「どうした?嵐山と花火みたかった?」

「いや、大丈夫
それより当日晴れるといいな」

「?そうだねえ、
雨で中止になっちゃったらやだなあ」

今のところ予報は曇りだ。
前日が降水確率高いのが懸念事項である。

「そうだな、
雨なら中止するしかないよな。」

「??
そうだね??」

いつもに増して迅は変だった。







生駒:今日の予報めっちゃ雨やけどどないする?
迅:まだ中止とは決まってないみたいだな
霧絵:こっちは晴れてるし、せっかく穴場スポット調べたし、わたしは向かってみようかなあ
迅:ボスは今日中止になるんじゃないかって
霧絵:まじか…せっかく浴衣きたのに…
生駒:そんなん誰かに見せんともったいないやん!
霧絵:でしょー?!こないだ買ったやつなんだよー!
生駒暇なら行くだけ行ってみよーよ
生駒:ほな、いまから駅むかうわ
迅:2人とも傘忘れるなよ〜
霧絵:行ってみて晴れてそうだったら連絡するね!!
嵐山任務頑張ってね〜
嵐山:ありがとうとメッセージのついたかわいい犬のスタンプ




生駒と駅で待ち合わせて、電車を乗り継いで花火が打ち上がる河川敷まで向かう。
家を出るまで暑いくらいに晴れていたのに、目的地に近づけば近づくほど空は暗くなって行く。

遠出をするのは久しぶりで空がどんよりとして行くのを見てもなんだかうきうきしてしまう。

生駒の誰にでも配られるかわいいも、新しい浴衣を着てるというだけで、本当に褒められてるみたいだ。

しかし、この高揚感も目的の駅に着いた途端萎んでしまった。


ちらほらと浴衣を着た人がいるものの、空は今にも雨が零れ落ちそうな様子である。

生駒に戻るかとも聞かれたが、まだ花火の開始まで時間がある。
あと少ししたら晴れるかもしれないから、とわがままを言ってもう少し付き合ってもらうことにした。


「生駒、コンビニ寄ろう。付き合ってくれるお礼に飲み物買ってあげるよ」

ビールの缶を持ちながら言うと
生駒が真顔で、おれシュッとしとるけど未成年やねん。
とどう見ても成人男性の顔で言ってきた。

よく聞くと迅も嵐山もみんな19歳だそうだ。勝手に同じくらいだと思ってたけど、ひとり年上だったらしい。

ショックだ。



土手に着く前に、ぽつりぽつりと降ってきた雨は場所取りを済ます時には本降りになっていた。

地面に落ちてくる雨がはねて足を濡らしていく。


「…これはもう中止かなあ」

なぜか傘を忘れてきた、生駒と1つの傘に頑張って入るのも限界がある。


「なんや、いっそひと思いに中止と言って欲しいわ」

「それね、撤収するタイミングがわかんない」

本降りになった雨の中
花火大会の中止のアナウンスはまだない。

迅からは風邪ひかないうちに帰って来いよとメッセージが入っていた。

雨で浴衣の裾がぐっしょりと濡れている。遠くに聞こえた雷鳴の音で帰る決心がついた。

がんばって傘をさしても、2人とも着ているものの色が変わるくらい濡れてしまった。

「せっかくの新しい浴衣なのにーっ」

「よお似合っとるのに残念やったなあ」

「この前帰るの癪だし、濡れて寒いしちょっと飲んで帰ろう!!!」

めずらしく困った顔をする生駒を引きずりながら駅近のチェーン店にはいる。

寒くてビールの気分じゃなかったので、ひとりで熱燗を頼む。

生駒は未成年らしいので、コーラを頼んであげた。

つまらなさそうに、沖漬けをつまみにコーラを飲んでいる。

身体があったかくなっていくとともに、濡れた浴衣が気にならなくなるほど楽しくなってきた。

あー、帰りたくないなあ

私の記憶はそこで途絶えた。