ラウンジで帽子を被ってる子が机の周りを行ったり来たりしている。
椅子の下にまで潜り込んで、何か探してるのかなあ…
もしかしてさっき拾ったやつの持ち主なんじゃ。

「もしや君は荒船くんだね?!」
「…はあ」

脳内で会話を繰り広げていたので、その流れで話しかけてしまったら怪訝な目で見られてしまった。
そうだよね、知らない人に名前呼ばれたら気持ち悪いよね。と若干落ち込む。

「あ、怪しものではっ」

机の下にいた荒船くんに合わせて潜り込んで見たものの思いっきり頭をぶつけてしまった。
怪しい大人を通り越して変人になってしまった。中々いい音がしたので荒船君(仮)も心配そうにこちらを見ている。恥ずかしさと痛さで、じわりと浮かんだ涙を堪える。

「さ、先程、ここで定期入れを拾いまして、それを受付に預けた者です。」

そこまで言うとわかってくれたようで、不審そうな顔をやめてくれた。
折角なので受付まで一緒に行くことにした。

「よく見たらお姉さんの事見たことありました」
「?」

荒船くんが歩いている途中に、名刺を1枚見せてくれた。

「もしかして村上くんのお友達?」

名刺を直近で使ったのは村上君と会った時だ。

「カゲとも知り合いですか?」
「お!影浦くんとも仲良いの?影浦くんはあれだね、ツンデレだね?」
「ふっ、それカゲに言ったら蹴られますよ。」
「照れ屋さんだなあ、私の事見るとすぐ逃げるんだよね…。もっとお話ししたいのに。あと話しかけるとすぐ蹴ってくるよ。」
「…。」

受付で定期を受け取って荒船くんに渡す。高校生が使うには大人っぽい皮の定期入れだ。

「荒船くん、忘れ物には注意だよ」
「巫条さんは頭上に注意して下さい。」
「うっ、荒船くんはちょっと意地悪だね?!」
「すいません、ちょっと調子乗りました。
話変わるんですけど、今週の水曜日って夜空いてますか?」
「水曜日?自主的にノー残業デーを開催してるから定時で、18時には仕事は終わるよ」
「カゲと仲良くなれるイベントあるんですけど、良かったら来ませんか?」
「本当?!」
「言っても、村上達とお好み焼き食いに行くだけですけど」
「村上くんもくるの?!」
「今日のお礼って事でどうですか?」
「いやいや、高校生にたかれないよ!
でも、本当に行っても良ければ行きたいな。お好み焼き食べたいし、村上くんにも会いたい!
ついでに影浦くんと仲良しになれるなんて最高だね」
「じゃあ、決まりっすね。当日迎えに来ましょうか?」
「えっと、残業あると困るから、仕事終わったら連絡するね。番号聞いてもいい?」

荒船くんと約束をして、事務所に戻る。
久しぶりにわくわくする予定だなとうきうきしてたのに、上司のお使いであるコーヒーを買ってくるのを忘れて、もう一度ラウンジに行く羽目になった。