今日は荒船くんに誘われてお好み焼き。
久しぶりの外食にうきうきしながら、定時にPCの電源を落とす。

「霧絵もう帰るの?」
同期がPCから目を離さずに聞いてくる。
「水曜日はノー残業デーなのだ」
「自主的な?」
「自主的な!」
「そりゃいいわ。そこらへんのワーカーホリックも一緒に連れて帰ってよ。」

あー。ここで働いているとやる事に際限が無い。
そのせいで、みんな家に帰らない。
あれだな、シャワーがついてるのがいけないんだな。
仮眠室もあるが、そこらへんの椅子で寝ている人のは多い気がする。

「そういう君も何日お家に帰っていないのかな?」
「もはやここが家なのでは」
「職場に住むのはどうなのか」
「キリがよくなったら帰るよー」
「それ昨日も言ってなかった?」
「ははは」
「手伝える事あったらリストアップして置いて」
「大丈夫…いや、お願いします…」
「よろしい!ごはん食べたら戻ってくるよ」
「じゃあなんかついでに買ってきて」
「わかった」

荒船君に連絡をいれて本部を出た。

         ◇

「ごめん、待たせちゃったかな」
「いえ大丈夫です」

待ち合わせの駅に着くと制服の荒船君がいた。
うわー、制服ってやばい。なんか犯罪の匂いがする。

「霧絵さん?」
「大丈夫!何でもないよ!!」
「仕事大変なんすね」
「いやいや、戦ってるみんなの方が絶対大変だから」
「…好きでやってるんで」
「いつもありがとうね」
「ッス。そう言えばスーツじゃないんですね」
「匂いついちゃうかなーと思って置き私服に着替えてきたんだ」
「置き?店こっちです。」
「あー、お腹空いた!楽しみだな」

荒船君の後について歩く。制服についた仄かな油の匂いにお腹が鳴る。
ふたりで笑ってしまった。

         ◇

ガラガラガラ
駅から少し離れた場所にお好み焼き屋さんの暖簾が見える。
荒船君の後に続いて中に入ると香ばしい香りでいっぱいだ。
まだ時間が早いのか、奥に高校生の団体さんがいるだけで他にお客さんはいない。

鉄板の上でじゅうとソースが焦げる音がした。

「彼女か、荒船の」
『・・・・』

いらぬ誤解を受けている気がする。
しかし、困った。沈黙が重たくてなんて切り出すべきかわからないぞ。

「霧絵さん?」
「あ、綱くん!」

よかった。
そう言えば荒船君が綱くんと影浦くんもいるっていってたな。

「オネーサン、ボーダーの人?」

今時珍しい髪形をした男の子がいる。あ、

「私は君のこと知ってるよ。冬島隊の当真くんでしょう」
「俺の事知ってるなんてお目が高いね、座れば?」

当真くんが隣の空いてると場所を叩くのでそこに座っていいようだ。
荒船君は綱くんの前に座る。

「おい、俺のぎゅうすじどこやった」
「荒船遅いから、ゾエさん食べちゃった」
「悪いな荒船」
「…霧絵さん、なに食います?」
「えーと、豚玉かな」
「すいませーん!!」
「うるせェな、叫ばなくても聞こえ
「か、影浦君?!」
「…」
「えーっ?!ここでアルバイトしてるの?ボーダーもやってるのにえらいね!!」

三角巾を被った景浦君に興奮して大きな声が出てしまう。
エプロンも似合っている。かわいいなあ。

「おい、クソ女呼んだやつ誰だ?」
「この店は影浦の家なんだ」
「えー!すごい!そうなんだ!!」
「余計な事言うんじゃねえ」
「影浦君豚玉ひとつ下さい」
「ぎゅうすじ」
「ピザ」
「北添はまだ食うのか」

影浦君が無言で注文をとっている。
つい我慢できずじろじろと見てしまう。そっか、影浦君は頑張り屋さんなんだな。
舌打ちをして奥に引っ込んだ影浦君を見送っていたら、何かを叩き付けるような音としかるような声が聞こえた。

「影浦君ってどじっこなんだね」

ツンデレとどじっこって属性てんこ盛りだな。
誰に言うでもなく呟いてしまう。店内を見渡しているとお好み焼きの種類の多さにびっくりする。

「お冷です」

どんっと机に置くので中身が少しこぼれる。
ふふふ、確かに働いてるところを見られるのって恥ずかしいんだよね。
笑っちゃダメだと思うと余計顔がにやける。

「お姉さん、カゲとも知り合いなの?」
「うん、あ、自己紹介まだだったね。私所属の巫条霧絵と申します。今日は荒船君にお誘いいただきました。よろしくね」

ぱちぱちと拍手が起こる。ちょっと恥ずかしい。
みんなも自己紹介をしてくれて、なんだか学生のころのようだ。

「豚玉とぎゅうすじとピザです」

なるほど、ここは自分で焼くスタイルなのか…。
たまに行くお好み焼きのチェーン店は店員が焼いたものを持って来てくれるスタイルなので戸惑ってしまう。
荒船くんと北添くんは慣れているのか手際良く作業している。

「焼くといいぞ、豚肉から」

迷っていると穂刈くんがアドバイスをくれた。
倒置法で喋るのは癖なんだろうか。しかし一応女子なのにお肉を鉄板に移すだけでぼろぼろ溢してしまった。
無茶苦茶恥ずかしい…。

「カゲ」
「チッ、お焼きしましょうか」
「すみません、お願いします」

見かねて助け舟を出してくれた。頼んだら焼いてくれるのか。
てきぱきと作業する影浦くんはかっこいい。
眺めているとあっという間に出来てしまった。

「熱いので気をつけてお召し上がりください」

お腹鳴りっぱなしのずっと待て状態だったので、影浦君の棒読みの注意を無視してかぶりつく。

「熱いっ、けどおいひい。影浦君、すごくおいしい。ありがとう」

驚くほど美味しかったので感情込めて伝えてみたけど、ノーリアクションだった。
まあ、いいか。

「これお持ち帰りできますか?」
「できます」
「じゃあ、3人分お願いします」
「かしこまりました」

心底めんどくさそうに奥に引っ込んでいった。

「他のもおいしそうだね」

北添君がおいしそうに食べるのでつい見てしまう。

「チーズがとろーっとしておいしいよ」

にっこり笑って一口分差し出してくれる。あーんだ。いいのかな。

「ん〜!!本当だ、おいしすぎる…」

お返しに豚玉を一切れあげる。

「最後はスタンダードに戻ってくるよね」

北添君は感慨深そうに頷いている。わかる、基本は大事だよね。

「そういやさ、なんで俺の事知ってたの?」

隣の当真君がほっぺを突っついてくる。
ソースがついていたらしい。大人なのにがっついてしまった。

「ああ、冬島君が当真君のことよく話すからさー。覚えちゃったんだ。」
「冬島サン?」
「うん、よく話すんだよー」
「へえ」
「あ!!そろそろ本部戻らなきゃ!お会計お願いしまーす」

出てきて2時間も経ってしまった。お腹を空かせた同期に夕食を届けねば。

「すっごくおいしかったよ影浦君!また来てもいい?」

お土産の包みを受け取りながら聞く。

「…勝手にしろ」
「ふふ」何だかんだ優しいなこの子は。
「それじゃあ、みんなも今日はありがとうね」

高校生に見送られて本部に戻る。みんな外まで見送りに来てくれて手を振ってくれた。
久しぶりに大人数でご飯を食べたけれど、こんなに楽しいものなんだな。
一人で食べるよりも時間も掛かるし、緊張もしたし、疲れたけどそれ以上に胸がぽかぽかする。
友達が増えたって喜んでいいのかな。

         ◇

「霧絵さんおいしそうに食べてたねー、カゲ」
「よかったなカゲ」
「うるせェよ」
「冬島くんって言ってたよな」
「いくつなんだ、彼女は」
「オペレーターじゃねーの?」
「年上っぽく見えなかったね、カゲ」
「がんばれカゲ」
「お前らマジで殺す」

         ◇

「じゃーん!おみやげだよー!」
「うわ、霧絵油臭っ」
「えー、着替えたのに」
「髪だな」
「えーん」
「うわ、うま。なにこれ」
「でしょでしょ!出来立てはもっとおいしいんだよ!!」

普段あまりご飯を食べない同期も美味しかったのかぺろっと食べきっていた。
私が作った訳でも無いのに誇らしい。影浦君に報告しよう。
もう21時になろうとしているのに、事務所に人が入ってきた。

「うわ、なにこれ、この部屋お好み焼きくさ」
「あ、雷蔵君いいところに。食べていくかい」
「なんかすごいうまいぞ」
「や、すぐ戻らなきゃいけないんで」
「そか、せっかく買ってきたのにそこらへんで寝てたやつらが消えちゃてさ」
「まだあったかいんですね」
「さっき作ってもらって急いで帰ってきたんだよ!」
「やっぱ貰ってもいいですか?」
「食べてたべて!独り占めするのが勿体ない位おいしいの」
「うわ…本当だ、うま」
「でしょー!」
「ぺろりっすね」
「もう一個食べる?」
「あ、いや」
「いっぱい食べる人お姉さんは好きだな」
「…そういうこと気軽に言うもんじゃないですよ」
「?」