注意
酔っ払った大人がいるだけ







ぬるい風をサーキュレーターがかき混ぜる。

夕方防衛任務が終わったやつから適当に集まって飲み始めたのが、いまから3時間くらい前のはずだ。

ボーダーの話から大学の話恋愛相談までなんでもござれなだった会も現在半分ほどの人数が酒に飲まれ、理性と判断力を手放している。


「おら、巫条そこで寝るな、パンツ見えんぞ、女子力はどうした」

諏訪がごろりと横になった霧絵の腰あたりを足蹴にする。

ううっと呻いて彼女が上半身を起こす。
アルコールが血の巡りを良くしているのか、顔だけでなく開いたシャツから真っ赤な首すじや鎖骨が見えた。


「えーん、すわこわーい。ぶりっ」

両手をグーにして顔の横で振っている。
多分ぶりっ子をやりたいんだと思う。色々間違ってるが。
とりあえずわかるのは完全に馬鹿にされてるってこと。
それでもちょっと可愛いと思ってしまうのが惚れた弱みだと思う。
ちくしょう。

「つつみんたすけてー」

巫条の腕がするりと堤の腕に絡まる。
こいつが年上だなんて、思い出す事も出来ないような細い腕が今日はピンク色になっていた。

「そーゆー顔してるやつが1番危ねぇんだよっ」
「いやだ、諏訪くん男の嫉妬は醜いわよ」

加古にかんぱーいと言われて、仕方なく持っていたビールを飲み干す。
台所にいたレイジが皿を持って帰って来た。

「風間、そいつは扇風機じゃないから首振りはできないんだ」

誰もが無視をしていたサーキュレーターに首振りの仕方を教える風間に声をかけた。
そうか。これが、優しさか。

それより、ズボンをここで脱いでどこかにいった太刀川は無事なのだろうか。
がちゃり、鍵のかけてない玄関が開く音がする。


雷蔵が入って来たと同時に眉を顰めた。
まあ、これじゃあそんなるわな。

「あー!!!らいぞーだあ!」

よたよたと巫条が雷蔵に駆け寄る。
俺の頭もぐるぐるしてきた。
加古は一体俺になにを飲ませたんだ?
味もわからなくなった今、部屋が波打っている。

風間はついにサーキュレーターを持ち上げて自ら回りはじめていた。





諏訪の部屋の鍵のかかっていない玄関を無遠慮に開け中に入れば、そこはすでに良識な人間がいない世界が広がっていた。暑いしビールが飲みたくて仕事を置いてきたが、うん、これは見なかった事にしよう。
立ち止まった足を再び玄関へと向ける。
その背中に無遠慮な衝撃が走る。
どうやら巫条が体当たりしてきたらしい。

「らいぞーくん!このお腹はけしからんぞー!!こちらへどうぞー」

急にお腹の肉を掴まれさっきまで巫条が座っていたところに連れて行かれる。
こんなに酔っ払ったところははじめてみた。
普段から年上の大人なお姉さん、とは思っていないけれどこれはさらに心の壁をなくすなあとひとりごちる。

椅子の役目を仰せつかったので、巫条に寄りかかれつつも勝手にローテーブルのだし巻き卵をつつく。
木崎は今日もいい仕事をしてるな。

「お疲れ」

堤が持ってきてくれたビールで乾杯するも諏訪の目が怖い。
多分腕の中で巫条がふにゃふにゃとしてるのが原因だと思うが、いやこれ、羨ましいか?

「もー、お前らやだ。レイジここ座れ」

諏訪が泣きながら、木崎を呼ぶ。

酔ってないと思ってた木崎が、諏訪を包み込んであげてるところをみるとかなり酔っているらしい。
あれ多分、明日覚えてないな。可哀想に。
とりあえず携帯を出して連写する。

それを見てふにゃふにゃしていた巫条が元気になる。

「なんだとー?!よーし、風間さん かーむ!!」

扇風機になっていた風間がとてとてと霧絵の膝に座った。

「よーしよしよし、グッボーイ」

その瞬間口からビールが吹き出た。
Good boyって流石にやばいだろう。
動画にしておけば良かったと後悔した。

霧絵はビールが掛かったことには触れず風間を撫で繰り回している。

加古と堤が肩を震わせながら、カメラを起動した。
バーストする音が薄く開けた窓から夜に溶けていった。

「あー、面白い。霧絵の可愛い写真を二宮くんにも送ってあげましょう」

窓から入ってくる風は、朝の匂いが微かに混じっていた。
ああ、もうすぐ新しい朝が来る。