「あ、当真君」

ボーダーの裏側にあるひっそりとした出口からごみを持って出るとリーゼントの彼がいた。
ごみのまとめ場があるだけなのでここに来る人は少ない。
そもそも、この出入り口を知っている人があまりいないのだ。

「おー、霧絵サン。この前ぶりじゃん」
「めずらしいところであったね?」
「ここで他人にあったのは初めてだな」
「わたしも」

とりあえず目的を果たそうと当真くんの前を横切って、ごみ捨て場に持って来た物を入れる。
当真くんは、なんでこんな所にいるのだろう。
目隠しに植えてある木の枝に生い茂った葉っぱが揺れる。
今日は爽やかな天気だ。空も青くて気持ちがいい。

「お昼寝したくなるね」
「人も来ないしな」

当真君が座っている隣に座る。
あー、目を閉じると本当に寝てしまいそう。

「霧絵サン冬島サンと仲いいっつってたけど、年いくつ?」
「27だよ」
「はぁ?!」
「それはどういうリアクションかな?」
「見えねー!」
「うーん、これでもがんばってるんだけどなぁ」
「アラサー?」
「そーだよー」

首から下げていたIDを外して中に入っていた社員証を出す。
当真君が受け取ってしげしげと眺めている。

「まじかー、そんなに違わないかと思ってた」
「んー、でもね、わたし実は生まれてから27年経ってるんだけど、5年分位記憶がないの。
だから気分的にはこの前成人した感じ。なのが、でちゃってるんだよね。多分。」

そんな事じゃダメだよねー。なんて言いながら、居たたまれなくなって足をぶらぶらさせる。

「記憶喪失ってやつ?何かあった、んですか」
「ふふふ、ため口でいいよ。
ううん、トリオン体のまま寝過ごしちゃった」
「?」

当真君は寝過ごしたというのが、何かの比喩だと思ったみたいだが言葉の通りだ。

ある日いつも通りふらふらっとボーダーに来て、何人かと模擬戦をした。
なにもかも通常通りで、日常で、特に変わったことはなかった。
ただ、ラウンジで休憩していたらどうしようもなく眠くなったので、目を閉じた。
私にとったらそれだけ。
ちょっとおかしかったのは、そのままトリオン体で何年も寝てしまっていた事。
寝ている間鬼怒田さんを中心にものすごく迷惑をかけたことだけはわかったので、いまはこうしてボーダーで働いている。大学は休学にしてくれていたけれど、世間と色々ずれているのがめんどくさくて辞めてしまった。
むしろ大学中退の訳ありをきちんと社員として採用してくれた方がわたしのちっぽけな貢献よりありがたいことだから、恩返しはこれからかな。ここで私が出来る事ならなんでもやりたいの。

そこまで話して当真君の顔を見る。とくに表情はない。

「ふーん、で霧絵サンは結局何歳なの?」

なんて誤魔化されてくれない男なんだ。空気読まないと女の子にはモテないぞ。ぷんすか

「気持ち的には23くらい。ちなみに肉体もそのくらい。」
「原因は?」
「結局なにもわからなかったよ。でも、起きてから1年間は検査漬けで大変だった…」
「そりゃ大変だな」
「あ!そう言えば、これ機密事項だから基本秘密ね」
「…」
「年齢とかは言ってもいいけど、トリオン体で意識不明は絶対ひみつ」
「…」
「わたしの首飛んじゃうかも」
「はーい」

目を閉じても太陽の光がちらちらしている。
こんな話、高校生の男の子捕まえて話してはいけなかったのに。
片棒を担がせて、どうするんだ。

「良い子の当真君にはお姉さんが口止め料としてごはんを奢ってあげよう」
「俺に話してよかったのか?」
「私こそ話してごめん。誰かに聞いてほしかったみたい」
「なんでいま?」
「…太陽が眩しかったから」
「?」
「よーし!今日はラーメンに行くぞー」

理由なんてない。魔が差しただけ。