学校が終わったら寄り道をしないで本部へ行く。模擬戦はあんまり好きじゃない。けれど戦わなくても強くなれるようなタイプじゃないのがわかっているから防衛任務がある日以外はブースに閉じこもっている。戦うのが嫌いなわけじゃないけれど、弱い自分を何度も見させられるのが嫌だ。
ぼすん、と背中から落ちる感覚にため息が出る。もう何十回目ベッドの上に沈んだのかわからない。パネルに表示されているデジタルの時計を確認して荷物をまとめる。今日はもう帰ろう。
個室のドアを出るとすぐに人だかりが見えた。その野次馬の中に見知った顔がいるのを見つけて通り過ぎる時に隙間から覗くとどうやら駿が誰かと戦っているらしい。相手の男の子も駿と同じ歳くらいの背丈で二人ともスコーピオンを使っているようだ。たぶん駿の動きは相手の子に読まれている。追い詰められて余裕のなさそうな駿の顔の中に笑みを見つけて心臓がうるさいくらいに鳴った。
勝負がつく前に私は本部から逃げ出した。
家に帰ってリビングのソファーでぼんやりしていたら駿が帰ってきた。部屋に荷物を置きに行きもせず(私も制服から着替えてもないのだが)ゲーム機の電源を入れる。ああ、まただ。そのゲームは私がやろうと思って買ったのに駿がやるところを見るばかりだ。
「あれ?やりたかった?」
私の視線が気になったのか駿が手を止めて聞いてくれる。
「ううん、見てる方が面白いからいいや」
「ふうん」
私の返答に興味はないのか生返事を返してゲームの中を走り出す。剣が壊れたらその辺に落ちているものを拾って敵を倒し、敵から武器を奪ってまた走り出す。ガードして敵の攻撃で相手を倒して落とした素材を嬉々として拾っているのを見て、そんなに強いなら寄り道ばっかりしてないで早くゼルダを助けてあげればいいのにと思う。
「楽しい?」
「え?ゲーム?楽しいけど」
駿は一瞬訝しげな表情をしたけれどすぐにテレビ画面に向き直った。猫毛の明るい髪に癖がついている。手を伸ばして直してあげたいけれど、それは私には許されていない。
「怖くない?」
「んー、何が?」
なにもかも、と口にしかけて思考と会話がごっちゃになっているのに気がついた。好きになるのが怖いのか、それを認めるのが怖いのか、気持ちを拒絶されるのが怖いのか、他人に断罪されるのが怖いのか。
「ま、負けるのとか?」
「あ!もしかして姉ちゃんも見てた?!」
何か強そうな敵と戦っているはずなのに駿がこちらを向いた。その真っ直ぐな視線にたじろぐ。「て、敵が……」と声をかけると「あー!」と叫んで再びテレビの画面に向き直る。
「え、見てたって何を?」
「遊真先輩との模擬戦に決まってんじゃん!」
模擬戦って帰り際に見たやつかな?と思い「すごい人だかりだったね」と答える。そうかあの白髪の子はユウマくんというのかと思った。
「あの子先輩なんだ?」
「あ〜も〜!!!」
てっきり同級生かと思っていたら彼は駿より先輩らしい。でもはじめて見た子だったな。大きな声を上げた駿が、がっと振り向いてその辺に投げ出していた私の手を痛いくらいに掴んだ。
びっくりしてまじまじと駿の顔を眺める。
「次は勝つから」
「え、うん。駿強いもんね」
「勝つから」
「が、頑張って?」
家族と一緒にいる時にはあまり見ない真剣な顔で言うので言葉の意味が理解するとことまで入ってこない。寝癖ついてても駿は格好いいななんて思っていたらゲームを再開した彼に「姉ちゃんのせいで負けたじゃん」と怒られた。
熱くなった頰が冷める頃に母さんがご飯が出来たと呼ぶ声が聞こえた。