ぬるいですが、いたす場面があるので注意
前回に引き続き
生駒がエセ関西弁、標準語を使用します






シャワーの音が聞こえる。
重たい瞼を開けると知らない天井が見えた。
綺麗でも新しくもない天井。糊の効いた硬いシーツ。
枕元の灯りはオレンジ色に暗く調節されている。
はじめて入ったけど、ここはご休憩が出来る系のホテルだ。
ひと眠りしたら、アルコールは随分とんだ。

だから、この気持ちはお酒のせいじゃないと思う。

でも、生駒の事はそんなに好きだったんだっけ。

わからないけれど、触れられたいと思う。
シャワーからタオル一枚で出てきた生駒が何かを言う。
眠気と身体の火照りを持て余している私は無言でじっと目線だけで起きている事を伝えた。
二人分の体重でベッドが軋んだ。

生駒の目の中にじわじわと欲が生まれるのをエロいなあと見ていたけれど、瞳の中に映る自分の方がいやらしい表情をしていた。
伸ばされた手のひらが耳を掠めて身体が跳ねる。
気持ちがいいわけじゃない、ただ興奮しているだけ。
ゆっくりと近ずく唇に、これ未成年淫行で捕まったりしないよね?と考えてから目を瞑った。

男の人の唇も結構ふにふにしてるなぁと、差し込まれる舌に自分のを絡めながら思った。
はじめてするけど、こんな感じでいいのかな。
なんか映画のとちょっと違う気がするのは日本人の鼻が低いからなんだろうか。
溢れそうな唾液を飲み込んで、気がつく。生駒ってこんな味がするんだ。

なぜか胸がぎゅうっと締め付けられて、目の前の硬い髪を頭ごと抱きしめた。





「…いやいや、あかんやろ」

据え膳食わぬは男の恥だけど、するより先に言うことがあったやろ、俺。
はじめての興奮の他にロマンも段階もない現実に罪悪感みたいのが込み上げる。

告白は遊園地のデート最後の観覧車が天辺に登ったところで。
手を繋ぐのは三回目のデートで映画の帰り道。
キスは水族館デートの後、夕日が沈む頃。
初体験は三ヶ月経ってから、俺の部屋で。

童貞の描いた夢が浮かび上がる。しかし俺は大人の男になってしまったんやな。
むっちゃ霧絵チャン可愛かったな。
初めて聞いた、鼻にかかった甘ったるい声を思い出して、また熱がぶり返しそうになったので冷たいシールに身体を投げた。
よし、明日朝起きたら男らしく決めたる!と意気込んで寝ることにした。
ちらりと横を見ると霧絵チャンの小さい頭が見えた。
ダメだ、奈良公園の鹿さんよりかわええ。
悶えているうちに、夜が明けていった。





「ぃ、生駒くん。おはよう」
「ええと、おはようさん」

昨夜の熱がこもったままの室内は、カーテンの隙間から差す朝日に照らされている。
所帯なさげに彼女の手は宙を舞う。

「えっと、昨日の夜は、なんて言うか、誰でもよかったとかじゃなくて、私も初めてで、生駒だったからって言うか…
でも、あの、最初から好きだってわかってたんじゃなくて、途中で気が付いたってゆうか。えっと、こんな風になってから言うのもあれなんだけど、と言うか、そんなつもりじゃなかったら断ってもいいんだけど、いや断ったら殺すけど。いや、そうじゃなくて…」

あーとかうーとか唸りながら話す年上の彼女は、致している時の艶っぽさから一転して愛らしい。

「霧絵チャン、裸でもめっちゃ可愛いんやけど、とりあえず服着てから話さへん?」

鎖骨にサラサラとかかる髪やチラチラ見える谷間のせいで会話に集中出来ないので、思いっきり身体をガン見したまま言った。

「*っ!!砕け散れ、アステロイド」

顔面で白い枕を受けつつ、彼女の腕を掴む。
「        」

耳元で告げた言葉に彼女の身体が赤く染まる。

今、この胸をしめる気持ちを君に伝えたい。


そんなに好きじゃなかった  後編 終