「霧絵さん大丈夫だったかなあ?」
「何かあったの?」
首を斜めに傾けなから出入口の方を見つめる姉さんに声をかける。
先ほどマシュと食堂に入ってきたところで、何やら慌てた様子の霧絵さんとすれ違った。
「かなりお急ぎの様子でしたね」
マシュも姉さんの視線を追ってか霧絵さんの走っていった方を見ている。
霧絵さんは数少ない僕たちと同じ国の出身者だ。
もちろん他の国の出身の人達だって皆良い人達だけれど、霧絵さんと話しているとなぜか落ち着く。
こういったら失礼なのだけれど、お互い非凡な才能を持った人達とは違うので話しやすいのだろう。
それに加え、育った文化が一緒だからちょっとした考え方や価値観が似ているのだ。
年は向こうの方が何個か上なのだと思う。
でもまわりのスタッフより童顔な彼女は、僕たちと同じ年くらいに見えてしまう。
カルデアでは年や国の違いはあまり関係ないのだけれど、魔術師として生きてきた時間が少なすぎて中々違う考え方が出来ないでいる。
「うん、お水こぼしちゃったみたいで透けてたね。心配……」
なにが、と言いかけたところで気がついて顔が赤くなった。
「姉さん!!!!」
「いたっ。なによ、このむっつりすけべ。それより、ねぇエミヤ知り合いなの?」
アーチャーは難しい顔をしたまま答えない。
サーヴァントは座に還ると記憶を失うはずだ。
もし二人が知り合いならば、このカルデアに召喚された後に知り合ったか、召喚される前の…生前の知り合いと言うことになる。
いや、アーチャーは他のサーヴァントと成り立ちが違うんだったっけ…?
「別に話したくない事は言わなくていいけどさ、霧絵さんの後追わなくて良かったの?」
「いや……、それより何か用があったんじゃないか」
「あ、そうそう!次のオーダーまでに話しておきたい事があって。いまいい?」
「ああ」
なるほど、ミーティングを兼ねて呼び出されたのか。
「じゃあ、僕ご飯取ってくるよ。マシュは何が食べたい?」
「あ、私も行きます。先輩たちはなにか飲み物でも?」
「そうだな、お茶か何か頼もうかな。エミヤは?」
「せっかくの申し出だ、温かい日本茶でも貰おう」
「了解。じゃあ、いってきます」
お昼からすこし時間がずれたせいで人がまばらになった食堂をカウンターに向かって進む。
「マスターは何を食べるんですか?」
「うーん、ラーメンでも食べようかなぁ。マシュは?」
「ええと、サンドウィッチか何かにしようかと」
ちらりと前髪の間からマシュの瞳が見える。
「ラーメン食べた事ある?これが結構美味しんだよ」
「……私も同じ物を食べてみても?」
「もちろんだよ!それで、もし気に入ったらなんだけど、僕のおすすめのお店が日本にあって」
話している途中で恥ずかしくなってきて声が尻すぼみになってきた。
別に、この戦いが終わったら君に伝えたい事があるんだ!みたいなそう言うのじゃないんだけどね?!
心の中で言い訳をしているとマシュがゆっくりと微笑んだ。
「はい、みんなで食べに行けるのを楽しみしています。」
僕たちは未来に手を伸ばし続ける。
◇
「それでロマニが言うには、私たちと契約したサーヴァントと接する人を選ばないといけないんだって。その人が優秀かどうかより私たちが信頼?してる人のが良いらしいよ。魔力の波長?相性?なんかそーゆーのが関係してるとかしてないとか??」
「いや、その説明最早何もわからないよ……」
「それで巫条さんにしたいと言う事ですね?」
「そう!さっすがマシュ!!弟と違って話が早い!!」
姉さんがマシュの髪がぐしゃぐしゃになるのも構わずに撫でる。
「それをもう彼女に?」
「ううん、話す前に帰っちゃった」
それまで目を伏せて聞いていたアーチャーが口を挟む。
「それで、みんなはどう思う?私は霧絵さんならみんなと仲良く出来そうだと思うけど」
「賛成です。私は彼女と接する機会が多いわけではありませんが、とても良くしてくれます」
「マスターに従うのが務めだ」
「…もう決めてるんだろ?異論ないよ」
姉さんはバレたか〜と悪びれもせず笑っている。
「オッケー!ドクターに言っておくね。あ、それと私たちもレイシフトしてない時は霧絵さんのところに顔を出す事。えっと、数値には出ない人間の人間に関する知見が大切とかなんとか……?」
「うん、姉さんに聞いても仕方ないって事はわかった。その辺はドクターに聞くよ」
「あはは、じゃあ解散。明日のブリーフィングまで各自休むこと!諸々の連絡はドクターから来るからよろしくね〜」
「それでは失礼します」
姉さんはマシュの手を引いて去っていった。
残されたアーチャーの顔を見上げてみるが何かを考えた表情のまま動かない。
「いつも姉さんが強引でごめん」
「時々困らせられもするが、俺はお前たちを好ましく思っている」
「そっか、ありがとう」
その時アーチャーが何を考えていたのか。
遠くを見て笑ったその目がここではないどこを見ていたのか。
僕は、知らない。