くちびるが!くちびるが!くちびるが!!!!

柔らかかった!

温かかった!

あと、なんかいい匂いがした!!!

考えないようにしようと思うたび、
一瞬の接触がスローモーションで何度も再生される。

忘れようとするたび、一瞬の温度が何度もフラッシュバックする。

「うわあぁぁっぁぁ」





「…以上が、報告です!」

「……わかった、が、あいつはどうにかならんのか」

部屋の隅で青くなったり赤くなったりを繰り返して、奇声を発している少年を指す。

「ル・シアンくん!お座り!!」

「そしてお前はそれでいいのか…」

反対のソファーに腰掛けた少女は遠くを見ている。
ほっぺにチューくらいで騒ぐのもどうかと思うが、無断で舌を突っ込まれてこうしているのもどうなのか。
まあ、彼女には上げられる声がないのだが。

「先生はどう思います?」

やらかした方の少年は、真剣な目でこちらに問う。
確かに重要なのは、彼女の身体に潜むものの方だ。

「…心当たりはある。が、今どうにか出来るものではないな」

「アレ出ちゃったら不味いんですよね?」

「そうだ」

「ううーん、だって霧絵ちゃん」

彼女の黒い瞳が光を失った時、それは深い井戸の底のようになる。
覗きこんではいけないし、そこから湧き出るものを外へ出してはいけない。

本人はわかっているのかいないのか自分の両手を見詰めている。

数秒後、静かにそのまま手のひらを目の上に持っていく。
グッと押し込まれたところで、エルメロイII世は彼女の手首を掴んで顔から引き剥がす。

「…どうしてこう、思い切りのいい奴ばかりなんだ」

「ええっ?!自分の目潰そうとしちゃったの?おっとこらしー!」

「目を潰したところで、アレは出てくる。むしろ、取り返しのつかない事になるかもな。
何故今になって出てくるのかは、先日の呪いの所為だろう。その首の呪いは直接の原因ではないが、お前を不安定にしている要素ではある。それは、わかるか?」

こくり、と彼女は頷いてからそのまま下を向いた。

「いままで以上に、一人にならないように注意したまえ。可能な限りグレイをつける。無理な時はあいつらのどっちかを連れて歩け」

「僕達はヤバくなったらチューすればいいんですかっ?」

「…頬を抓るくらいでいいだろう」

「はーい!」

こんなものその場凌ぎに過ぎない。
それはわかっている。
もしかして彼女の中の物をぶち撒けるまでが作戦だったんじゃないかと疑念が頭によぎる。

いや、そうだとしても自分がやる事は何も変わらない。
それが俺がここに立っている理由だ。

握りしめた拳を膝の上に置いて下を向いている少女の顔に手を添える。
びくりと上げられた顔には動揺と諦めと不安が見て取れた。

そのままむにっと頬をつまめば、目がきゅうと丸まる。

「お前の学ぶ場所は取らん、安心しろ」

少女はつままれたままの不細工な顔で、ふにゃりと笑った。
多分、これでいい。
この先何が待っていようとも。

「流石のグレートビックベン☆ロンドンスター先生でも、それはセクハラだと思います!!」

「ファック」

こいつにだけは言われたくない。