開けっ放しの窓からはいってくる風がさらさらして気持ちがいい。
雨の音がして目が覚めたけれど、まだ夢の気配を引きずっていてうまく瞼が開かない。
涼しい風の中冷たいシーツに足を絡ませながらうとうとするのが好きだ。
「う、ん?」
何故だかあたたかいものを抱きしめていて、それは毛布かと思っていたのだけれど
とくとくとくと生きている音がした。
生き物…?

「なんで太刀川くんがいるの」

驚きで一気に目が覚めたものの不法侵入だよと続けた声はすこし掠れてしまった。

「霧絵さん事後みたいエローい」

太刀川くんがまわした腕に力を入れるのでおでこに髭が当たって痛い。

「ばかじゃないの」

ぺちんと太刀川くんを叩いてから起き上がる。
馬鹿なのは私だ。諏訪くんを見送った後の記憶がない。
でもマグカップを洗ってそのまま寝たはずなんだけど。

「ははは、霧絵さん寝起きすごいブス。かわいい」

腹が立ったので太刀川くんにクッションを投げつけてから洗面所に向かった。








「やっぱり霧絵さんのコーヒーうめえ」
「ありがと。それはいいんだけど、なんで太刀川くんベッドで寝てたの?」
「あ、家に呼んだのは覚えてたんですね。不法侵入なんて言うからどこから記憶がないのかと」
「ちゃんと覚えてます!諏訪くんはいい子だったのに君はやりたい放題なんだから」
「だって酔っ払うと人恋しくなりません?」
「なりま…せ…ん!!」
「嘘つくの下手すぎー」

髪の毛が寝癖まみれの太刀川くんがマグカップ片手に笑う。
土曜日の午前中、一週間の疲れで気だるい雰囲気に雨の降る音だけが聞こえる。
この音だけを聞くために、もう一度ベッドの中に戻りたい。

「霧絵さんピザ頼んでいい?」
「いやいや帰りなさいよ」
「お腹減らない?」
「…減った」
「家になんかある?」
「ない」
「ピザ食べたくない?」
「めっちゃ食べたい」
「泊めてくれたお礼に奢るよ?」
「よし!ピザを頼もう!!」

霧絵さんちょろいなーと言う声は無視する。
一人暮らしだとあまりピザを頼む機会はない。
もちろんお店で食べても美味しいのだが、宅配のピザにはそれにしかない魅力がある。
しかも天気が悪い日に食べるのは格別だ。
(配達のお仕事をしている人には申し訳ないのだけれど)

「餅がのってるのありますよ!」

太刀川くんがはしゃいだ声を出す。
本当にお餅が好きなんだなあ。でも

「私シーフードのってるのがいい」
「じゃあ、ハーフアンドハーフ?って言うのにしましょう」
「え、そんな豪華な…?」
「諏訪さんが払った昨日の飲み会の方がどう考えても高いですよ」
「た、たしかに」

社会人なのに諏訪くんにたかってしまった。
なにかお返しをしなければと考えたけれど、今時の男子大学生ってなに貰ったら嬉しいんだろう。

「太刀川くんって今欲しいものある?」
「えー "ピンポーン"
「ピザ来たー!!!」

いまなら5才児にも負けないピザへの気持ちがあると思う。
太刀川くんに渡されたお札を持って玄関に向かって走る。
受け取ったピザの箱はあたたかい。

「太刀川くんピザきたよーっ」
「この冷蔵庫コーラないんでビール飲みましょう」
「それ私のビールだし、昨日も散々飲んでたじゃん」

段々太刀川くんへの扱いが雑になってきたなと自分でも思っていたら霧絵さんいつもそれくらい素を出した方がいいと思いますよって言われてしまった。
なりたい自分に近づけるように努力してるだけなんだけどなあ。

戦えなくなった私は、戦っている子たちを守れる人間になりたい。
でもみんなに助けて貰ったり私の方が前向きな気持ちを貰ってる方が多い気がしてきた。

来週はなるべく色んな人に声をかけて回ろう。
そうすればやらなきゃいけない事も見つかる、はず、だ。

「太刀川くんありがとう!なんかやる気が出てきたよ」

思わず立ち上がってしまった。
太刀川くんはソファーに寝転びながら漫画を読んでいた。

「これ面白い」
「あ、うん。苺ましまろ面白いよね。リコちゃんハウスで三日は笑える」
「あばら骨」
「折れろ。じゃなくて、話聞いてた?」
「次はなに読もうかな」
「太刀川くん帰る気ある?忍田さんか風間くん呼ぶ?」
「じゃあキングダム読んだら帰る」
「それ帰る気ないやつ!!!」