朝、真新しいシーツのパリッとした感触を感じて起きる。
ああ、手も足も左右揃っている。

良かった。
偽物だったとしてもこの手足は私のものだ。
手放すわけにはいかない。

魔術刻印に無意識に触れているのに気がついて
思わず苦笑してしまう。

思い出した途端、私は魔術師になってしまったのだ。

そこには、恋や愛は残っているのだろうか。











「それで、戻ったのかな?」
「はい、おかげさまで…」

翌日ドクターとダヴィンチさんへ報告に行く。
元々私の認識の問題だったからふたりの前で歩いたり手を使ったりして見せる。

「よかったよかった。じゃああとは、見た目を整えれば大丈夫だね」
「そうですね、このままだと創りモノ感が強いので…」
「(球体関節可愛いに1票)」
「天才にまっかせなさーい!そーれ、薄っぺらな嘘(ドッキリテクスチャー)!」

「「な、なんだと?!」」

ダヴィンチさん曰く冨樫は天才とのことです。
私も異論はありません。

「ははは、ジョークだよジョーク。でも、ちゃんとした人間の見た目になっただろう?」

「あ、ありがとうございます」

「日常生活程度なら問題ないからね。じゃ、費用はお給料から天引きしておくからキリキリ働いてくれたまえ!」
「う、わかりました。他の皆さんにもよろしくお伝え下さい」
「うんうん、あ、あとアーチャーにはもう少し霧絵ちゃんの側にいてもらう事にしたから仲良くね」

「え、でももう大丈夫ですよ?」

「身体は、ね。良くも悪くも目立っちゃったからさ、君。護衛と思ってつけときなよ」
「は、はあ」

流石に魔力供給のことが引っ掛かって好きな人の顔が見れないんです!とは言えずに生返事を返す。

「どうしたの、嬉しくないの?エミヤ好きなんでしょう?」

「っ!!!!?」

「あっははは!なにロマニも驚いてるの?にぶ過ぎない?」

「でも、それはすごく昔のことで…!私なんか烏滸がましいにも程があります!」

「否定はしないんだねえ、あれだよ、Let me not to the marriage of true minds…」

「ええと、ソネットの第116番でしたっけ?」

「そう、続きはシェイクスピアにでも朗読してもらって」

「え?」

「そゆことだからじゃーねー」


びっくりしたまま固まったドクターと満面の笑みのダヴィンチさんに部屋から追い出される。
廊下には誰もいない。
いやいやいや、本当にね、好きとかそういうのじゃなくて、尊敬してるっていうか、そう!憧れ的なやつなんですよ!と心の中で言い訳をしながら廊下を早歩きで進む。
どこに行こうとかそんな事を考えている脳のキャパシティはない。

昔だってみんなのヒーローだったけど、いまは世界を救う本物のヒーローなのだ。

…こんな身体も中身もまがいものじゃあ釣り合わない。

誰もいない薄暗い廊下の真ん中で立ち止まる。


「だからあの時死んじゃえばよかったのに」


冷たい声は全てを凍らせる。
酸素はなくなり身体は動かない。

屍は恋をしない。
冷えた心にはなにも灯らない。

そもそも光など見てはいけないモノだったのだ。









低く響く声は詩を歌う。

人生を悲劇を喜劇を。

そこには偽物があり本物がある。



「真心と真心との交わりに、よけいな異議を
挟むのは慎んでもらいたい。相手の心が変わるにつれて
変わるような、相手の心が離れてゆくに従って
離れていくような、ーーーそんな愛は愛ではない。」

「言語道断な話だ!愛は嵐にあってもびくともしない
まさに盤石不動の航路標なのだ。
愛は、大海をさすらう小舟にとってはまさに北極星、
高さは測りえても真価は測り知れないものなのだ。」

「愛は、"時間"に弄ばれる道化ではないーーーたとえ、
その曲がった鎌で薔薇色の唇やほほが台なしにされてもだ。
慌ただしく月日がたっても聊かも変わらず、世界の終焉の
間際まで毅然として堪えてゆくもの、それが愛なのだ。」

「もしこれが誤りで、私の考えが嘘だとしたら、ーーー私は詩を
書かなかったも同然、この世に愛したものがいなかったも同然だ。」


ねえ、それがあなたの真実なのだとしたら
私は四月を愛すると誓う。
どんな結末が待っていようとも。



"Let me not to the marriage of true minds" William Shakespeare