屋根のない二階の渡り廊下に座り込んでお弁当を広げる。
晴れた空はどこまでも高く、空気はすみきっている。
どこからか煙の匂いがして、ああ田んぼを焼いているんだなぁと思う。

「ねえ、夏が終わってるんだけど」

今朝肌寒くて起きたのをなんか変だなって思ってたけど、夏終わってんじゃん!

「は?夏休みが終わった時点で夏は終わってるだろ」
「は?昨日まで無茶苦茶暑かったんですけど」

馬鹿にするように出水が言うので、こっちも喧嘩腰になる。

「つか、霧絵が俺たちとメシ食うのめずらしくね?」

米屋が不穏な空気を察してか話題の転換をしてくる。
気が利く子だよ、本当。
私は普段お昼は女友達と食べている。
女子との交流も大切な仕事である。

「なんかさぁ、夏休み明けたらみんな彼氏出来ててさぁ…」

話題についていけなくなっちゃってたんだよねぇ。
つい空を仰いでしまう。
別に泣いてなんかないんだからね!

「ふーん、お前が俺たちに向かってロケット花火飛ばしてる間にねえ」
「ごめんて、それは謝ったじゃん」

夏休みこいつらとずっと遊んでたのがいけなかったのか。
でもぶっちゃけ混んでる花火大会の打ち上げ花火を眺めるより、手持ち花火を(警察に通報されないように)やる方が面白いと思うんだよね。

「あんた達私に黙って彼女とか作ってないでしょうね…?」

ふと怖くなって若干声が震えた。
いくらこいつらでもボーダーは人気だと聞いたことがある。

「と思うじゃん?」

米屋がにやりと笑う。
出水は特に表情を変えてない。こっちのが怪しい。
私たちを無視してお弁当を食べる秀次に掴みかかる。

「秀次は不純異性交遊とかしないもんね!私達だけでも清く正しく生きていこうね!」

迷惑そうに眉間に皺を寄せる秀次に肩を組む。

「霧絵、人はいつか大人になるんだぞ」

米屋が諭すように肩に手を置いてくるので秀次の首に回してない方の手で払う。

「アヤカもミホもユミコもたぬきも階段を登ってしまった今、最後の砦は私しかいないんだもん!」
「伊藤さんも木村さんも小川さんも…、って一人人間じゃないのいなかった?」
「オレクラスの女子の階段レベルなんて知りたくなかった」
「何よー!みんな!!恋がなんだ愛がなんだ!」
「飯が食えない」

秀次の顔を両手で固定する。

「好きですってか、私だってキッスのひとつやふたつ」
「おい」
「やめろ霧絵早まるな」

ぐぐぐと秀次の顔に自分の顔を近づける。
日に焼けてなくて綺麗な白い肌、前髪が長くて良く見えないけど綺麗な瞳。
顔色はいつもちょっと悪いけど整った顔立ち。嘘、秀次って結構格好いいじゃん。

しかし米屋と出水に全力で引き剥がされた。

「お前そう言うの良くないぞ!」
「てかお前も避けろよ!!」

秀次は再びお弁当を食べはじめた。
しかしあんなちまちま食べて女子なのか。

「別に口にチューしようとしたわけじゃないもん」
「そう言う問題じゃねえ!!!」
「出水ってうるさいよね」
「おい!!!」

はあ、なんか面白いことないかな。
足を投げ出してだらっと座っているとまた出水に注意される。

「パンツのひとつやふたつガタガタ言わないでよねー」
「それ見られる側が言うやつか?」
「別に今日のは見られてもいいやつだもん。あ、この前米屋と買いに行ったやつだよ!!」
「まじ?オレも今日それ」
「は?俺そんなの聞いてないんだけど」
「二人でお揃いにしたんだよねー?」
「なー?」

ぴらっとスカートをまくって柄を見せてあげる。

「おまっ!!!!」

出水が顔を覆ってる。
いやこいつ彼女いねーな。

「巫条に彼氏はまだ早い」
「え?!なんで?!」
「秀次に言われたらおしまいじゃね」

米屋が笑いを堪えきれていないまま話しかけてくる。
失礼な奴め。

「もう一緒にパンツ買いに行ってあげないよ」
「いやだ霧絵ちゃんのいけず」

「いや、本当お前らなんなの…?」

ぐったりしてる出水に笑いがこみ上げてくる。

夏が終わってもこの時間が終わりませんように。
ずっとずっと笑ってられますように。

立ち上がって背伸びしながら深呼吸をする。
乾いた風に秋の匂いがする。

「出水のむっつりすけべー!!!!」

大声で叫ぶとすっきりしたのでお弁当の残りをかきこんだ。