涙の雨に墓石ぬれて
さようなら、私のかわいいひと!

さ、馬車を!
おやすみなさいまし、みなさま、おやすみなさいまし。
ほんとに、おやすみなさいまし、

おやすみ。














「せんせー!このランチパックなんかベタベタしませんか!!」
「…………はあ」
「パンだろ、バターとかじゃないのか?」
「ル・シアンくんおっくれってるー!極東でしか手に入らないこのランチパックってパンは手が汚れないのが売りなんだよーだ。うーん、おっかしいなあ、ね、グレイちゃんもそう思うでしょ?」
「あの、先生続きを…」

ソファーには血の気のない顔をした少女が横たわっている。
ロードがひとり対面のソファーに体を沈め、その周りを少年少女が思い想いに取り囲んでいる。

「未来視の魔眼の話だったな。これには二つある"予測"と"測定"だ。人間が持っている大部分の未来視は予測だ」
「予測と測定ってなにが違うんですか?」

脱線した話をレールに戻したカウレスが質問をして話の軌道を確保する。

「予測は人間が進化の過程で捨てた、万象を高度な情報処理によって導き出される結果を見ているに過ぎん。
言い換えれば、予測の未来視を持った人間は"数分後の未来"を視ているのではなく、現実を作り出す"数分後の結果"を視ているんだ」

「んんん、じゃあ測定の方がすごいんですか?」

先ほどまでパンに意識を向けていた少年が指を舐めてから軌道に乗った列車を追い越す。
頭の回転は目を見張るほど早い。

「仮に、測定の未来視が存在すると仮定すれば、だがな。
測定は、自らの行動を持って時間軸を固定し視た未来を決定する。故に、自分の欲しい未来を用意する事が出来る。

…簡単にまとめるなら未来を読み上げるのが予測なら積み上げるのが測定だ」

なるほど、とフードをかぶった少女が納得をしたように何度も頷く。
ソファーの上の少女がぴくり、と身じろぎをした。

「…霧絵さんの魔眼は魔力を視る能力だったのではないですか?」
「本人がそう思い込んでいただけだとしたら?」
「…それは」
「彼女は色が見えると言った。
最初彼女が呪いを受ける事になった時、禍々しい色が見えたのであとをつけたそうだ。
彼女には青崎青子の制御が掛かっていた、本来は映像で見えるはずの未来がただの色で見えていたとしたら?」

「んぅ」

少女が身体を起こしたので、その場の全員が彼女へを意識を向ける。
いち早くフードを被った少女が彼女の元へと駆け寄る。

「霧絵さん大丈夫ですか?先ほど意識を失われたので、こちらへ運ばせて頂きました」

起こされた上半身に少女が手を添える。
目を薄っすらと開いた黒髪の少女は短く悲鳴を漏らすとキツく目を閉じた。

そして自分の両手を両眼の奥へと突き立てようとした。


「わあああああ、待って!!!なに?!どういうこと?!」
「わあ!思い切りが凄くて時計塔抱かれたい魔術師ランキングも大荒れだよ!!!!」

スヴィンに両手を捕まれ万歳の格好で霧絵は停止した。
詰めていた息を吐く。

「ミス巫条なにを視た?」
「死を」
「そうか、カウレスは生きている」
「…いえ、視たのは…っ…」

彼女は身体を震わせ俯いて視るのを拒んでいた。
少女がぎゅうと抱きしめる。

「霧絵さん大丈夫、大丈夫です」

「カウレスの死じゃなかったんだな、君が視たのは」

震える少女は小さく頷く。

「恐らく、近い死を、視るんだろう。あくまで可能性の話だ、決定事項じゃない」

彼女は無意識に人間の死を、世界の終わりを集めているのか。
それとも…。

彼女の真っ赤な唇が薄く開く

「人間はこんな風には死なない

…じゃあ、これは死じゃない…」


「私が視てるのは死じゃないんだ」


うわ言のように言葉を紡ぐ少女を墓守の少女がきつくきつく抱きしめる。
彼女を暗くて寂しいところにひとりにさせないために。

だらりと投げ出された白い腕は誰も求めない。

静かな部屋に鈴の音が鳴ったような気がした。