秋。

運動するのにいい季節だけど、トリオン体じゃ関係ないしどちらかというと食欲の秋を満喫したい気分だ。
三輪隊の隊室にお菓子を持ち込んでごろごろする。
ちなみに無言の圧力をかけてくる奈良坂は期間限定のたけのこの里で買収済みである。
古寺くんは可愛いので隣にはべらしてみた。


「ねえ、出水なんか面白い話してよー」

向かいで米屋と出水がゲームをしているので暇だ。
古寺くんに新発売のモンブランポッキーを差し出すと、躊躇いながらも食べてくれた。
小動物みたいでとんでもなく可愛い!のでよしよししてあげる。

「暇ならお前もマリカーやれば?」
「だってデイジー使えないんだもん」
「そのうち使えるようになるけど、うわー抜かされた、ダルっ」
「ねぇ〜暇だよ〜」
「そういえばなんで三輪いないん?」
「あー、なんか会議って言ってたような?」
「ふーん。あ、霧絵蹴んな!!」

暇すぎてつい足がぶつかってしまったようだ。
仕方ない甲斐性のない奴らは放って置いてかわい子ちゃんとお喋りしよう。

「古寺くんは彼女とかいないの?」
「や、あの」

ふふ、照れている顔もいい。
ウブな子は眼福である。

「おーい、うちの隊員いじめないでくれるー?」
「いじめてない!え?いじめじゃないよね??」

慌てて古寺くんを見ると大丈夫ですと笑ってくれる。
やだ、本当にかわいい。

「うわ、プッカとか懐い」
「勝手に食べんなし!」
「霧絵サマお恵みください」
「いいよ!!」
「言えば許してくれるww 」

持ってきたお菓子を広げてあげる。
ピザポテトはチーズマシマシキャンペーン中だ。

「で、なんだっけ?霧絵が太ったって話?」

出水がドンタコスの袋を開けながら聞き捨てならない事を言う。

「え?!うそ太った?!」

立ち上がって自身の身体を確認する。
けれどいつも見ているからか違いがわからない。

「そんなことないんじゃないですか?」
「本当?まだ佐藤江梨子似?」

上着ををめくってお腹を見てみる。
うーん、これはいまお菓子食べたから出てるんだよ。
きっとそう。
古寺くんもああ言っている事だし大丈夫よ霧絵

「似でもねぇよ。つーか太ってねぇから腹しまっとけ」

古寺くんが飲んでいたお茶を吹き出してる。
反対にいた出水がお茶も滴るいい男になってしまった。

「え?大丈夫?」
「お前がわけわからん事いうから章平がツボった」

米屋が汚いものを見るように出水をちらりと見てからちょっと離れていく。

「……誰か着替え持ってね?」
「大丈夫だよ出水、三割増しで格好良くなってる」
「サンキュー、でもそう問題じゃないんだわ」

しかし、若い子のツボはよくわからん。
とりあえずポケットに入ってたハンカチを貸してあげる。

「じゃあ、霧絵さんは今日から太さんですね」

離れたところで見ていた奈良坂が急に会話に入ってきた。

「奈良坂話聞いてた?ぶっ飛ばされたいの??」
「いえ、ボンレスさんとかのがよかったですか?」
「よーし奈良坂、相撲で勝負だ!!」

しれっと悪口を重ねてくる奈良坂に仏の霧絵も激おこである。

「お前も煽るなよ!」

もう誰が止めたってやめてあげないんだからね!
着ていたカーディガンを脱ぎ捨てて、ワイシャツの袖をまくる。

「そのきれいな顔を泣き顔にしてやるぜ!」

四股を踏んでいたらドアが開いて秀次が帰ってきた。
踏み込みかけた足を止めたままこちらをぐるりと見回す。

「……なにやってるんだ」

「秀次ー!奈良坂がいじめる!部下の教育は隊長の仕事ですよ!!」
「抱きつくな」

軽く縋り付いただけなのに思いっきり投げ飛ばされた。
出水の上に落ちたのでそんなに痛くなかったけれど、下からは変な音がした。

「よねやぁ〜あんたの所の隊どうなってるのよー、こちとら女子なんですけど」

下のクッションから転がって、隣にいた米屋に泣きつく。
米屋はからは飲んでいるいちごミルクの匂いがする。
あったかいし、とくとくと聞こえる心臓の音も心地いい。

「あいつらはそれでいいんだよ!」
「ですよね!!」

目を閉じかけていたけど、頭上から聞こえた声に力一杯反応する。
古寺くんがまた飲んでいたお茶を吹き出した。

「ミーティングするから部外者は帰れ」

秀次にしっしっと犬でも追い払うかのような仕草をされた。
ちぇー、折角ごろごろしてたのに。
仕方がないので太刀川隊にでも行こう。

「出水起きて、会議するんだって」

まだ前髪が湿っている出水の腕を引っ張って起こす。

「いや、お前のせいだからな……」

腹部をさすりながら起き上がる。

「私だってぶつかりたくてぶつかったんじゃないんだよ。全く文句は城戸司令を通してからにして。とりあえずお菓子持って太刀川隊いこ」
「おー、ってお前しれっと城戸さん巻き込むなよ」
「そしたらさ、ちょっと眠たいから膝枕してよ」
「それ普通逆じゃね?」
「あ〜モテない男は嫌だね〜」

くだらない日常は明日もまた続く。
多分思い出す事もないような、たわいない会話たち。
生まれては消えていく、でも知らないうちに雪のように降り積もるなにか。
幸せってきっとそう言う淡いものなんだと思う。


隣を歩く出水の手をぎゅっと握る。
いつか離れて行ってしまう、その温度を確かめた。
生意気な猫みたいな瞳に自分が写ってるのを見つけて口を開く。


「ね、カーディガン忘れてきた」