大人夢主です。
現在非戦闘員






この街はたくさんの若者とちょっぴりの大人で守られている。

わたしは守られる側の大人だけど、
戦う彼らを支えられる大人になりたい。





4年半前突然現れた近界民。
それを撃退させた組織
"界境防衛機関ボーダー"

地球上の兵器が効かない近界民に立ち向かう実働部隊は、ほとんどが未成年である。第3新東京市で戦う少年少女ではないが、この世界の未来を守るのは子どもだ。

大人は感謝する事しか出来ないのだが、死への恐怖や生活への不安を彼らにぶつける人も少なくない。
人間は弱い生き物で、自分を守るために他者を攻撃してしまう。


警戒区域を出た先の郵便局へお使いに行った帰り道で、人集りが出来ているのを見つけた。
どうしたのかな、と視線を送ると制服姿の少年を数人の大人が囲んでいる。

「なにかありましたか?」

思わず近寄って声をかけると、一斉にこちらを向いた。
沢山の視線にどきりとしつつも様子を伺う。
囲われていた少年はあどけない顔つきをした男の子だった。
何度か見かけた事があるので、恐らく戦闘員の子だろう。

「あんたもボーダー?」
「この前の門発生で窓が割れたんだけど!!!」
「店の看板も落ちてこのままじゃ営業にならないよ」
「こーゆーのはおたくらが直すべきなんじゃないの??」


どうやら楽しくない話をしていたようで、こちらに向ける感情は良いものではない。
怒りというのは口から出すと、止まらなくなってしまうことが多い。
クレーム対応は謝罪が基本なので、高圧的に接するのは以ての外だが、下手に出過ぎるのもよくない。
苛ついた声から少年を隠すように前に出て、話を切り出す事にした。

「いきなり申し訳ありません。
私ボーダー本部職員の巫条と申します。お話されていたのは前回のゲート発生時の建物損害についてでよろしいでしょうか?補償金の請求には審査がありますが、全てボーダーにて対応させて頂きます。」

断言したのが良かったのか、過熱していた不満は一度落ち着いた。

「詳細なご説明をご希望でしたら、本日中に担当の者からご連絡致しますのでお名前とご連絡先をお教え頂けますか?申請書類のみのご請求でしたら、こちらのサイトにアクセスして頂ければ雛形をダウンロードして頂けます。」

この場で個々の損害内容に対する補償の内容について、曖昧な回答をしてしまうのは避けたい。

「また、こちらに記載されていますフリーダイヤルにおかけ頂ければ当機関のオペレーターがご対応致しますので……」

名刺を配りながら補償申請の流れを簡単に説明すると、住民の雰囲気が少し柔らかくなりきちんとこちらの話を聞いてくれているのがわかった。
本当に不安で仕方なかったのだろう。

「お話の途中で申し訳ありませんが、彼は訓練がありますのでお先に失礼させて頂きます。私は残りますので、他にもご不明点等あればお聞かせください。」

そういって少年を輪の中から連れ出した。
もう少し早く返してあげたかったなと思いつつ、自分の仕事用の鞄から先ほどお使いのついでて買ったお菓子を取り出す。
大人に囲まれていた少年はまだ緊張しているのか顔が強張っている。

「ひとりでがんばってえらかったね!」

少年の手にお菓子と自分の名刺を握らせると、力が抜けたのかぽかんとした顔で自身の手を見ている。

「これから本部行く予定だったかな?」

こくりと少年が頷く。

「それならよかった。私はもう少し話を聞いていくから1時間後くらいに開発室の手前の部屋に来れるかな?」

もう一度少年が頷くのを確認したので、もとの場所に戻ろうとすると小さな声がした。

「あ、ありがとう…ございます」

お菓子と名刺を見ていた少年がこちらを見てふわっと笑うので思わず足を止めた。
やっと目を合わせることができて安心した。
この子は強い子だ。
彼が歩いていく背中を見送ってから私も頑張るぞと意気込む。
近界民と戦うだけがボーダーの仕事じゃない。

「お待たせしてすみません。おひとりずつお話を聞かせて頂けますか?」

市民の声を聞くのだって仕事だ。
忘れないよう手帳にメモを取りながら、話を聞く。
あとで報告書を作成しなければ。

どうか三門市に住む人が、安全に安心して暮らせますように。


大人だってがんばる。