12/27 三輪隊オンリーWEB即売会「みわたいパ!」参加 書き下ろし
1/31 エワ即売会参加 無料配布作品です(前回より加筆修正あり)
昼間だと言うのに空はどんよりと曇っていて、コートの中にまで冷気が入り込んできた。
風がないのがせめてもの救いだ。
吐く息はどこまでも白く、自分の呼吸以外の音はしない。
まだクリスマスも迎えていないのに、厳かな静寂が新しい年の訪れを感じさせる。
自転車のハンドルをぐっと握りなおして本部までの道を急いだ。
太刀川隊の隊室につくと隊員でもないのに霧絵が寝ていた。
軽く足で蹴っても起きない。なにしてんだコイツ。
「あ〜、霧絵ちゃんね〜マリパしてたらボロ負けして拗ねて不貞寝しちゃったんだよ」
「幼稚園児かっ」
「出水〜スマブラやるぞ〜」
「うっす!」
◇
「ひま〜〜」
起きてきたらしい霧絵がペタペタと画面の前までやって来た。
「霧絵もスマブラやればいいじゃん」
腕に頭をのせて寝てたのか、頬にカーディガンの線がうっすらとついていた。
ちらりとよそ見をした隙に、残機が減っている。
え、なに?この一瞬で何が起きたん?
「もう負けるのやだ〜〜」
「霧絵ちゃん負けるの確定しててウケる〜」
柚宇さんが太刀川さんを吹っ飛ばしてからアピールしている。
完全に舐めプである。
「だって柚宇さんも太刀川さんも手加減してくれないんだもん〜〜!!!」
「なんだお前、そんな女子みたいなこと言って」
「太刀川さんなんてピンクのファルコンのくせして!全然二刀流関係ないじゃん〜〜!!!」
「キャプテンだから。俺キャプテンだから。つーか国近なんてガノンドルフだぞ?!」
「次はクッパ使うよ〜」
「柚宇さんのそーゆうとこ好き。あ!いいこと思いついた!!」
太刀川さんの膝の上に頭を乗っけたままスマホを操作していた霧絵が突然大声を出した。
「柚宇さ〜ん、ゲームキューブごと貸してください〜」
「え〜?じゃあ、なんか面白いことしてくれたらいいよ〜」
ふたりが会話している隙に、太刀川さん(ファルコン)のムーンウォークが鮮やかに決まる。
あれだ、絶対さっきの仕返した。
「マジふるぷりちゅ〜な柚宇さんにねがちゅるです。三輪隊のうにに〜なやつらに私のシビビーンな姿をぱぱらーんするためにスマブラを貸して下さい!」
がんばれ!おれのサムス!!
お前ならまだ戻ってこれる!!
「なにそれ〜?霧絵ちゃんおもしろ〜い」
「えっ、ハム語ですけど……もしかして柚宇さん履修しなかったんですか?」
ガチ目のトーンで話す霧絵に太刀川さんが吹き出した。
そりゃそーだ。なんだハム語って。
えっ、ハム語ってなに?
「すべってる霧絵まいち〜」
「心がアウチッチです!太刀川さんは私にちゃいっして下さい!!」
どうやら境界線の向こうにいたらしい隊長におれと柚宇さんは白目を向いた。
「やーノン」
「めちゅ〜!!!」
なにその動き……。
◇
「と言うことでやって来ました三輪隊隊室です」
あのあとすぐに荷物を持たされ仕方なく付いてきたものの
「いや、おれ全然追いつけてなーからな?」
「たのもう!!」
「さっきから無視すんのやめてくんね?!」
三輪隊の隊室の扉を開けるとそこには三輪がいた。
と言うか月見さん以外揃っていた。
「お前ら何しに来た」
怪訝そうな三輪に無表情な奈良坂、気にしてない米屋にリアクションに困っている古寺。
どうすんのかなーと思って横を見るとさも当たり前のように言い放った。
「奈良坂をぶっ飛ばしに来た!」
「そうか」
「そうかじゃねーよ」
思わず突っ込んでしまった。
三輪に冗談は通じないので、おそらく本気で受け取ってかつスルーしたんだな。
いまのやりとりで古寺が死んだ。
仕方がないので生きている槍バカとゲームキューブをテレビにセッティングする事に集中する。
「霧絵さんまた太りました?」
めずらしく大人しくしていると思った(霧絵に売られた喧嘩を買わずにの意)奈良坂がクリティカルヒットしそうな言葉を選んで挨拶をした。
三輪に何かを話しかけていた霧絵は、奈良坂の方を振り向いて拳を握る。
「てめーの敗因はたったひとつだぜ奈良坂。てめーはおれを怒らせた!」
効果はバツグンだった。
あれだな、こいつ昨日ジョジョ読んだな?
「つーか、なんで奈良坂霧絵に敬語なん?」
笑いを隠そうともせずに米屋が聞く。
三輪がめずらしくゲームに興味を持ったのかコントローラーを握っているがびっくりするほど似合わない。
なんだろう、おはじきとかしてそう。ルールわかんないけど。
「心の……距離だな」
わざとらしい間を置いて奈良坂が答えた。
また古寺が死んでしまった。やれやれだぜ。
「はあ〜〜〜?!あんた私のチョコ勝手に食べてるくせに?!」
「カロリーの摂取は程々にした方がいいと思う、という善意」
霧絵が奈良坂に掴みかかる。
いや、先に喧嘩売ったのお前だけどな?
「……用意をするんだ
てめーが生まれてきたことを後悔する用意をだ!」
手袋は投げつけられた。
一体何部から何部まで読んだんだ。
「だが断る」
逆に仲良しなんじゃねーのこいつら。
◇
「第一回【奈良坂】スマブラ【絶対許さねえ】ランク戦午後の部をはじめます!ルールは簡単、時間制限の大乱闘で撃墜数を競って頂きます!最後の一人になった人には生存点を加算、順位が一番下の人にステージの選択権があります!四人対戦ですので、じゃんけんで最初のメンバーを決めたいと思います!残った二人は実況で、負けた人が実況とチェンジです!質問があるやつは挙手!!」
じゃんけんに勝った霧絵がコントローラーを握る。
「お〜、思ったよりランク戦ぽいじゃん」
米屋が馴れた手つきで操作しながら2Pにエントリーする。
「フォックスってめッッッちゃ古寺くんぽい!!」
3Pにフォックスでエントリーした古寺に興奮気味の霧絵、それフラグじゃね。
「ドンキーも霧絵さんによくお似合いですよ」
4Pにマルスでエントリーした奈良坂が加えた先制攻撃に物理攻撃が出そうな霧絵を落ち着かせる。
ほら〜〜、自分でたてたフラグだからそれ。
お前なんのためにゲームキューブ運んできたと思ってんだ。
ゲームで戦いなさい、ゲームで。
「最初のステージはランダムです。それじゃあ、転送開始!
っと、霧絵隊員早くも場外です」
「あれ?!いま違うキャラ見てた!!!待って、タイムタイム!!」
「残念ながらタイムはありません!出遅れた霧絵選手を余所にステージ中央で3人が交戦中!三輪隊隊長はこれをどうみますか?」
「浮いた駒がとられる」
「なるほど。復帰直後は無敵状態ですからね、乱戦で浮いた隊員からとって点を取り戻したいところ、うわー!霧絵隊員奈良坂隊員のマルスを狙っていくも、華麗にかわされて返り討ちだー!」
「待って待って、超絶低空空中緊急回避はずるくない?!」
「相手が勝ち誇ったとき、そいつはすでに敗北している」
「完全にしてやられてて草」
「ベイルアウトしかしてなくて草」
「っはい。綺麗にメテオが決まりましたね。これはどうでしょうか」
「的がでかい割にリーチが短い」
「たしかに、霧絵選手は素手ですもんね。メテオを決めた奈良坂隊員なにか一言!」
「俺様の美技に酔いな」
「wwww」
「さてここでタイムアップ!なんと古寺隊員ベイルアウトなしで生存点が追加されます。撃墜数は米屋隊員が多いが自滅数も多い!最下位は奈良坂隊員にボコボコにされた霧絵隊員です。なにか一言どうぞ!」
「うわ〜〜〜〜〜ん三輪のばか〜〜〜〜」
「俺は関係ない」
「だって誰も勝たせてくれなかった〜〜〜」
「お前は手を抜くと怒るだろう」
「それはそれこれはこれ〜〜〜〜」
うわ、こいつ本気で泣いとる……。
「霧絵さん何か飲みますか?」
「う〜〜〜〜、よくできた子〜〜〜ボーテ100点!!コーラある?」
「お前年下に気を使われてんぞ」
「オレコーラならメッツ」
「え、おれペプシがいい」
「瓶のコカコーラ一択でしょ!!!」
「おい」
三輪が冷蔵庫から飲み物のボトルを持ってくる。
「これしかないぞ」
「二宮さんじゃん!!!」
「おいジンジャエールのこと二宮さんって言うなww秀次がきょとんとしちゃうだろ!」
「さっきの跡部で思い出したんだけど、菊丸現象ってあるじゃん?」
「そもそもそれを存じ上げねーわ」
「なんかイメージ?キャラ?で小さいって勝手に勘違いしてて実物の背のでかさに会う度びっくりするやつだよ!」
「なるほど理解?」
「でさ、太一と海くんって隣に並ぶとでかくてビビるよね!!」
「お前だけじゃね?よし、解説代わって第二回戦やろーぜ」
「え〜〜〜〜〜〜〜〜ん」
「お前相手にされなくて泣くのやめろよ」
「てゆうかさ〜、玉狛の新しい子いるじゃん?」
「飛ばせないムービーはじまった」
「んあ、もう会ったん?」
「めっちゃ有名じゃん!でさ、空閑くんと雨取ちゃんとさ柿崎隊の巴くんと弓場隊の帯島ちゃんでアイドル隊作ったらやばくない?」
「うわ〜、かわいいグランプリじゃん」
「普通に強くて笑う」
ボーダーの基地から出るとすでに太陽は沈んでいた。
警戒区域を出るまでは6人の影は遠くへは行かない。
視界から崩れかけた家屋が消えたところで霧絵が口を開いた。
「あのさ、こうやってさ来年も遊ぼうね。急に居なくなったりしないでね」
青く冷たい夜の空気の中で、彼女の瞼からこぼれ落ちるものを見た。