玄関のドアを開けると強い風が吹いて、薄い桃色の花びらが舞うのが見えた。
三角くんがふにゃりと笑いながら元気な声を出す。

「いってきまーす!」






昨日は天気が悪かったのであまり気がつかなかったけれど、天鵞絨駅周辺はとても活気がある。
きょろきょろと左右を見ながら歩いていると、ぎゅうと握られた手がひかれる。

「あのね、ここはねこさんの道なんだ〜、であっちがお昼寝するとこで、向こうはいいサンカクスポットなんだよ!」

三角くんが一生懸命案内をしてくれるけれど、なんと言うか独特すぎて役立てられる気がしない。
だけど三角くんが自分の大切な場所を教えてくれているのがわかるのでうれしい。

「ん〜、今日はねこさんいないねえ。レイちゃんには今度紹介してあげる」
「うん、ありがとう」
「おみのパンツ、さんかくの見つかるといいねえ」
「み、三角くん!そゆことは大きい声で言うと恥ずかしいから!」
「わ!そっかー、ひみつだもんね!」

三角くんが両手で口を覆っている様子はとても可愛いのだけれど、すれ違う人たちの視線が痛い。
いや、気にし過ぎだ。ただ三角くんが人目を引いているだけかもしれない。

「いたるお仕事おやすみだったら車でいけたのにね」
「ううん、三角くんも忙しいのに付き合ってくれてありがとう」
「レイちゃんとさんかく一緒に探すの楽しみだから大丈夫だよ!」

寝不足の支配人のかわりに買い物に付き合ってくれた三角くんは、よほど三角形が好きらしい。
電車に乗って案内されたショッピングモールは大きくて平日でもそこそこ人が入っていた。

お目当のショップに向かう間にも繋がれた手を握り返していいのか迷ってしまう。
ほどけないようにほんの少しだけ力をいれる。

「あ、三角くんここのお店見てもいい?」
「むむ、さんかくの予感…!」

ユニセックスのシンプルなラインのブランドなら入りやすいし、臣くんが使えそうなものが買えそうだ。
靴下やハンカチと一緒に陳列された棚を見つけて物色した。
何色が似合うかなと履いているところを想像して、急に恥ずかしくなった。
勝手に頭の中で脱がしてしまった事を心の中で謝罪しつつ借りたものに近いデザインと色のものを選んだ。途中気になったハンカチと一緒に掴んで売り場を後にする。
お店の中に入ってから別れた三角くんを探して早く買ってしまおう。


レジの方へ向かっていると三角くんがいた。
小物が置いてあるショーケースを熱心に覗き込んでいる。
隣に並んで一緒に中を眺めるとシルバーのアクセサリーが並んでいるのが見えた。

「このさんかくはちょっとお高い!」

確かに気軽に買える値段よりゼロが多い。
どちらかと言うとプレゼント用かな。

「あ、レイちゃん!おみのパンツあった〜?」
「うん、お会計してくるから待っててくれる?」
「わかったー!」

レジでプレゼント用に包装して貰って外で待ってる三角くんのところへ向かう。

「買えた??」
「うん、付き合ってくれてありがとう。もうすぐお昼だし何か食べてく?」
「オレおにぎり食べたい!」
「(三角形だからかな…)そっか、じゃあ寮に戻ろっか!」
「うんっ」





おにぎりを三角形にするのは得意だったので、三角くんにとても喜ばれた。
食べるのがもったいないなんてきらきらした瞳で言われてしまったら、胸に込み上げる衝動のまま思いっきりぎゅっと抱きしめたくなった。
かわりにいつでも作ってあげる約束をした。

「ごちそうさまでしたー、オレさんかく探しにいってくる!」
「あ、三角くんちょっと待って!」

部屋を飛び出した三角くんを急いで追う。
多分いま渡して置く方がみんながいる時よりいいだろう。
先ほど買ったものを紙袋から出す。

「今日買い物を付き合ってくれたお礼と、昨日助けてくれたお礼…です」

なんとなく気恥ずかしくて敬語になってしまった。
人に何かを送る時はすごくドキドキする。

「わ〜、なんだろう」

渡したのは青色のタオル地にオレンジの糸で三角形の刺繍がしてあるハンカチを見て、三角くんだ!と思って買ってしまったものだった。

「さんかくだ!!!」

驚いた表情の三角くんの手が伸びてくる。
日向の匂いがして触れられたところが熱い。
三角くんの身体は手だけじゃなくて全部熱いんだなと思った。




戯れに伸ばされた君の手が熱くて
ここまでついてきてしまったけれど、

優しいこの場所をもう手離したくないよ。