悲しい、夢を見た。
大切な貴方を守れないまま
失ってしまった。
そんな、夢を…………。






「…………」

私は、どこまで続くのか分からない森の中を彷徨っていた。
何故、そんな場所にいるのかというと……。
私には前世の記憶がある。
そして、それを知ったどこかの研究所の人達がそれを無理やり呼び起こそうと私を軟禁し、しばらく実験台にされ続けた。
確かに、その際に記憶が戻ったのは事実だけど。
……だけど、

「っ、ふっ……。ミカ、様…」

前世で初恋の人だった百夜 ミカエラ…ミカ様が、私の目の前で死んだ事も思い出してしまった。
前世ではミカ様は吸血鬼になり、吸血鬼と人間の戦いがずっと続いていた。
そんな中、人間側にいた私はミカ様を助け出す為、優様と一緒にミカ様の手を引いて走っていた……。





「優ちゃん! シノンちゃん……! どうして…。君達がいるべきなのはっ…!?」
「ゴチャゴチャ言ってんじゃねえ! ミカ、おまえを助け出す為なんだっ!!!」

優様はミカ様にそう強く言う。
それを聞いたミカ様は目を見開かせていた。

「そう、ですよっ! 私達は、ミカ様とまた一緒にいたいのですっ!!」
「っ、シノン…ちゃんっ……」
「ミカ様……」

後少しで、ミカ様を助け出す事が出来る…。
そう安堵していた矢先……

「!!? シノン! ミカっ…!!逃げろっ!!!」
「っ!? 優様っ…!!?」
「優ちゃんっ!!?」

吸血鬼の1人が私達の目の前に現れ、優様はその剣を止めようと阿朱羅丸で食い止める。

「ミカ!! シノンを連れて早く行けっ……!!!」
「!? そんな事っ…「おまえにしか、アイツを幸せにする事が出来ねぇんだよっ……」
「!!! 優、ちゃんっ………」
「ごめんな、一緒にいれたら良かったのに……」
「優、様…」
「だから、早く行けっ……!!!」

それは嫌だと答えようとしたけれど……

「! ミカ様……」
「…優ちゃん。責任を持ってシノンちゃんを守るから……」
「……そうか」

その時の優様の笑顔は、とても眩しく感じた。
優様のお陰で私とミカ様は数m離れた場所へ辿り着き……。

「シノンちゃん、寒くない?」
「いえ、大丈夫です……」
「そっか…」
「あっ……」

そっか、と微笑み掛けるミカ様に、久々に笑みを見れたな…と見惚れてしまう。

「? シノンちゃん、どうしたの?」
「あ、いえ。何でもないですよ……」
「それなら、良いけど…」
「あ、あははっ……! ミカ、様?」

無理くり誤魔化そうと苦笑いした瞬間、ミカ様の腕の中にいた。

「っ、シノンちゃん……。もう、離れないから…」
「……! …はい、私も……。ずっと、ミカ様のお側にいます…」

ミカ様の手が私の頬を触れ、

「シノンちゃん……」
「ミカ様…」

唇が重なり合うのを待つように少しずつ目を瞑った。その時、

「!シノンちゃんっ……!」
「えっ……!?ミカ、様っ…」

ミカ様の胸に剣が深く突き刺さり、鮮血が服を覆う。

「や、やあぁっ……!! ミカ様っ、ミカ様ぁあっ!!!」
「シノン、ちゃ…大、丈……」
「おやぁ? 裏切り者のミカちゃん、まだ致死量まで達してないのかなぁ?」
「っ、フェリド・バートリーッ……!!!」

フェリドを見た瞬間、我を忘れた私は限界まで戦ったけれど……。

「っ、うっ…ミ、カ、様……」
「シノン、ちゃん……。愛、して…る、よ……」
「わ、たし…もっ……」

ミカ様を助ける事が出来ないまま、私はそのままミカ様と向き合うように倒れ、……生を終えた。






「っ、あ…」

前世を思い出し、声にならない声で泣いていると……。
とても綺麗で蒼く澄んでいる湖が、目の前にあった。

「……」

何故なのかは分からない。
けれど、その先に行けば……。
そう思いながらゆっくりと湖の中に入り、向こう側へ徐々に足を運ぶ。
もう、辛い事をこれ以上思い出したくない……。
それに比べれば死は恐れる事ではないのかもしれない。
何もかもを全て投げ出そう……。
そう心に唱えながら目を閉じた。

「っ…!」

後ろから手首を掴まれた感覚がし、何事かと振り向く。

「っ。えっ……」

一瞬、目を疑った。
そこにいたのは……。
紛れもなく愛しいあの人だった。

「やっと、逢えたね。シノンちゃん……」
「ミ、カ…様、っ…! ふっ、う…うああぁぁあっ……!!!」

感情を抑え切れなくなった私はミカ様に強く抱き付き、今度は声を上げて泣いた。

「ごめんね…。ずっと、待たせてしまって……」
「う、うぅうっ…!」

泣いていて言葉が上手く言えず、必死に首を横に振る。
もう、逢えないと思っていた……。
だから…今、こうして逢えた事が私にとってここまで生きてきた理由なのだと深く感じた。

「シノンちゃん、今度こそ……もう、離れない。ずっと、愛してるよ…」
「わ、たしも…。私も、ですっ……! 愛してますっ、ミカ様……」

また聞く事が出来たミカ様の愛の言葉に応えてから、口付けを交わし合う。

「シノンちゃん。優ちゃんね、今は違う所にいるけど幸せに過ごしてるよ」
「……! 良かっ、た…」
「今度、一緒に会いに行こう」
「……はいっ…!」

もう一度互いの愛を確かめ合うように、今度は深く甘い口付けを交わす……。




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