「ぐぬぬぬっ……」
鬼呪装備の訓練を終えた翌日、俺はまた資料室に行って吸血鬼化について調べていた。けど……
「…だーっ! 何でこうも漢字ばっかなんだよっ!? 全っ然分かんねーよ!!!」
これ以上読んでも分からないと持っていた本を思い切り上に投げる。
「!? ゆっ優様!? 本、本がぁっ……!!?」
「! シノンッ…!?」
いつの間にか来ていたシノンが慌ててその本をキャッチしようとこっちに向かって駆け出していた。
「キャッ、キャッチですっ…!」
「おぉ〜っ……!」
シノア隊1のジャンプ力を見せ付けるように高く飛び、本当にキャッチした。
そんなシノンにすげぇ…と心から思っていたら、
「む〜っ…!」
「えっ……」
「ゆ〜う〜さ〜まぁ〜っ…!!!」
本を乱暴に扱うなと、2時間ぐらい説教された……。
「もう、次は気を付けてくださいね!」
「す、すみませんでした…。シノン、さん……」
やっと、終わった…。
そりゃあ、大切な資料をぞんざいに扱ったのは確かに悪かったけど……。
「で…どうしてあのような事をしたのですか?」
「え? いや、まぁ……」
こりゃあ、話さなくちゃだよな…と思いつつさっきの経緯を一から説明した。
そして、話を言い終えた後のシノンはというと……
「……。そ、そういえばそうでしたねっ…」
分かってくれたらしく、何故か苦笑いしていた。
…そこまで対応に困る事なのか?
「あっ、あの…」
「どうした?」
「私で、良ければ。読みましょうか? その本……」
「…えっ!?」
漢字がめっぽう弱い身としてはとても助かる事だと本気で思いながら、すぐにシノンの手を取る。
「ふぇっ!? 優様…!?」
「頼めるか! シノンッ!!」
「えっ、あっ。えと…はい」
「おぉっ! ありがとうシノン!」
「いっいえ…! では、どこら辺から読めば良いでしょうか?」
シノンがそう言った後、俺はとりあえず途中まで読んでた所に指を差し、すぐにシノンは音読を始めてくれた。
お陰でさっきまで分からなかった漢字が分かり、おまけにその意味も補足してくれた。
「…とりあえず、ここまでになりますが……」
「すげぇなシノン、本当に!」
「え、えっと……。そんなに、凄くないですよ…」
そう遠慮がちに言うが、以前研修教室にいた時のシノンの日本語の成績をふと思い出した。
冗談抜きで本当にすげぇよ……。
「い、一応国語は得意というか…。好きなだけですよ。本当に……」
「へぇ…! 俺は苦手だけどなぁ……」
「優様は吸血鬼の都市にいたのですもの。それは仕方のない事になりますよ。…そして、英語も私より凄く出来ていらっしゃるじゃないですか……」
「あ…」
その瞬間、一気に場が凍った気がした。
「…良いですもんっ! 日本人は日本語が出来てナンボです! 外国語なんて覚えなくても日本国内にいれば生きて行けますっ!!!」
いや、それを俺に抗議されても…と思ってもどうにもならねぇから大人しく話を聞く事にした。
しかも、涙目になってっし……。
「うぅうっ、どうせ私は英語が嫌いですよぉっ……!」
…何だろう、ここまで来ると可愛いとしか思えない。
「お、落ち着けシノン。俺がフォローすっから……!」
「本当、ですか…?」
「ああ、約束するよ!」
「…ありがとう、ございます」
「っ……!」
不意な笑顔を見た瞬間、思わず手の甲を口に当てる。
や、やっぱり…可愛すぎるっ……。
「優様、大丈夫ですか…?」
「あ、ああっ! だ、大丈夫……」
「それなら、良いですけれど…」
「とっ、とりあえず本読もうぜ!!」
「え? は、はい……」
苦し紛れに言った言葉に返事してくれたシノンは近くにあった本を手に取り、すぐに読み始めた。
「な、何とかなった…」
聞こえないよう呟いた俺も、さっき読んでもらった本を見返す。
で、それから10分くらい経ち……。
「フーンっ…。……!」
右肩に何か違和感を感じ、すぐにそっちの方を向くと、
「すぅ、すぅっ……」
「っ……!? シノンっ…!!?」
とても気持ち良さそうに眠ってるシノンの顔が隣にいて、大声を上げそうになったがすぐに口を押さえた。
「あ、ぶねぇっ……。にしても…」
気持ち良さそうに眠ってんなぁ…とそっと頭を撫でてみる。
「んんっ…。真昼、ねえさま……」
「……!」
そう呟いたと同時に俺の袖を弱く掴んでいた。
しかも、その名前は……
「姉ちゃんの夢を、見てんだな…」
前に、シノンとシノアには上の姉ちゃんがいると聞いた事がある。
さっき呟いたのも恐らくその姉ちゃんの名前だ。
「真昼ねえさま…。行っちゃ、やだっ……」
「っ、……大丈夫だ、シノン。姉ちゃんはもういねえけど、俺が…お前を守るから」
そうシノンに言った後、今度は上から手を重ねた。
「っ……。優、さま…」
「えっ…?」
寝ている、はずだよな……?
シノンの口から俺の名前が出て、思わず目を見開かせた。
「…私、もっ……。優様を、守りたい、ですっ…」
「シノン……」
「だから、だか、ら……。側に、いさせ…て……」
寝言なはずなのに、シノンの目には涙が溜まっている。
「……それは、俺のセリフだよ。シノン」
呆れるくらい自分よりも人の事を思って、優しくて、…儚くて。
だからなのか、そんなお前にいつしか惹かれてしまったんだろうな。
そんな気持ちを表すように、シノンの涙をそっと指で拭う。
これ以上、お前が泣くような事はしたくない。
そう、心から想える……。
「…優、様。ありが、とうっ……」
「ああ……。俺も、ありがとう…」
俺の言葉に反応したのか、シノンは寝ながらもふわりと微笑み、また気持ち良さそうな寝顔に戻った。
「……いや、これはいつか…な」
ふとあの言葉を言いそうになってしまったが、それはまだだと踏み止まった。
まだ言えねぇ事だけど、いつか、一緒にミカを救い出したその時までは…。
そう思いながら、起きるまで一緒に寝る事にした……。
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