「ふぅ…。優様、どこにいらっしゃるのでしょうか……?」

シノンはキョロキョロと周りを見渡す。
シノアに優一郎への伝言を頼まれあちこちと探したのだが、一向に見つかる気配がしない。

「もーうっ…。一体何をしているのでしょうあの人は……!!!」

分かりやすく頬を膨らませるが、状況は変わらない。

「えっと、まだ見てない場所は…」

探しながらどこを確認していないのか考えると、

「……一応、向かってみましょうか…」

ある場所を思い出し、そこへ向かうべく足を進めた。





「着き、ました……」

十数分経ち、ある場所に辿り着いた。
そこは、昔ミカエラとよく遊んでいた花畑だった。しかし、

「…変わって、しまわれたのですね。ここも……」

辺り一面を見る限り、花という花があまり咲いていない。
この時期でも、季節の花が咲いていたのに…と思いつつ、改めて世界が一度崩壊したことを嫌な程痛感させられる。

「……。えっと、優様は…………」

暫く感傷に浸り、一旦考える事をやめてから半周する。すると……

「…あ」

優一郎の姿が、そこにあった。
花畑からちょっとだけ離れた場所で寝転がっている。

「やっと、見つけました……!」

急ぐように小走りで駆け出す。

「優様! やっと見つけ…あれ?」

注意しようとしたのだが、顔を覗き込むと気持ち良く眠っていた。

「ね、眠っている……。ど、どうしましょう…」

流石に起こすわけには…と眉を下げながら困惑する。
このままだと伝言を伝えられない…と思っていた。その時、

「んっ……」
「…!」
「…あれ、何でいんだ。シノン……?」

優一郎がようやく目を覚ました。
しかし、若干寝ぼけているような表情を見せている

「ふぁ…。よく、寝たなぁ……」
「え、えと。おはよう、ございます……」

背伸びをする彼の普段なら見れないであろう一面が何だか可愛らしく思いつつ、挨拶をする。

「おう、おはよう……」
「…ハッ、優様! 今、お時間大丈夫ですか!」
「ん…?」

要件を思い出したシノンはすぐに内容を全て伝えた。

「…との事で以上になります!」
「おう、ありがとうなシノン」

伝え終えたシノンにお礼を言う優一郎。
まだ寝ぼけている感があるが、心の中にしまっておくことにし、ふと気になっていたことを問い掛けてみる。

「…あの、優様」
「ん、今度は何だ…?」
「……どうして、ここで寝ていたのですか?」
「…………」

その質問を聞いた優一郎はほんの少し沈黙し、こう答えた。

「いや、何となくだ」
「え、何となく……?」
「…って、言うのは嘘だ」
「……えっ?」

コロコロと変わる答えに、シノンはキョトンと目を丸くさせる。

「…優様! ちゃんと真面目に答えてください!!」
「いててててっ! 分かった、分かったって!!」

ポコポコッと少し強い力で叩くシノンを落ち着かせるようにポンポンと肩に触る。

「ハァ、何でそんなに怒るんだよ……」
「優様が、ちゃんとお話しないからですっ…!」
「…前に、ミカから聞いた事があるんだよ」
「!ミカ様、から……」

ミカエラの名前を出した瞬間、彼女の目が少し見開いた。

「ここは、大切な人との思い出の場所なんだって……。それ、お前の事だろ?」
「ミカ、様…」

シノンはミカエラの名を小声で呟き、ギュッ…と裾を握る。

「…だからさ、どんな場所か1回来てみたくてな」
「そう、なんですか……?」
「ああ。…ごめんな、シノン」

そのごめんは探させてしまったことへの謝罪なのか。
それとも、ミカエラを思い出させてしまったことへの詫言なのか……。
何も言わぬままそっとシノンの頭を撫でると、

「っ、優様は、何も悪くないですっ……」

とめどなく涙が溢れ出す彼女は、優一郎のせいじゃないと首を横に振る。

「シノン……。っ…」

シノンを抱き寄せようと手を伸ばすが、…どうしても躊躇ってしまう。

「…約束、するか?」
「えっ……」

顔を上げると、優一郎の小指が目の前に差し出された。

「また、ここに来る時は…ミカも、一緒に」
「優様……。は、い…。約束、です………」

泣きながらも笑顔を見せたシノンは自分の小指を優一郎の小指と絡ませ、指切りを交わす。

「おしっ…! 帰るか、シノン!」
「はい、優様……わわっ!?」
「こっちの方が、早いだろ?」
「え、えぇえっ…!」

何の前触れもなく手を繋がれ、引っ張られるように共に走り出す。
同時に、鼓動も一緒に鳴っている気がした……。




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