「俺ってさー」
「何よ、急に?」
「よく分かんねえけど、恋愛っつーもんに憧れてた? みたいなんだよなー?」
「…は?」

依音はラクスの一言に耳を疑った。
後ろから抱き付きながら軽々しく言ってきたその言葉にイマイチ信憑性を感じさせない。
どうせまたからかっているのだろうという解釈として捉えているが、とりあえずもう少しだけ話を聞く事にした。

「…何で疑問系なの?」
「だから、よく分かんねえって言ってんじゃん」
「いや、アタシもサッパリ分からないわよ。何が言いたいワケなのホント?」

最早、呆れ果てるレベルの話だった。
「やっぱりコイツは…」と眉尻をピクピクと動かすと、

「いつから依音の事気にしてたっけかなぁって思い出したら、何かそんな事考え始めたんだよ」
「……!?」

唐突に自分の名前が出され、咄嗟に目を大きく開かせながら彼の顔をガン見する。

「ん? どうかしたのかー?」
「な、何で…。アタシが関係してっ……」

次の言葉が出てこなくなり、自然と俯いてしまう。
まさか、自分がきっかけでそんな事を…と思うと更に顔が熱くなるが、

「まぁ、まさかお前みたいな暴力女を好きになるなんて思いもしなかったなーっ……」

ラクスは本人を目の前にして、サラッと余計な事を口にした。

「は? じゃあ今すぐこの腕どかしなさいよ?」
「嫌だ」
「拒否るな」

こんな事が起こると必ず頑なになるラクスは離さんと言わんばかりに腕の力をほんの少し強める。
それを知っている依音は、その時点で諦めがついてしまう。

「全く…それはこっちのセリフよ。まさか、初恋がアンタみたいな……」
「ん? 俺みたいな…?」
「…馬鹿ラクス」

言いかけたのだが、もし傷付けてしまったら…と考えた末、誤魔化すように寄りかかる。

「何だよー、勿体振んなよ」
「勿体振ってなんかないわよ。ただ、言うのが面倒くさくなっただけ」

ラクスは「はぁ…?」と首をかく。

「前々から思っていたのだけれど、吸血鬼にも恋愛感情が存在してたのね」
「全部が全部無いってワケじゃねーよ」
「どーだか。デリカシーもTPOの弁えすらも全く無いくせに」
「そんなのどうでもいい事だろ?」
「どうでも良くないわよ!!」

今まで溜め込んでいたものを全力でぶつけるように、グダグダと文句を綴る。
しかし、彼は「またか…」と思いながら話を流している。
これが2人のお約束だ。
そして、終わるタイミングはというと……

「いっつもいっつもアンタって奴は…「はいはい、もう分かりましたー」
「っ…!?」

唇で唇を塞がれた事により、怒りは徐々に蒸発していく。

「ま、またそうやって…〜〜っ!」

時間が経つにつれて徐々にうずくまる依音を見ながら、「チョロいな…」と頭をポンポン叩く。

「で、どうすんの?まだ怒るのか?」
「もう、知らないっ…」

何だかんだで、今日もラクスに振り回された依音だった……。




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