「…シノンちゃん、僕の顔に何かあるの?」
「……」
海辺の見廻りを終えたので一緒にいたシノンと共に近くの岩に腰を掛けたミカエラ。
その時から、やけにシノンの視線を感じていた。
「(いや、それはそれで嬉しいけど……)」
そう考えてすぐにハッと我に返り、小さなため息を付いてからもう一度問う。
「シノンちゃん、どうしたの?」
「…あっ!? ごっごめんねミカ君、つい見惚れてて………」
「っ…!?」
一体自分の何に見惚れていたというのか、と目を大きく開かせると、彼女は次にこう言った。
「ミカ君の髪、ふわふわしていて良いなぁ…って思っていたら、ぼーっとしちゃってた……」
「…髪?」
意外な所を指摘され、首を傾ける。
「うん。私は生まれつき髪がまっすぐだから、実はミカ君やシノアお姉ちゃん達みたいな髪質に憧れているんだ」
「……」
彼女の双子の姉と並べられ、少し複雑な気持ちを抱いてしまう。と、
「…あ、あの」
「何…?」
「もし、ミカ君さえ大丈夫なら…。髪、触っても良いかな?」
「良いよ」
即答で答えられた事に驚愕したが、許可を貰えたので恐る恐る腕を伸ばし、そっと触れてみた。
「わぁ、本当にふわふわ……」
とても触り心地が良く、いつの間にか両手で撫で始めていた。
「あの、シノンちゃん。出来ればそんなに長く弄らないでいてくれると……」
そう呼び掛けるが、声が届いていないみたいだ。
「良いなぁ、ふわふわ……」
生き生きとした表情を浮かばせながら撫で続けていると、
「…! これ……」
隙間から見えたものに目を見開かせ、少しずつ掻き分けていく。
すると、掻き分けた先にあったそれに思わず「えっ…!」と驚きの声を上げてしまう。
ミカエラの耳が、これまで殲滅してきた吸血鬼達と同じように尖っていた。
「っ…!!」
ミカエラは「見られてしまった…!」と焦り、片手で耳を隠そうとするが、
「ま、待って!」
「!! シノン、ちゃん……」
その手は、シノンの両手によって塞がった。
「…見たよね、今の。僕の、もう人間じゃない証の一つを……」
「ミカ君…。大丈夫、怖くないよ」
微笑みかけると、彼は申し訳なさそうに顔を俯かせる。
それもそうだ。
ずっと見られぬよう隠してきたのに、今日知られてしまったのだ。
「けど、僕は……」
「ミカ君はミカ君だよ」
「…!」
すぐに顔を上げると、シノンが先程と同じように微笑んでいた。
「優君の大切な家族で、皆にとっても家族で。何よりも、貴方は私にとって…っ!」
言い切る前に、気が付けば彼の腕の中にいた。
「それ以上、何も言わなくて良いよ……」
「〜っ…」
耳元で低く優しい声色で囁かれ、顔に熱が集まり始める。
「ミカ、く……」
「ありがとう、シノンちゃん」
「…う、ん」
甘くもどかしいその感覚に思考が上手く働かず、胸元に顔をうずめた。
やっぱり、こうなってしまう。
ハッキリと出ている今の想いを伝えたいのに、彼はまるで聞かないと言うように甘い罠を仕掛ける。
どうして、こうも簡単に言わせてくれないのだろうか……。
「ミカ君の、意地悪……」
切なく呟いた言葉は、既にミカエラの耳に入っていた。
しかし、敢えて言葉で返さず……
「…顔、上げて」
「え……? ん、っ…」
次第に深くなる口付けに想いが強くなっているのか、目尻に涙が浮かんでいる。
いっそ、このままこうやっていられたら…と思っているのを見透かされたのか、ゆっくり唇が離れていく。
「あ……」
名残惜しさから無意識に片方の指を唇にかざす。
「…どうしたの、そんなに物欲しそうな顔をして?」
「っ……。何でも、ないよ…」
また言わせてもらえないと悟り、首を横に振る。
そもそも、そう思っている事自体が贅沢だ。
「それじゃ、帰ろうか」
「…うん」
まだモヤモヤした感情を抱いたまま、ミカエラの後に続くように海辺から離れた……。
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