「はー、何かつまんねぇ」
「ゆ、優君……」

見廻りの最中に優一郎はつまらなさそうに空を見上げ、シノンはそんな彼に苦笑する。

「知人と君月が当番の時は3匹以上いるらしいのに、何で俺たちの時は全然いねぇんだ?」
「うーん、何でだろう……」

言われてみると…と考えてみると、ある答えが思い浮かんだ。

「…優君が殺気を放っているから?」
「マジかよ!?」
「ち、違うかもしれないけどっ……!」

ほんの少しの可能性を言っただけなのに彼はそれを真に受けたので、慌てて違うかもしれないと補足する。

「じゃあ、何なんだ…?」
「な、何だろうね……」

そんなたわいもない会話を交わしながら歩みを進めていた時、ふと思った。

「あ、そういえば…。優君の誕生日、聞いた事無かったかも……」
「ん…?」

ふと思った事をそのまま零してしまったのだが、優一郎はすぐに反応を示した。

「何で俺の誕生日なんだ?」
「うん……。ミカ君の誕生日は教えてもらった事があるけど、優君はまだだったなって思って…」
「確かに、ミカや孤児院の奴以外にそれを教えた事無かったな。ま、別に言わなくても変わんねえけど……」
「優君…。ごめんね、無理して言わなくても良いよ」
「……」

困ったような笑みを見せるシノンを一瞥し、

「別に、構わねえけど」
「え、良いの…?」
「その代わり、俺もお前の誕生日が知りたいっつーか……。あ、シノアと同じになるんだよな?」
「…」

シノンの表情が、少しだけ曇った気がする。

「シノン…?」
「言ったら、嫌にならない?」
「…? 何でそうなるんだ?」
「それは……」

言えれば簡単だが、どうしても口ごもってしまう。
何せ、自分とシノアの誕生日は世界が崩壊したのと同じ日だ。
偶然が重なったとはいえ、教えた事により嫌な事を思い出させたくない。
なので、親友である真音にさえも誕生日を教えてこなかった。

「…ミカは、知ってるんだろ?」
「え、うん……。小さい頃に…」
「なるほどな…。別に、誕生日がどうとかは気にしねえけど?」
「優君…………。あの、ね。12月25日…だよ」

震える手をそっと押さえ、真っ直ぐ彼の目を見つめながら辿々しくも伝えた。
その時、一瞬彼は目を見開かせたが……

「クリスマスに誕生日ってすげぇな! クリスマスケーキと誕生日ケーキで、2つ食えたのか?」
「……」

あまりにも単純な発想についクスッ、と笑ってしまう。

「お、おかしい事言ったか……?」
「ううんっ…! 寧ろ、言って良かったなって思った。ありがとう、優君」
「お、おう?」

何故お礼を言われてるのだろうか、と疑問に思いながら返事で返す。

「それじゃあ、優君の誕生日を改めて聞くね」
「あー、まぁ言ってくれたしな…。10月16日だよ」
「10月、16日……」

教えてもらったその日に覚えがあり、思考を巡らすと……

「……あ、紫苑の!」
「紫苑? って…あの時おまえがくれた栞の花だよな?」
「うん。優君の誕生日の花が、その紫苑だったと思うんだけど……」
「そうなのか?」

優一郎はポケットから例の栞を取り出し、そのまま凝視する。

「! その栞、持ってきていたんだ……」
「ん? まぁな。一応…"大事な物"だし」
「優君……」

そこまで大切にしてくれていたのだなという嬉しさから目を細め、

「私も、ちゃんと持っているよ」

以前優一郎から貰った桜草を挟んだ栞を出す。

「って、おまえも持ってたのかよ…」
「うん。本当は名古屋に行く前に家に置いておこうと思っていたけど、どうしても手放せなくて……」
「! 俺もそう思ってた…!」

会話の後、目を合わせる。

「お、同じ事をしていたんだね……」
「何か、偶然ってすげぇな…」

一瞬沈黙し、同時に吹く。

「もしかしたら、栞が呼び掛けていたのかな? 置いて行かないで!って…ハッ!? ごっごめんね! 変な事言っちゃって!!」
「え? あ、いや…。別に気にしてねえけど」
「今の、忘れて…っ!」
「お、おう……」

彼女の夢見がちな一面に驚きつつ、返事はしたのだが忘れようにも忘れられないなと頬を掻く。

「ま、とりあえず…。シノンの誕生日を知った事だし、今年は祝えるな?」
「私も今日初めて知ったから、去年の分も一緒に祝いたいな」

「勿論、他の皆の誕生日も!」と張り切るシノンに、優一郎は「そうだな!」と賛同する。

「最初にだと、ミカ君かな?」
「お、そうなのか?」
「うん。私の知ってる人だと、知人君は6月の初めになるからやっぱりミカ君が最初になるかも」
「アイツ、5月の最初だもんなー。何やったら喜ぶんだろうな?…」
「……?」

ふとシノンの顔を一瞥し、シノンは不思議そうに首を傾げる。

「…それは俺も同じだけどな」

恐らく、ミカエラはシノンからなら何を貰っても嬉しいだろうと結論付いた。
自分もそうだし、それまでに様々な事が解決出来ていれば…と思う。

「優君、どうかしたの?」
「いや、何でもねぇよ」
「そうなんだ……?」
「ま、それは置いといて。んでさ…」

漁村に帰るまで、2人は少し先の未来に思いを馳せる……。





2016/10/16 百夜 優一郎 Happy berthday!




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