「与一、どのお店に行く?」
「うーん、どうしようかなぁ…」

とある日、臨時の休暇を貰ったので数少ない買い物専用の市場に足を運んでいる与一と真音。
普段来ないような場所に今日来ているのには、真音にとって一大イベントと呼べる程大きな理由があった。それは、

「今日は与一の誕生日だから、頑張って奮発する」
「えっと…。そこまで高い物は望んでないよ……?」
「そうなの?」
「うん…」

ただでさえ誕生日プレゼントを貰うというだけでも十分な事なのに、と頷く。と、

「んーっ…。あ、あのメロンはどう?」
「それはやめておこう!?」

思っていた矢先に見ただけで恐らく高いと推測される物を指差し、慌てて引き止める。

「与一、メロン嫌い?」
「いや、好きだけど…」
「じゃあ決まり」
「流石にそれは貰えないよっ…!!」

数分粘ったおかげでメロンを買わずに済み、再び選び直す事になった。

「はぁ…。良かった、人生で1番高い誕生日プレゼントにならなくて……」
「メロンの方がインパクトあったのに…」

真音はそう言った後、プゥ…と頬を膨らます。

「インパクトは求めてないよ、真音ちゃん…。それに、そんなにお金を持っていないはずだよね?」
「ん、大丈夫。ある人から毎月お小遣いを貰った」
「そうなんだ…。ち、因みに…どれぐらい持っているの?」

聞いていいものなのか…と思いつつ問い掛けると、真音は何故か指を使って数えだし……

「…これぐらい」
「え!?」

その金額に、思わず声を上げる。

「あの……。本当に、僕なんかの為に良いの…?」
「そうじゃなきゃ、今日まで貯めていないから」
「あ、なるほど…」

どうやらこれまで貯金していたお金も含まれていたらしく、合点が一致した。

「欲しいなって思う物があったらすぐに言ってね」
「う、うーん…」

そう言われると余計に考えてしまう。
我が儘だとは分かっているが、出来るなら物ではなく特別な何かが良いなというのが本音だ。

「(真音ちゃんから貰える物はどんな物でも嬉しいけど、そうじゃないんだよな……)」

それ以前に、自分は彼女の誕生日を祝ってあげていない。
なので、可能なら彼女の為にもなる事もやってあげたい。

「そうだなぁ…あ」
「? どうしたの、与一?」
「真音ちゃん、ごめんね。プレゼントはやっぱり遠慮しておくね……」
「! …ん、分かった」

真音はそれ以上言及せずに頷くが、表情だけは素直であった。
大好きな人の初めての誕生日に、何もあげられないのか…と。

「その代わり、になるかは分からないけど…」
「……?」
「とりあえず、ここを離れたいな」
「うん…?」

どういう意味なのだろうか?と考えながら彼と一緒に市場を離れ、先を行く彼の後ろについて歩く。

「与一、どこに向かうの?」
「えっと…内緒、だよ」
「内緒……?」

ますます彼の目的が分からず、少し首を傾げてから改めて歩く事10分。
その目的地とは……。





「公園…」

見渡すと様々な遊具が壊れており、鳥や花が周りにない。
崩壊後にそのまま放置されたものだと見て分かる。

「……」

あの大規模な崩壊からそれぐらいの時が経ったのか…としみじみと思う。
しかし、今は感傷に浸っている場合ではない。
何故、このような場所に来たのかまだ教えてもらってないからだ。

「…与一、どうしてここに来たの?」

何か深い訳があってここに来たのだろうか。
そう思いながら彼に問い掛けてみる、が。

「あっあの。そんなに大した理由は無いんだけど…」
「……え」

その話し方からたまたまここに目をとめ、ふと立ち寄ったという答えが出た。
珍しく深く考え過ぎたな…とため息をついた、その時。

「真音ちゃん」
「何?」
「さっきまでずっと考えていたんだけど…。やっぱり、真音ちゃんがしてほしいって思ってる事を叶える事が1番の誕生日プレゼントなのかな…って」
「…?」

どうして、自分の事を…? と目を丸くさせる真音。
そんな彼女の様子を気にしてか、困ったような笑みを浮かべながら話を続けた。

「僕だけ誕生日を祝ってもらうのは申し訳ないから……。2ヶ月以上も遅れちゃったけど、真音ちゃんの誕生日プレゼントを今やりたいんだ」
「…! 本当に、何でも良いの?」
「うん。出来る範囲ならだけど……」
「………」

何でも良いと言われてすぐ、答えが決まった。
これまでもしてきたが、最近ではあまりやれていないある事だ。それは……

「……ギュって、して欲しい…」
「!?」

視線を下に落としながら伝えると、与一の驚いた声が聞こえた。
早くも諦めた真音は次にやってもらいたい事を考えようとした。
しかし、すぐにそれがままならなくなる瞬間が起きた。

「じゃあ…っ!」

顔を上げた同タイミングで、ふわ…と優しく抱きしめられた。

「えっ…………?」

ほんの一瞬に起きたそれに思考が止まり、目を見開かせる。

「……与一?」

数秒ぼぅ…としてから彼の名前を呼び掛ける。

「あ、のっ……。多分、変な顔してるかもしれないからこのままでっ…」
「…うん、ありがとう。お誕生日、おめでとう……」

これ以上ない幸福感を胸に、真音は耳まで赤くさせている与一に感謝と愛おしい気持ちを込めて同じ力で抱き返した……。





2016/11/23 早乙女 与一 Happy berthday!




*前/次#