私は、"私達"はずっと誰かに必要とされたかった……。

双子でも、待遇は互いに変わらなかった。
後に生まれたから、未子だからと一族から忌み嫌われている私。
私よりも先に生まれたはずなのに、誰からも必要とされないシノア姉様。
どうして、私ならまだ良いのにシノア姉様まで?
どうして、私達は誰にも必要とされないのですか?
そう思うと涙が込み上げて来る。
泣いてしまったら、ダメなのに……。

「どうしたの、シノン?また、誰かに酷い事を言われたの?」
「真昼、姉様……」

いつも、同じ母親から生まれた私とシノア姉様の姉である真昼姉様が私の事を心配してくださった。

「う、姉様ぁ〜っ……!」
「よしよし……」

私が真昼姉様に泣きながら抱き着いた時は、必ず…

「シノン、大丈夫。貴女には私達がいます」
「シノア、姉様っ……」
「そう、私達は"家族"なのだから。ねっ、シノン?」
「はいっ……」

私は、そんな姉様達が大好きだった。
姉様達さえいれば何もいらなかった。
家族も、私にとっては姉様達だけだった。
そう心に思い続けながら過ごしていたある時……





「……」

ふと、屋敷にいるのが嫌で出て行ったのは良いですけれど……。
一度も屋敷から出た事のない私は、すぐに迷子になった。

「ここ、は…どこ、ですか……?」

最初は初めて見る外の景色に感動をしていたのですが、後々になり勝手に外に出て行った事を後悔した。
とりあえず、こういう時はジッとしてるべきなのか…と思い、座り込んでいたら……

「あれ…? 君、どうしたの……?」
「……?」

それが、ミカ様との出会いだった。
ミカ様のおかげで私は無事に屋敷に戻る事が出来た。
その時は色々な方に叱られたのだけど、真昼姉様が皆様を宥めてくださったおかげで収まり、後に私は自由に外に出る事を許された。
そして、ミカ様と会える機会も増えた。

「シノンちゃん、はい。これ」
「ミカ様、これは…?」
「四つ葉のクローバー。持っていると幸せになるんだよ」
「幸、せ……」

ミカ様が差し出してくれた幸福の証は、果たして私なんかが受け取っても良いのだろうか……。
そう思うと、受け取りづらくなり思わず手を隠した。

「シノンちゃん」
「? ……!ミカ、様…」
「うん、とっても似合ってるよ!」

私の髪に四つ葉のクローバーを添えそう言ってくださったミカ様は、いつもの優しい微笑みを浮かべた。
…どうして、この方はいつも私なんかの為に……。

「ミカ様……」
「ん? なぁに?」
「ミカ様は、その…どうして、私にそんなに優しくしてくださるのですか……?」
「…シノンちゃんを、ほうっておけなかったから」
「えっ……?」
「僕にとって、シノンちゃんは初めて出来た"大切な人"だから」
「……!」

"大切な人"…。
初めて、言われた……。

「っ、うっく……」
「シノンちゃん…!?」
「わ、たしっ、も…ミカ様は、お姉様達以外っ、に…初めて、信じ、れた人、ですっ……!」
「シノンちゃん……」

ミカ様の言葉がきっかけで感情を抑え切れず、ポロポロと涙をこぼす私をミカ様は優しく抱きしめてくれた。
私は、その時になってやっと気付いたのです…。
ミカ様の事が、好きなのだと……。
でも、ミカ様はきっと違うお気持ちなのかもしれない……。
これは、私の心の中にしまっておかなくては……。
それからも、私はずっとミカ様への想いを隠し続けていた。
このまま……ずっと、幸せな日々を過ごせられたら。
そう願っていた矢先に……





「………………」

私の元に、数々の不幸が舞い込んだ。
世界崩壊による人口の激減。
大好きだった真昼姉様の死。
何よりも一番辛かったのは……

「っ、ミカ様っ…」

ミカ様が、どこにもいない。

「……ど、して…。どうして、ですかっ…………。っ、くっ…うああぁぁぁっ…!!!」

ミカ様がいないいつもの場所で、叫ぶように泣き続けた。
そんな事をしてもあの人は帰って来ない。
けれど、泣かずにはいられなかった…。
そして、決意した。
柊家の人間として、吸血鬼と戦う事を。
それからというものの、毎日のように必死に吸血鬼との戦いに備え勉強や訓練等を無我夢中でやり続け、10才の時にある鬼と契約し、最年少ながら日本帝鬼軍に入る事となった。
後にシノア姉様も入り、私達双子は成長するにつれ吸血鬼殲滅部隊の一員として戦い続けた。
そんな事を続けて15の年となったある時、ある人と出会った……。


「シノア姉様、どちらにいらしてるのでしょうか……?」

シノア姉様に用事があった私は、どこにいるのかと学校中を探していた。その時、

ドォンッ…!

「……!」

屋上の方から音が聞こえ、すぐさま屋上へ向かう。

「着いた……」

ドアの前に着き、そっとドアに手をかけてからゆっくり開け……

「シノア姉様、こちらにいらしておりましたのね」
「シノン、どうかしたのですか?」
「えっ…? お前、誰だ……?」
「……貴方が、百夜 優一郎様ですね?」
「! 何で俺の名前を……」
「まずは、初めまして。私は柊 シノン。柊 シノア姉様の双子の妹で……月鬼ノ組に所属しております」

これが、私と優様の邂逅となった。
最初の印象は、とても血気盛んで乱暴なお方かと思っておりましたが……。

「優一郎様。ここは私が引き受けます故、どうかお下がり下さい」
「っ……!出来るかよ、んなの!!!」
「!? 優一郎様っ……!?」
「無茶です! 今の貴方ではすぐに鬼に負けますよ……!」
「俺は鬼に負けねぇ!」
「優一郎様……!」





「何で、あのような無茶をなさったのですか……?」
「あ? ……決まってんだろ。俺は吸血鬼に復讐する為に力を手に入れたい。それだけだ」
「…それで、鬼に呑み込まれなかったのが不思議でなりません……」
「不思議って、俺そんなにヤワに見えんのかよ……」
「そうです」
「…………」

優様はオイオイ、と訴えるような表情をしているのですが、事実には変わりありません。
もし、あの時貴方が鬼に勝つ事が出来なかったら……。

「あのような無茶をし続ければ、後戻りは出来ませんし復讐も何もかも出来ませんよ……?」
「……じゃあ聞くけどよ、シノン。お前は何の為に帝鬼軍に入ってんだ?」
「私、ですか……」

優様の問いに思わず言葉を濁した。
私も、ある意味では彼と同じ復讐を目標にしてるようなものだから……。

「っ……」
「……その、変な事聞いて悪かった」
「えっ、わっ……!」

優様の言葉を聞いて顔を上げようとしたら、突然くしゃっと頭を撫でられた。
…私、そこまでおチビなのですか。でも……

「……殿方に頭を撫でられるなんて、一生の不覚です…………」
「はぁっ!?」

内心では、あまりそういう事をされる事がなかったから少し嬉しかった。
だけど、これは言わない事にしようかと思っている。
…私には、あの方が心の中にまだいるから。

これは終わりの始まり。
そう、絡み合う運命の糸の行く末を見つける…始まり。




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