「お父、さん…お母さん……」

真音は目の前の残酷な光景に目を大きく見開き、そして震えていた。
自分を愛してくれた父と母が、目の前で吸血鬼に殺されたからだ。

「真音! 早く逃げて!!!」
「や、だぁ…。姉ちゃん、行かないでぇっ……!!!」

大好きであった姉の依音も吸血鬼の1人に攫われ、そのまま消えてしまった。

「さぁて……。コイツ、どうする?」
「殺すしかねぇだろ。忌々しいモノが中にあるのだから」
「あ、あぁっ…」

殺される……。
そう思った真音は走馬灯のように家族との幸せな日々を幼いながらに思い出し、

「死ね!!!」
「いやぁああっ!!!」

吸血鬼は手に持つ剣を素早く振りかざし、真音は叫びながら死が訪れるのを待つしかなかったが……。






「ん……」

それは全て夢だった。
しかし、過去に起きた事であるのには変わりはない。

「…………」

久々に嫌な夢を見る羽目になった真音は苦虫を噛んだかのような表情をしながらベッドから降りた。





「…………」
「…真音、どうかしたのか?」
「はい……。今朝からずっと、あのようにぼぅっとしてて…」

ぼぅっとしながら空を見る真音を見た優一郎は、シノンにどうかしたのかと問い掛け、問われたシノンは心配そうな声色で答える。

「どうしたのですかぁ? と聞いたのは良いのですけれど、まっちゃんはな〜んにも答えてくれなかったですしね」
「まぁ、普段が普段だからな」
「別に、放っておけばその内戻るんじゃないか」

シノンに続くように、シノア・三葉・君月がそれぞれ言う。

「そんなもんなのかぁ?」
「皆様、家族なのですからもう少し真音様の心配をしてくださいっ!」

そんなシノア達の言葉を聞いた優一郎は首を傾げ、シノンは涙目になりながらシノア達に訴えかける。

「って、シノン落ち着けって!?」
「ですが…真音様が、凄く心配で…」
「……お前ら、もう少し真音に気をかけろ」
「優さん、本っ当にシノンに甘々ですね」
「ダダ甘だな」
「顔がタコだぞ」
「うっ! うるせぇよお前ら!!! つか誰がタコだ君月ゴルァッ!!?」
「あぁっ!? まんまの意味だよこのタコが!!!」
「ふっ、2人共ケンカはやめてくださいましっ……!?」

優一郎が君月の言葉にキレた事によってケンカに発展しそうになり、シノンは慌てて止めに入り、シノアと三葉は呑気に傍観していた。
そんな中、今まで会話に混じってなかった与一は……

「真音ちゃん……」

1人、真音の事を気にかけ視線を向けていた。その時!

『!!?』

遠方から怪物の雄叫びらしきものが聞こえてきた。

「"ヨハネの四騎士"か!?」
「なら、早めに倒すのが先決でしょうか…?」
「たりめーだよ! 行くぞ!」
「待て優!勝手に動くな!!」
「優様、待ってください……!」
「シノンもかっ!?」

先に向かった優一郎を止めようとした三葉だが、シノンまで先に向かってしまい予想外の展開に驚いた。

「与一さん、まっちゃん。遠距離からの支援お願いします」
「えっ!? わ、分かった!」

シノアの指示に、与一はハッと一度我に帰った後返事した。
しかし、真音は……

「……」
「…まっちゃん。聞こえてますか?」
「……。分かった」

大分遅れてから返事を返した真音は鬼呪装備《蜻蛉》が変形した、真音の得意武器である火縄銃を手に持ち遠くにいる"ヨハネの四騎士"に向けた。が…!

「! まっちゃん! 後ろっ…!?」
「え……? っ…!?」

シノアの言葉に気付き振り返った時にはもう一体の"ヨハネの四騎士"が真音のすぐ後ろにいた。

「っく…! 間に合わ、ない!」

素早く体の向きを変え火縄銃を構え直したが、時既に遅し。
敵は真音にめがけて勢いよく足のようなものを振りかぶる。

「っ……!」

万事休すか…と諭しぎゅっと目を瞑ったが、

「《月光韻》!!!」
「……! よ、いち…………?」

与一が倒したお陰で無傷で済んだ。
もう一体はというと、優一郎とシノンの連携プレーによりいとも簡単に倒せた。

「与一…「真音ちゃん! 大丈夫!?」
「っ、うん…。ごめん……」
「良かった……。真音ちゃん、ずっと朝からぼぅっとしてたけど…どうかしたの?」
「あ、う……」

想い人である与一にもどうかしたのかと聞かれ、真音は思わず言葉を濁す。

「…真音ちゃん。もし真音ちゃんが襲われそうになった時に間に合わなくて、真音ちゃんを死なせてしまってたら……。僕は、一生自分を憎んでいたよ」
「っ、え…?」
「お願いだよ、真音ちゃん。僕では何にも出来ないのは分かってるけど……。でも、放っておけないんだ。真音ちゃんの事が、その…」
「与一……。うん、分かった…………」

与一の言葉にグッと胸を掴まれた感覚になった真音は、今朝見た夢の事を全て話した……。

「っ……。真音ちゃん…………」
「ごめん、与一…。話しちゃ、いけない事だったのに……」
「! そんな事ないよっ!そんな事、ないけど……」
「…僕、生きてて良かったのかな」
「えっ……!?」

真音の発言に目を白黒させる。

「何で、僕だけ生きちゃったんだろう……。何で、姉ちゃんやお父さんやお母さんがっ…「真音ちゃん、それは違うよ」
「…!」

言い切る前に与一の言葉が重なり、その言葉に目を丸くさせた。

「僕も、前までそう思っていた。何でお姉ちゃんだけ殺されたの、何で僕だけ生きているのって…。でも、そんな僕でも必要としてくれる人がいる。真音ちゃんだって、そうだよね……?」
「与一っ……」
「僕は、真音ちゃんが必要なんだよ。ううん、必要というよりも……えっと、すっ…好き、だから……」

そう真音に言い切ってから頬を赤らめた。次の瞬間、

「っ……」
「えっ!? 真音ちゃんっ…!?」
「与一、ありがとう…ありが、とうっ……」
「…うん。僕の方こそ、ありがとう」

与一は胸に抱き着いたまま静かに涙を流す真音に優しく微笑んだ後、そっと腕を回し抱き返した。

「…? 何か知らねえけど、何とかなったみたいだな?」
「ですね……! 良かったです、真音様…」

シノンはそんな真音の様子を見て、柔らかな笑みを浮かべながら安堵した。

「しかし、結局何が原因だったんだ?」
「さぁ〜? それは後でまっちゃん限定ジゴロしている与一さんに聞きましょうか〜♪」
「限定ジゴロって…。まぁ、合ってなくもないな…………」
「ですよね〜君月さん? さぁ、私達の次の任務はあの2人の邪魔をする事です」
「シノア姉様、やめてください」

ふざけた発言を述べるシノアにシノンはピシャリと言う。

「え〜、シノンも行きましょうよ〜」
「行きません! ですよね、優様?」
「え、あっああ。俺も行かねえし」
「…ハッハァーン、さては2人共。デキてますね?」
「「……!!?」」
「ちげぇよっ!!?」
「シノア姉様っ!!!」

シノアにからかわれたシノンと優一郎は、互いの顔を見合わせた後一気に2人揃って顔を赤くさせた。
そして、しばらくしてから与一と真音が戻って来たので、一行はパトロールを続行するのだった……。




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