「優様……」

星が無数に瞬いている夏の夜、シノンはふと空を見上げながら優一郎の名前を呟く。
優一郎とは、現在離れ離れになっている。
ずっと我慢してきたのだが、押し込めていた切なさが一気に込み上げ思わず優一郎との思い出の場所となるある公園に来ていた。しかし…

「……会いたい、です…」

気持ちが収まる事はなく、それどころかより一層募ってゆくばかりだった。
優様に会いたい……。
ただ、その事だけで頭がいっぱいになっていた。

「あ、あの星座は…」

優一郎と離れる前に一緒に見つけた星座が見え、その時の事を思い出した……。





「お……? なぁシノン」
「はい、何でしょうか優様……?」

公園のベンチに一緒に座っていた時に優一郎に声を掛けられ、どうしたのかと聞き返す。

「あれ、もしかして星座か……?」
「えっ……? あ、あれは琴座ですね…!」
「琴座……?」
「はい! 夏の大三角と呼ばれている3つの星座の1つで、七夕のお話にも出てくるんですよ」
「へぇ〜…そうなんだな」

シノンの話を聞いた優一郎は関心しながらまた琴座を見る。

「ふふっ、……七夕は、織姫様と彦星様が年に1回だけ、会う事が許される日です…………」
「…! シノン……」
「……優様。どうしても、どうしても……行ってしまわれるのですか……?」

そう優一郎に問い掛けるシノンは、瞳を潤ませているのが分かる。

「っ……。ああ、どうしてもグレンが来いってしつこく言うから……ごめん、シノン……」
「……大丈夫、ですっ…。グレン様が言うのなら、仕方がないですから……」

申し訳なさそうな顔をする優一郎にシノンは出来る限りの笑顔を見せるが、今にも泣きそうであった。

「だからっ…! 優様……」
「……帰って、来るから。必ず、またここに来るから…! だから、待っていてくれ。シノン……」
「優っ、様…ふっ、あう…うわあぁぁっ……!!」

優一郎の言葉を聞いて感情が抑えられなくなり、彼の腕の中で涙を流した……。






「あれから、1年も経つのですね……あっ」

そう呟きながら溜めている涙が零れそうになると、色鮮やかな花火が空に咲いた。

「花火…そうでしたね。今日は、花火大会の日でしたっけ……。真音様達のお誘いをお断りして、ついここに来ちゃいました……。っ、ふっく…優、様。どこに、いるのですかっ…」

花火が沢山咲いてもシノンの心は晴れる事はなく、とうとう泣き出してしまった。その時……!

ドンッ……!

「っ、えっ……?」

花火が打ち上がったと同時に誰かに後ろから抱きしめられ、目を丸くさせながらゆっくりと後ろを向く。
すると、そこにいたのは……

「う、そっ…優、様……?」
「……悪りぃ、シノン。長く待たせちゃって……」
「あ、うっ……優様っ…!!!」

幻ではなく本当に優一郎がいるのだと理解し、体を優一郎の方に向けた後思い切り優一郎に抱き付いた。

「本当にごめんな、シノン。1年も待たせてしまって……」
「いえ、いえっ…! 会えただけで、私は…幸せですっ……」
「そっか……」
「優様……んっ…」

もっと確かめようと顔を上げた瞬間、優一郎はふわっ…と口付けを落とした。
それに応えるように、そっと目を閉じる。

「っん…。優、様……?」
「そ、そのっ…ほら!1年も離れてっからさ! 何というか……我慢、出来なくて…………」

そう言う優一郎は顔を赤くさせ、しどろもどろな態度を取る。
そんな優一郎を見たシノンは…

「……私も、です」
「……えっ?」
「あ、えっとその……もう1回、したい…ですっ……」
「え…やっ、いっ良いのか本当に……?」
「……」

優一郎と同じように顔を紅くさせながら、無言で頷く。

「っ……! シノン、もうぜってぇ離れないって約束すっから…! グレンの野郎にもそう言っといた!!」
「って…グレン様を、余計怒らせてないですよね……?」
「え……? あ、ああ。勿論」
「優様、目が泳いでます……」
「うっ……」

シノンに図星を突かれ、うっと眉をひそめる。

「……ふふっ、大丈夫ですよ優様。怒ってないですから」
「本当かよ…。まぁ、それなら良いんだけど……」
「……優様」
「ん……どうした?」
「ずっとずっと……大好きです」
「……!? バッ、それ…反則だから……。俺も、その……愛して、る…」

久々にシノンの柔らかな笑みや彼女からの愛の言葉を受けたからなのか、更に赤く染め上げながら愛してると返す。
すると……

「えっ……あ、うっ…はいっ……」

最早、互いに赤くなり過ぎてどうにもならなくなっている。

「……じゃあ、行くか。シノン」
「ふぇ……どこに、ですか…?」
「決まってんだろ、花火がもっと見える場所に行くんだよ」
「…! ……はい、行きますっ…!」

手を差し伸べられたシノンはそっと自分の手を添え、どちらからともなく繋ぎ合ってからそのまま歩き出すのだった……。




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