「…………」

新宿の病院のある病室の前に来たシノン。
そこは、優一郎がいる部屋である。
新宿防衛戦の際、突如謎の暴走をした優一郎はシノアやシノンの制止により止まったと同時に深い眠りについてしまった。
そして今日、優一郎が起きたと与一から聞かされたのだが、ある事情を引きずっているせいで皆と一緒に行く事が出来ず、現在に至っている。

「優様…。っ、……」

戸を開けた先には目を覚ました優一郎がいる……。
そう思いながら戸の取っ手に手を伸ばそうとしたが、ふと不安が脳裏に過ぎり素早く引いた。

「…ごめん、なさい。優様…………」

謝るように小声で呟き、そっと立ち去ろうとした。その時、

「シノン……!」
「っ……!?」

戸が開いたと同時に優一郎の声がし、突然の事に垂れ目気味の瞳を大きく見開かせながら動揺する。
何故、いるのが分かってしまったのか…!?
そう思うと余計焦ってしまう。

「あ、うぇっ……!?」
「って、お前も大丈夫なのか……!?」
「ふぇっ、はぎゃっ……!?」

言葉に迷っているとガシッと肩を掴まれ、思わず変な声を上げた。

「っ…!? シノン……?」
「あっ…!すっすみません優様っ……!?突然の事で、びっくりしてしまって……」
「え、あ……わっ悪りぃ!つい……」
「い、いえ……」
『……』

2人の間にあまり心地良くない間が生じる。

「……えっと、とにかく…目が覚めて良かったです。優様……」
「えっ…あ、ああ。ありがとうシノン……」
『…………』

何とか場の空気を変えようとシノンから口を開いたのだが、また沈黙してしまった。

「…すっ、すみません優様。私、もう戻ります……」

これ以上話したら今の状況が悪化するかもしれないと悟り、優一郎に背を向けそのまま離れようとした。が、

「待てよっ、シノン!」
「っ…!? えっ……?」

今度は手首を掴まれ、何事なのかと思いつつ驚きの表情を浮かべたまま振り向くと、

「…話し、づらいんだよな。その……俺が、ミカと深く関係していたから……」
「……!? っっ…………」

次に言おうとした言葉を見失ってしまった。
確かに、自身と同じくミカエラと深く関係していたと知った途端にこれからどう接すれば良いのか分からなくなり、皆と同じタイミングで彼の元に行く事が出来なかった。

「……そっか。そうだよな、俺も…びっくりしたよ……」
「あの、優様っ…「シノン」
「…! は、いっ……」
「……分かってるよ、お前が何を言いたいのかくらい。だから……無理して、俺と話さなくて良いから」
「!? 違います…!? 違いっ、ます……」
「シノン……」

必死に違うと主張するが、優一郎はどこか悲しげな表情を浮かべ……

「……ごめん、ミカを…助けられなくて……」
「!! ……優様の、馬鹿っ…!」
「えっ…! シノン……!?」

ごめん、と謝ったと同時にシノンに抱き付かれ、目を丸くさせる。

「優様はっ、何も悪くありません…!! 私だって、私だって……! ミカ様を助けられなかった!! 優様にとっても、"大切な人"なのにっ……!!!」
「……シノン、そこまで…………」
「私の方、こそっ…ごめんなさ、いっ……! ふぇ、う…うああぁぁあっ……!」

感情が抑え切れなくなったシノンはとうとう泣き出した。

「っ…大丈夫、だから! シノンッ……!」

優一郎はこれ以上彼女が涙を流すのを見ていたくないと強く想い、彼女の体を自分の方に向けてから強く抱きしめる。

「…! 優、様っ……」
「シノン、絶対、絶対……ミカを救うから。俺にとってはアイツは"家族"で、お前にとっては"大切な人"だからな……」

そう言い聞かせ、今度は不安にさせぬよう出来る限りの笑みを浮かべる。

「っ…はい。はいっ……! 私、もっ…一緒に、ミカ様を救いたいですっ……!」
「ああ。一緒に、ミカを吸血鬼共から救い出そう……」
「はいっ……」
「……!」

シノンは優一郎の言葉に掠れそうな声で返事をし、泣きながらだがふわりと笑顔を向ける。
その瞬間、優一郎の心にある想いが芽生えた。
いや、ようやく気付いたのかもしれない。

「(俺……シノンの事…"好き"、だったんだな…………)」

この出来事で、家族を思い戦う少年が他が為に涙を流す心優しき少女に淡い恋慕を抱いていた事に気付くきっかけとなった……。




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