言葉よりも指先で繋いで
「だから!郁くんはそうやって…!」
「そういう柘榴もだろ!」
昼過ぎの共有ルームで口論を繰り広げる郁と柘榴。
事の発端はたわいもない会話からだった。
最近ずっと疲れている様子である郁を心配した柘榴は、この後行く予定だったお出掛けを後日にしようと提案する。
しかし、「大丈夫だから」と言い続ける郁に「ダメだよ!」と返した結果、今に至ったのだ。
「郁くんはっ! もっと自分を大切にしなくちゃダメだよ!!」
「分かってる!! だけど、前から出掛けるって決めてただろ!?」
「無理してわたしに合わせなくても良いよっ!」
『っ…!!』
感情的になった2人は顔を逸らし、その後何も語らずに別々に去った。
が、それから数十分経ち…
「っ、ぐずっ……」
蹲る形でソファーに座り、膝に顔を付けながら泣きじゃくる柘榴。
その隣には、
「柘榴ちゃん、大丈夫…?」
夜は心配だと言わんばかりの表情を浮かべせ、彼女の背中を優しくさする。
「夜、さんっ……。わたし、喧嘩…しちゃいましたっ……」
「そっか…。誰と喧嘩しちゃったのか、言える?」
「うぅっ……」
柘榴は嗚咽しそうになるのを堪えながら、事情を話した。
「え、いっくんと?」
話を聞き終えた夜は、思わず目を見開く。
それもそうだ。
郁と柘榴は、涙も入れて"プロセラ三つ子トリオ"と呼ばれている程、普段から仲の良い関係だ。
だからこそ、無いと思っていた彼女達の諍いに驚きを隠せない。
「最初はっ、うっく…。こうなるつもりは、無かったんですっ……。だけど、感情的になっちゃって………」
「そうなんだ…」
「郁くんと、もう…話せないの、かなっ……」
話を続けていく内に、瞳に溜めていた涙が次々と頬を伝っていく。
「わわっ…! と、とりあえずこれを使って!」
慌ててハンカチを差し出すと、「ありがとうございますっ…」とそれを受け取った柘榴は満遍なく頬を拭う。
「それにしても、あのいっくんがかぁ…。うーん、……あっ」
何とか解決する方法は無いのだろうか、と考えていると…ある答えに辿り着いた。
「柘榴ちゃん、これは俺の見解になるんだけれど…」
「……?」
夜の話に耳を傾け、話が終わったと同時に…先程以上に声を上げて泣き始めてしまった。
動揺した夜はどうにかして宥めようと頭を撫でていた。そのとき、
「夜、何かさっきから泣き声が…って、柘榴!?」
「陽!」
「陽っ、さん……」
何事かとドアを開けた陽は、柘榴の現状に言葉を失う。
「何があったんだ柘榴!? 誰が泣かしたんだっ!?」
「おっ、落ち着いて陽…!!」
「大事な妹分が泣いてるっつのに、どう落ち着けって言うんだよ!?」
妹のように可愛がっている柘榴の窮地を助けたいという一心でいる陽は、夜の制止を聞かず彼女に問い掛ける。
「柘榴、何があったか俺に話してくれるか?」
「っ…」
陽の表情からこの後に何が起きるのか察した柘榴は、首を横に振る。
「何で言わないんだよ…!」
「言えるわけないよ! 陽がそうやって怒ってるから、柘榴ちゃんはいっくんを助けたいって…「よ、夜さんっ…!」
「あっ、ごめん!?」
「郁がやったのかっ!!」
「違い、ますっ……!!」
柘榴と夜が必死に陽を止めている同時刻、郁はある人物に相談を持ち掛けていた。
「へぇ…。柘榴と喧嘩したのか」
「海さん、そんな呑気に言わないでください……」
あっけらかんとしている海にツッコむ郁だが、普段より少し勢いが無く思える。
どうやら、郁も落ち込んでいるようだ。
「いや、何か珍しいなーと思ってさ。涙との喧嘩の仕方が上手いから、柘榴ともそうなんじゃないかと思っていたが…」
「柘榴は、涙とは違うから……」
「…初めて見るな。お前がそうやって落ち込んでいる所」
「え……?」
海の言葉に、「そうなのか?」と瞬きをする。
「やっぱり、柘榴と喧嘩はしたくないってか?」
「当たり前です! オドオドとしてるけど、凄く優しくて、俺よりも勉強とアイドルの両立が上手く出来ていて、それからっ…!!」
「オイオイ、何気に惚気に聞こえてきたぞ……」
遠回しに止めても、郁はまだ柘榴の良い所を言い続ける。
「…つまり、今回のは似た者同士の衝突って事か」
「? 似た者同士…?」
「そっ、お前と柘榴な? 柘榴もこの前、お前の良い所をいっぱい言ってたぞ?」
「……っ!!」
郁は一瞬にして顔を赤く染め、視線を泳がす。
「ほら、そういう所も似てるぞ〜」
「か、海さんっ!!」
「で、仲直りする気になったか?」
「! …はい。元々は俺が原因ですから、ちゃんと…謝らなくちゃ」
「おうっ、頑張れよ」
「はい! ありがとうございますっ!!」
海の後押しに勇気付けられ、早速柘榴の元へ向かおうとしたが、
「郁!! ここにいたのかっ!!」
「早まらないで、陽っ!?」
「わっ、わたしは大丈夫ですから…!?」
「って、陽!? え、夜さんに…柘榴もっ!?」
バンッ! とドアを開けてきた陽と、その陽にしがみつく柘榴と夜が現れ愕然とする。
「陽、何でお前が怒ってんだよ…?」
「お前!! 柘榴を泣かしてタダで帰れると思ってるのかっ!!」
「っ…!!」
陽の言葉が胸に突き刺さり、言葉を詰まらせる。と、
「あの、陽さん!!」
「柘榴、お前は何も言うな」
「っ…でも。これは、わたしと郁くんの問題です!」
「柘榴……」
陽から離れた柘榴は郁の近くまで歩み寄り、
「……」
「…柘榴。ごめ…っ!?」
すぐに謝ろうと声を出したと同時に、突然抱き付かれた。
「あ、あのっ…「郁、くん……」
「…!」
「ごめん、なさいっ…!!」
顔を上げた彼女は、体を小さく震わせている。
「…俺の方こそ、ごめんっ……」
「郁くん…」
これ以上不安な思いをさせぬようにと優しく抱き返すと、安心したのか震えが止まり笑みを見せてくれた。
「…なぁ、解決したのか?これ」
「みたいだね」
「やれやれ、隼や涙までいたらどうなってた事か…。特に涙」
「「ああ……」」
陽と夜は、涙の顔を浮かべながら大きく頷く。
そんな3人をよそに、郁と柘榴は少しの間抱き合ったまま微笑み合っていた……。