いつか、辿り着いてみせる






アイドルになって、気が付いたらもう2年も経っていた。

あの陸上大会での出来事から、ただがむしゃらにここまで駆け抜けてきたって気がする。
最初はそれ程アイドルになるのに乗り気ではなかったし、何よりも陸上を続けていたい気持ちが強かった。
けど、スカウトしてきたその人は「自分のやりたい事を優先にしても良いよ」と言ってくれて……。
結果、両立する形でアイドルになることを決意した。

同じユニットのメンバー達は皆個性豊かで(1人だけ個性豊かを超越してる人がいるけど……)、親友と呼べる相方の涙と出会えて、ファンの人達の期待と声援を沢山受けて。
そんな風に沢山の人に出会って、支えられて、俺はここまで来れたんだって心から思っている。

その中でも、一番印象に残った出会いはやっぱり……。





「久々の公園だね、郁くん」
「初めて柘榴と一緒に出掛けた時以来だよな?」
「! そんなに来ていなかったんだ…」
「何かあっという間だよなぁ、あれからもう2年も経つなんて」
「うん、そうだね」

隣にいる女の子は、人気ユニットの一角であるCrescentのリーダーのZa-kuroこと稲架 柘榴。

涙の幼馴染の女の子で、後に柘榴のペットになったうさぎの白銀さんを追い掛けていた彼女が転びそうになって、俺が慌てて引き上げたのがきっかけで知り合った。
…けど、最初の頃は中々話すことが出来なかった。
極度の人見知りで、涙いわく慣れるまでに少し時間が掛かるみたいで。
あの時は少し話し掛け過ぎたかな…ってよく不安になってたっけ。
でも、今みたいに仲良くなったきっかけもある。

涙の提案で当初は3人で出掛けるはずだったんだけど……。
唐突に涙だけ仕事が入ってしまい、俺と柘榴だけで出掛ける事になった。
そのときもギクシャクとしてたけど、ゲーセンで柘榴が取りたがっていたパンダのぬいぐるみを取り、ようやく仲良くなれた。

「あのとき、郁くんがパンダさんのぬいぐるみを取ってくれたから…。こうやって話せるようになったのかな、って」
「俺もそう思ってた。あのぬいぐるみ、今はどうしてる?」
「えっと、白銀さんが……。うん」
「…何となく察してしまった」

そうだよな。
柘榴は、何だかんだで白銀さんを優先にする所があるもんな。

「ごめんね…」
「良いよ、その為のぬいぐるみだったんだろ?」
「うん……。あの時は上手く言えなかったけれど、本当にありがとう」
「どういたしまして」

仲良くなってから、柘榴の色んな一面を知った。
パンダマニア? だったり、和食や和菓子が好きだったり、運動があまり得意ではなかったり。
そんな一面を知ってるのは俺とか涙とか、最近ではプロセラやグラビの皆にも周知されつつある。
でも、そんな柘榴には誰よりも凄い所がある。
それは、堂々とステージに立てるこお。
簡単なようで難しいそれを、柘榴はいつも堂々と出来ている。
前にそれを褒めたら、柘榴はこう答えた。



「そ、そんなに凄くないよ…。もしそうだとしたら、それはファンの人達の思いのおかげだから」



それだけじゃなく、ドラマの演技も凄く上手いし撮影も大分慣れているみたいだ。
そんな柘榴を見ていると、俺はまだまだだな…って思ってしまう。
彼女はもう、アイドルとしての目的を見据えているのかもしれない。

「あ、鳥……」

あの広く高い空を自由に飛ぶ鳥は、まるで柘榴みたいだ。
どんなに手を伸ばしても、まだ高いその先を目指して、すり抜けていく……。

「郁、くん?」
「…え、ごっごめん! 何の話だったっけ!?」
「う、ううん……。どうして、手を伸ばしてるのかなって思って」
「あーっ…。何となく、あの鳥が柘榴みたいだなって」
「私、みたい……?」

あ、つい言ってしまった……。
うーむ、今更後戻りは出来ないよな。

「柘榴は目的をちゃんと見据えているな…って思ったらさ。俺はまだそれを見つけられてないなって」
「………」
「柘榴?」
「…あの。私も、郁くんの方がアイドルとしての目標をしっかりと目指しているなって。思ってた……」
「えっ!?」

後々話を聞くと、柘榴も俺と似たような理由で俺の事を思っていたらしい。

「っはは、本当に俺達って似た者同士だよな」
「だね…! 郁くんまでそう考えてたなんて、思わなかった……!」

今やっと、あの空に手が届きそうな気がした。
どんなに高く困難な壁も乗り越えられる。
…大切な君と、一緒なら。

「どこに行くか決めた?」
「あ……。まだ決めてなかった…」
「じゃあ、あのときと同じゲーセンに行く?」
「うん、行く……!」

あの日以上に絆が深くなった今を噛みしめながら、彼女と新たな一歩を歩む。