心に棲むオニ 1
〜2年後、第二渋谷高校〜
「は…はは、まじですげぇなそれ…」
屋上のフェンスに背中を強く打った黒髪の少年・百夜 優一郎。
何故そんな唐突な場面に発展したかというと、彼を見張る軍からの監視官である柊 シノアの持っている武器を力づくで奪おうと歯向かった。
しかし、何も施されていない武器では太刀打ちする事が出来ず呆気なく彼女の武器により吹き飛ばされた。
その彼女が持っている武器こそ"鬼呪装備"となる。
「いえいえ、戦場では向こうも武装してますから。先日あなたが倒した丸腰の吸血鬼とは別物ですよ」
「武装? まじで?」
「だからまずは部隊で動くための協調性を学びましょうと中佐は仰って…」
優一郎に上官である一瀬 グレンからの伝言を伝えようとしたシノアだが、その途中でドアが開いた音がしそちらに目を向ける。すると……
「シノア姉様、こちらにいらしておりましたのね」
「シノン、どうかしたのですか?」
「えっ…? お前、誰だ……?」
シノンと呼ばれた少女がシノアに声を掛けてきた。
シノアがどうしたのかと返した時、ゆらゆら…と二つに結ばれている三つ編みが風に流れるように揺れた。
優一郎は目を見開き驚く。
シノアと同じ紫がかった灰の髪に茶色の瞳、何処となく顔立ちも似ている。
だが、何故なのか…彼女の方に思わず見入ってしまう。
一見すれば儚くいつか消えてしまいそうな雰囲気を出す彼女に見惚れていると、
「…貴方が、百夜 優一郎様ですね?」
「! 何で俺の名前を……」
名前を知られていたのかと思った優一郎は手に持っている武器を構える。
「まずは、初めまして。私は柊 シノン。柊 シノア姉様の双子の妹で…月鬼ノ組に所属しております」
「! お前も、なのか……」
やはりシノアの妹だったのか…と構えをやめた優一郎。
更に、彼女も月鬼ノ組に所属していると知りもしや…と思考を巡らせる。
「あはっ♪ 私に似てとても可愛いでしょ〜?」
「お前に似てるかどうかはさておくけど…。お前、軍の人間なんだよな?」
シノアの言葉を一旦置いた優一郎はシノンに近付こうとしたのだが……
「……」
「……」
「…………」
「…何で避けんだよっ!?」
ジリジリと距離を取るように後ろに退がるシノンに思わず声を張る。
「シ、シノア姉様やグレン中佐からお話は聞いておりますっ…。貴方は、とても野蛮で乱暴な怪物さんだからこうやって距離を……」
「オイシノア!! お前アイツに何吹き込んでんだ!? グレンもだけどっ!!?」
「あっはは〜、可愛いですよね? シノンは間に受けやすいタイプですから」
「なら余計に変な事言うんじゃねえよっ!!!」
優一郎が怒ってもシノアは「あはは〜」と笑うだけで何も答えない。
「あーっ、めんどくせぇ……」
「…シノア姉様、よくこんな方が月鬼ノ組に入れますね…」
「……あぁ?」
シノンの一言に反応した優一郎は、再びシノンの方を向く。
「お前、今何つった……?」
「事実を言ったまでです。貴方のような協調性の欠片も無いような方がよく月鬼ノ組に入ろうとしていますね…っ!」
表情を変えずに話すシノンだが、途中で優一郎が刀を構えながらこちらに向かって走り出して来た。
しかし、すぐにどこからなのか二つの槍を出し、刀を捉えた。
その瞬間、ガキィ…ン!という鈍い金属音が屋上に響く。
「へぇ、お前も"鬼呪装備"持ちか?」
「だから、何だと言うのですか?」
「俺に、よこせよ……?」
「…奪えるものなら、ですけれど」
「上等だ!」
距離を取るように押し合った反動で離れた2人。
着地したと同時に間を置く事なく互いに武器を構え、戦闘態勢になろうとした……その時、
「た、た、助けて優君!!」
「「!?」」
優一郎の名を呼ぶ少年・早乙女 与一が追い掛け回されてたかの如く屋上に走って現れた。
同時に、シノンと優一郎は武器を構えるのをやめ与一の方に顔を向ける。
「与一様!? どうかなさったのですか…!?」
「シノンさんっ……!」
「え、お前与一と知り合いなのか?」
「は、はい…。私は、与一様の監視官ですので……」
「え…?」
何故一般人であるはずの与一の監視官を…? と疑問に思った優一郎だが、その問題は一旦後にし……
「つか、与一。まーたお前いじめられてんのか?」
「そ、それが…」
与一が話そうとした時、与一を追いかけてた男の2人組の1人が与一に声を掛ける。
何やら、尊敬をされているような感じに取れる。
何事なんだ…? と困っている与一を見た優一郎が目を丸くさせた時、
「あ! 優一郎の兄貴じゃないですか!!」
今度は優一郎がターゲットとなり彼に対しても2人は尊敬を抱いているような発言を言う。
そんな様子に目をパチクリとさせるシノンは、
「……」
「ずいぶんと友達が増えてきましたねぇ」
「あ、シノア姉様…」
「シノン、あれが百夜 優一郎ですよ」
「どうですか?」と訊くシノアに若干答えに戸惑う。
話で聞いてたのと全く違う。
あんなに慕われてるなんて…と関心を抱きながら優一郎を凝視する。と、
「ってかお前ら、こないだまで与一いじめてた奴らだろ? それがどのツラ下げて舎弟とか言ってんだよ」
「そ…それが…。実は今俺らすげぇ困ってて…」
「……?」
困っている……?
何があったのだろうかと耳を澄ますシノンだが、それを聞いた優一郎の発言に「うわ、この人偉そうだな……」と呆れる。
が…そう思った時、ある言葉が耳に飛び込んで来た。
「俺らの仲間が…『開かずの間』に行ったきり戻ってこなくて…」
「!?」
「…開かずの間……?」
「貴方達! 軍の管理下にある一級立ち入り禁止区域に何で…!?」
「……? 何で怒ってんだ?」
何故彼女が怒ってるのか分からない優一郎は首を傾げる。
「怒りますよ! あそこがどれ程危険な場所か分かってて……!」
「シノン、落ち着いてください。どうせ度胸だめしだなんだと入ったのでしょう?」
「シノア姉様、でもっ…!」
シノアに話そうとしたが、そっと手を前に出されすぐに沈黙した。
「ですが、あそこに入った者には厳しい罰が与えられます」
そう言い放つシノアに男はでも…と助けを求めようとするが、その後のシノアの言葉に絶望したような表情を浮かべる。
「…………」
シノンも一筋の汗を頬に伝わせた。
「シノア、一体何の話だよ『開かずの間』って……?」
「ふふ…知りませんか? 学校の七不思議ですよ」
優一郎の問い掛けに答えるシノアは次々と七不思議を言う。
「なーにが七不思議だよ。軍が管理してる立ち入り禁止区域なんだろ?」
「ええ」
「…………」
話を進める優一郎達だが、シノンは無言のままでいた。
密やかにどうやって入ってしまった一般人を助ければ…と思考を巡らせていた。が、
「シノン、助けようと考えてはダメですよ」
「!? シノア姉様、知っていて…」
「当然ですよ、貴女の双子のお姉ちゃんですから♪」
フフッと微笑むシノアに確かに…と少しだけクスッと笑う。
「お前、笑えるんだな?」
「? 何の事ですか……?」
「いや、何つーか…。さっきまで常に眉間にシワを寄せてるイメージが強かったから意外というか」
「失礼ですね! 私だって笑う事くらい沢山あります!!!」
「あらあらぁ? お2人共、すっかり仲良しさんですね?」
「違いますっ!!!」
シノンは全力でシノアの言葉を否定する。
「ま、茶番はここまでにして」
「え、シノア姉様……。先程のは茶番なのですか…」
「はい、そうですよ?」
「…………」
15年も双子をやっているが、やはりシノアのからかいのタイミングが掴めずはぁ…と小さくため息をつく。そして、
「もう殲滅部隊に入る訓練は始まってるって。そして、そろそろ…次のステップへ行ってもよさそうですね」
「ついてきてください」というシノアに優一郎・与一は何が起こるのだろうか…と、シノンはいよいよか…という思いを抱きながらシノアについて行く。
これが、後にチームメイトとなるシノン達の物語の始まりとなる……。