心に棲むオニ 2






「地下神殿? なんで学校の地下に神殿があるんだよ?」
「神殿っていうのはまぁ、呼び名だけですけどね」

シノアの後ろに付いて行きながら地下階段を下るシノン達。
その際、優一郎がシノアに何故地下に神殿があるのかと訊く。

「えっと…。渋谷の地下には、かつて川の増水を防ぐ為の大きな空洞がありました。で、その場所を吸血鬼殲滅部隊は訓練場所に選んだ、というわけになります」
「へぇ、そうなのか……」

シノンの説明に関心しながら首を上下に振る。

「というか、この学校全体が殲滅部隊の訓練場になっています」

シノアはシノンの説明を補足するかのように淡々と話し出す。
しかし…その言葉一つ一つが、不安を抱かせるような要素がある。

「こんな狂った時代に、"平和な学校"が本当に存在すると思ってたんですか?」

優一郎と与一にそう訊くシノア。
2人は戸惑うように目を合わせる。

「……平和なんて、まやかしなんですよ…」

シノンは3人に聞こえぬくらいの小声で呟く。
そう話している内に彼女達は目的地に辿り着いた。
そこには"立ち入り禁止区域 旧渋谷地下神殿入口"と記されている。

「ここから先は私たち殲滅部隊が呼んだ人材か、鬼に呼ばれた者しか入ることはできません」
「じゃあ、祐二君は…」
「私達が呼ばれていないのなら、恐らく……。鬼に心を喰われている可能性が高いかと思われます」

与一の質問にシノンが静かに答えた。

「心を鬼に食われたらどうなるの?」
「吸血鬼より質の悪い…理性のない人喰い鬼と化します」

シノアが説明を続けていると、優一郎がそんな説明はいらないと言い放ち勝手に扉を開けようとする。

「待ってください! まだシノア姉様の話は終わって…「んな事関係ねぇよ、さっさと終わらせりゃ良いんだろ?」
「なっ……!?」

優一郎の言葉にカチンときたシノンは苦虫を噛んだような表情を浮かべる。
そんなシノンを無視する優一郎が扉を開けると…無数の武器が床に突き刺さっていた。
真ん中には魔法陣と思わしきものがあり、

「あれが……」

奥に鬼に取り憑かれたと思われる男性が角を生やし、巨大な斧を手に持っている。

「! ちょっ…百夜さん」
「待ちなさい、百夜 優一郎」
「! んだよ、まだ文句でもあるのか?」

シノアが奥に進もうとする優一郎を止めようとした瞬間、シノンが先に優一郎の服の裾を掴む。

「とても危険な状況だとまだ分かっていらっしゃらないのですか? 優一郎様、ここは私が引き受けます。どうかお下がりください」
「っ……! 出来るかよ、んなの!!!」
「!? 優一郎様っ…!?」

嫌な予感を感知して裾を握る力を強めようとしたが、彼はすぐにすり抜け真っ先に鬼となっている男性の所に走り出す。
そんな優一郎にシノアは困った…と思いつつ、与一に月鬼ノ組に応援要請するよう頼む。

「あ、呆れてものも言えないです…」
「本当、どこまでも猪突猛進ですね。あの人は」

シノンとシノアが会話してる間にも優一郎は鬼と応戦している。
そして、"鬼呪装備"に触れようとした瞬間……

「!!」

シノアの"鬼呪装備"の鎌が、優一郎の目の前に現れた。

「シノア姉様…!」
「まったく、どこまで協調性がないんですか」

シノアはそのまま鬼呪装備に素手で触れたら鬼に侵食され、同じような鬼になると忠告する。
しかし、それでも優一郎は鬼には負けないと言い張る。
それでも説得を試みるが、

「じゃあ、俺が鬼に負けないってことをいま証明してやるよ」
「!? 武器をっ……!?」

優一郎は武器を置き、何も持たぬまままた鬼の元へ走り出す。
鬼の攻撃をギリギリかわし、隙を突いて斧の柄を強く掴んだ。その瞬間……

「!! 優一郎様っ!!!」

シノンの呼び掛けも虚しく、倒れ込むように意識を失った。

「シノア姉様! このままだと…!」
「……どうなるのか、待つしかありませんね…」
「っ…。何で、そんな無茶を……」

このまま戻って来なければ、鬼になってしまったら……。
シノンは今にも泣きそうな顔をしながら優一郎の手を包むように握る。
その時、彼女はある人物を思い浮かべた。

世界が崩壊した後、行方が分からなくなってしまった初恋の人の後ろ姿を……。

それからしばらく経ち、優一郎はようやく目を覚ました。
彼は鬼が見せた幻覚を強い意志で抜け出せられたのだ。

その後、シノアに次の段階に進める事が出来ると聞いた彼は歓喜の雄叫びをあげた。
しかし、シノンだけは納得が行かず……

「…優一郎様」
「ん? どうしたシノン?」
「何で、あのような無茶をなさったのですか……?」
「あ? …決まってんだろ。俺は吸血鬼に復讐する為に力を手に入れたい。それだけだ」

そう言った優一郎はグッと握り拳を作る。

「…それで、鬼に呑み込まれなかったのが不思議でなりません……」
「不思議って、俺そんなにヤワに見えんのかよ…」
「そうです」
「…………」

真顔での即答に言葉を失う。

「でっでも良かったね優君! ね、シノンさん!」
「…やっぱり、納得行かないですよ……」

与一のフォローをバッサリ切るように今だにぼやく。

「あのような無茶をし続ければ、後戻りは出来ませんし復讐も何もかも出来ませんよ……?」
「…じゃあ聞くけどよ、シノン。お前は何の為に帝鬼軍に入ってんだ?」
「私、ですか…」

優一郎の問い掛けに、すぐ答えられなかった。
別の意味とはいえ、彼と同じように吸血鬼に復讐心を抱いているから……。

「っ……」

時間が経つごとに話し辛く感じ、眉をしかめる…と。

「…その、変な事聞いて悪かった」
「えっ、わっ……!」

突然くしゃっと頭を撫でられた。
一瞬だけ何事かと思考が止まり、優一郎の手が頭から離れて少し経った後にようやく口を開かせる。

「…殿方に頭を撫でられるなんて、一生の不覚です…………」
「はぁっ!?」
「あははっ、もしかしてシノンにベタ惚れしたんですかぁ〜?」
「してねぇしっ!!!」

茶化すシノアに全力で否定する優一郎。
与一はそんな2人を止めようと慌てふためき、シノンは優一郎達が見ていない間に撫でられた感覚をもう一度確かめるようにそっと頭に両手を乗せた。

こうして、優一郎と与一は明日から次の段階となる吸血鬼殲滅部隊の訓練校に通う事になった……。

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