最悪のフタリ 1
「ふぅ……」
優一郎、与一よりも先に月鬼ノ組官舎に着いたシノンは彼らを待ちながら入り口付近の柱に寄り掛かっていた。
それから数分後、
「あっ、優様! 与一様…!?」
2人の姿が見え出迎えようとしたのだが、優一郎の顔を見た瞬間目を大きく開かせた。
その優一郎の顔はまるで誰かに殴られたような痣が出来ていた。
「おう、シノン」
「おう、じゃないですよ優様!? 一体何がっ……!?」
「何って…。でかくて目つきがクッソ悪りぃ電柱に思いっ切り顔面ぶつけただけだよ」
「電柱にっ!?」
彼の言葉の端々に突っ込みたい要素が沢山あり、全くもって状況が掴めない。
「あはは、僕も何回か同じような事聞いたんだけど……」
「良いから早く中に入ろうぜ? 俺はずっとこの時を待ってたんだからよ」
「いや、えぇえ…」
充分な説明を聞けず、本当に何が起こったのだろうか…という不安を抱いたまま彼らと共に中へと入り、既に中に入っていたシノアと合流する。
そう、優一郎と与一はこれから月鬼ノ組に入る為の研修教室に通うのだ。
しかし、優一郎は研修なんていらないとほざく。
「優様、そんな事を仰ったらダメですよ。ちゃんと鬼呪装備がどんなものか、呪術には何の種類が幾つ用いているのかを知らなくては、月鬼ノ組に入る事は出来ませんよ?」
「だけどよぉ…」
「まだ文句があるようですね、百夜さん? なら、研修を受けないという事で武器と制服なしで戦場へどうぞ」
ほとんど全裸じゃねえか!! と叫ぶ優一郎に与一は苦笑し、シノンははぁ…呆れながらため息をつく。
その後、与一の言葉に対し少しだけ優しさを見せたかと思いきや、相も変わらず復讐にまっしぐらな優一郎に3人はそれぞれ思う所があった。そんな時、
「つか、シノン。お前ちょっとだけ雰囲気変わったよな?」
「え……?」
突然話を振られたシノンはキョトンとした表情を浮かべる。
「ああ、何つーか…。昨日会った時はいかにも機嫌が悪いっつー感じしたんだよなぁ」
「それは、優様がとても好戦的な雰囲気を醸し出しておりましたし。シノア姉様やグレン中佐のお話もお聞きしてたから警戒していたというか……」
「で、今のシノンはどんな感じなのですか?」
「ん? まぁ…ふわふわしてる、って感じかな?」
「えっ、ふわふわ……」
どういう意味だろうか…と真剣に思考すると、
「ご明察♪ 確かにシノンは危なっかしくて儚げで、まるで小動物のように愛くるしい存在なのですよ!」
「シノア姉様! お言葉が過ぎてますっ!?」
「あら、私は事実を述べたまでですよ?」
「シノア姉様〜っ……!」
とぼけたように笑うシノアの袖を掴み、前言撤回するよう必死に訴える。
そのやり取りに優一郎と与一はまるで自分達だけ置いてかれているような感覚になっていた。
「シノンさんとシノアさん、本当に仲良しなんだね」
「…俺にはどうでもいい事だけどな」
「そっ、そっか……」
そんな会話をしている内に目的地に辿り着いた。
早速教室の中に入ると、軍服を着ている黒髪の男性が教壇に立っていた。
彼こそシノンや優一郎が何度も口にしている一瀬 グレン中佐本人である。
「遅ぇよお前ら」
「えと、お久しぶりです。グレン中佐」
「シノンまで来たのか? しょーがねーなぁ……」
グレンはやれやれ…と頭を掻いた後、話を進める。
その途中でシノアに担任は毎日教室に来る者だと指摘され、黙れとシノアの顔を見ないまま言う。
それからすぐ優一郎と与一の紹介をするのだが…あまりにも酷い紹介に優一郎はキレ、与一は落ち込んだ。
しかし、彼はそんな2人を気にせずさっさと自己紹介しろと告げた。が……
「いらねぇよ。俺ら友達作りに来たんじゃねぇんだ」
「ゆっ、優様…!?」
優一郎は馴れ合うつもりはない。
一番良い武器はもらうとクラス全員に宣言した。次の瞬間、
「以上じゃねえええ!!」
グレンに蹴り飛ばされた。
「あああ、もう……」
飛ばされてキレた優一郎はグレンと口論し、シノンはこれ以上見ていられないと顔を覆う。
「ああもういい、座れ馬鹿が!」
呆れ果てたグレンは怒りながら優一郎の席を指差す。
すると、その後ろにいる人物を知った優一郎は……
「んな…!! てめえ今朝の電柱!!? なんでこんなとこに!!?」
「ふざけんなそりゃこっちのセリフ…電柱ってなんだコラァ!!!」
「(あ、あの人が優様の言っていらしていた電柱…?)」
ピンクの髪と眼鏡と高身長が特徴的な少年と殴り合いを始めてしまった優一郎。
シノンが少年を一瞥しながら不思議そうに首を傾げる。と、
「あーーーやかましい!!!」
優一郎はその少年と二人揃って再び蹴り飛ばされた。
「ゆ…優くん!!」
「グレン中佐! いくら何でもやり過ぎではっ……!?」
「うっせぇよダダ甘末っ子!!」
「はうあっ…!?」
やり過ぎなのではとグレンに意見を述べようとしたが、何故か逆ギレされてしまいショックを受ける。
「…グレン中佐〜? 私の妹にそんな発言をするのですかぁ?」
「お前はまず鬼呪装備を出そうとするな!!」
「あー、クッソ面倒くせぇ…」と言った後、ダウンしている優一郎と眼鏡の少年を放っといて授業を始めようとするグレン。
その時、彼らを除く全員はこう思った。
「(このクラス最悪だ!!)」
「優様、初日から本当にすみません……」
「何でシノンが謝んだよ?」
「いや、グレン中佐が…」
ようやく初日が終わり、成り行きで一緒に歩いていたシノンと優一郎。
しかし、申し訳なさから彼の顔をちゃんと見る事が出来ず、視線を下に向け陰りのある雰囲気を身に纏う。
「別にお前が謝る事じゃねえし、アイツはいつもあんな感じだよ。だから気にすんな」
「でも……」
「つか、シノアと与一は?」
「えっと…。与一様は先に帰られて、シノア姉様はグレン中佐とお話があると仰られて反対側に行かれました……」
段々と顔を上げ始めるシノン。
彼女の返答にフーンと頷く優一郎は次にこう言った。
「つまり、さ……。俺達、今2人ぼっちっつー事なのか?」
「え? …っ!?」
その言葉で現状に気付いたシノンは慌てふためき始めた。
「って、そんな慌てる事かよっ!?」
「いえその私えとあのあわわわっ…!?」
シノンにとって男性と2人きりというのは幼少期以来久しく、余計に意識してしまう。
優一郎は一体何なんだよ…と目を細めつつ、
「とりあえず…。落ち着け、よっ!」
「ふぎゅっ!?」
両頬を手で挟んだことで彼女はようやく落ち着いた。
「落ち着いたか?」
「す、すみません……」
「とにかくだ、俺は誰よりも早く鬼呪装備を貰う。そして、吸血鬼どもを残さず皆殺しにする」
「…それを、果たしたら」
「……?」
「それを果たした後は、どうされるおつもりですか…?」
シノンはまっすぐ優一郎を見つめる。
その瞳は、昨日とは違う意味で凛としている。
「…さぁ、な。その時はその時だ」
一瞬考えた優一郎は手をゆっくりと離しながら返答する。
「そう、なのですね……」
「シノン、これ以上俺と関わるのはやめた方が良いと思うぜ? 何の理由で入ったんだが知らねえが…もし、お前も復讐が目的なら」
「なら……?」
「…お前には、んな覚悟ねえと思うから」
「!! そんな事は、っ………」
言い返そうとしたが、グッと堪える。
「…今は、まだ私の目的を言う事は出来ません。もし言うのなら、その時は……。貴方が、月鬼ノ組に入った時になります」
「! それって…」
「まずはこの研修教室で無事に鬼呪装備を貰い受ける事が出来ましたら…に、なりますけれど」
「上等だ! ぜってぇ鬼呪装備を手に入れてやるよ!」
「…やっぱり、優様は本当に単純で素直なお方です」
俄然とやる気が湧いたらしい優一郎にクスリと微笑む。
「ん? 何で笑ってんだ?」
「いえ、何でもないですよ?」
「んーっ…?」
シノンの答えを聞いた優一郎は首を傾げながら歩みを進める……。