漆黒のアシュラ 1






「うぬぬっ……」

この前行われた呪術筆記試験の英語とラテン語の答案用紙を見ながら眉間にしわを寄せているシノン。
その様子から察する通り、彼女は英語が苦手である。

「うーん…。吸血鬼に対しての敵対心が強い故に、英語を一切習わなかったからなのは分かるのですが……」

どう見ても変わらない結果にため息ばかりが口から出る。
因みに、日本語の方は100点満点だ。

「これがシノア姉様にバレてしまった日には……」

冷や汗をかきながら周りを見渡している。と、

「うわーすごいこれアレじゃないですか! 超人にしか取れないと噂の、あの伝説の点数じゃないですか!」
「!? え? 私じゃ、ない……?」

シノアの声が耳に入りバレた…!? と焦るが、優一郎の答案用紙のことを指していることに気が付く。

「あっ…。優様、すみません……」

そんなシノアに翻弄されている優一郎の様子を少し遠くから見えたシノンは、恐らくシノアにより晒された彼の点数と同じであろう点数の英語とラテン語の答案用紙を大事そうに抱える。
そのまま君月と殴り合いに発展しそうになっている彼に気を向け、

「さぁ〜て、愛しのシノンちゃんは何点取れたんですかねぇ〜?」
「えっ? はうあっ!? シノア姉様! 返してくださっ……「はい、これが私の妹の英語とラテン語の点数になりますよ〜♪」
「いやああぁぁあっ!!?」

優一郎達の前に持っていたはずの答案用紙が出され、断末魔のような悲鳴を上げる。
その紙を見た彼らの反応はというと、

「0点……。コイツもだが、どんだけだよ双子妹」
「シノンさん…」
「…………」
「凄いですよねー? シノンったら、"吸血鬼と同じ言語は覚えたくないです!!!" ってずーっと英語を学ぶ事を拒み続けてたんですよ?」
「もう、生きるのが辛いです…………」

シノアの暴露話を聞き続け、羞恥心から今すぐ穴に入りたい気分だった。
しかし、優一郎は……

「…シノン」
「ふぇ……?」
「お前、日本語は何点だ?」
「えっ、と……。これ、です…?」

真剣な表情をする優一郎に何事だろうか…? という疑問を抱きながら日本語の答案用紙を見せた。次の瞬間、

「シノンっ!!!」
「ふあっ!? ゆっ、優様…!!?」

突然両手を握られ、思いもよらぬ事態に狼狽える。
そんな彼女の様子を気にしない優一郎が次に告げたのは、まさかのお願いだった。

「俺に、漢字を教えてくれ!!!」
「…へっ、え?」

何を言っているのか理解出来ず、次第に首が傾く。

「君月のヤローにギャフンと言わせてぇんだよ……」
「あ…。えと、わっ私でよろしければいくらでもお教え致します……」
「本当かっ…!? イイ奴だな、お前!」
「い、いえっ……」

何が言いたいのか察し、承諾の返事をするとイイ奴だと褒められ、頬を染めながら照れる。

「その代わり、英語は任せろ……!」
「! あっ、ありがとうございます…!」

凄くありがたい…! と彼の手を握り返すと、

「あらあら? 何を話しているんですか、お二方? やっぱり…出来ているんですかぁ?」
「ほぁっ…!? ちちちっ、違いますってば……!!!」
「お前、さっきまで愛しの妹言ってたろ……?」
「あはは……」

シノアの茶化しに君月は呆れ、与一は苦笑する。

「俺らはただ秘密の話をしてただけだよ。なっ、シノン?」
「そっ、そうです! 秘密の話をしていただけです!」
「の、割には……。手が繋がれたままですが?」
「……!?」
「ん…?」

指摘されたタイミングで教室のドアが開き、入ってきたのは……

「おい優、いつの間にシノンと出来てやがんだ?」
「グッ、グレン中佐…!?」

10日程失踪していたグレンが教室に戻って来た。
そんな彼にも何故か勘違いされ、シノンはそろそろ気を失いそうだ。

「馬鹿グレン!! てめぇいい加減俺に鬼呪装備よこせよ!!」
「…んな事言える態度か?」
「はぁっ!? 何の事だよ!?」

眉間をピクッと動かしたグレンは分かりやすく優一郎とシノンの手を指差し、ハッ!? となった優一郎はすぐに手を離す。

「は、はわわっ……」

離れた後もシノンはまだ心臓がバクバクしている。
その後、ようやく本題に入ろうとした優一郎だが先に君月がグレンに何故10日間もいなかったのかと問い掛け、結果それが引き金となり……

「「フンッ…!!!」」

お約束の如く、殴り合いが始まってしまった。

「あああっ!? お二人共落ち着いてくださいっ!!」
「まだ授業中だよっ……!」

シノンと与一は殴り合いを止めようと慌てながら宥め、シノアは「あはは♪」とまるで他人事みたいにその様子を楽しむ。

「って、シノア姉様も手伝ってください!!!」
「…ありゃ。まさか中佐、攻撃するつもりですか?」
「っ!?」

シノアの言葉に反応するようにグレンの方をバッと向くと、彼は"鬼呪装備"の剣を鞘から抜きながら「死んだ奴は、修練足りてなかった自分を恨め」と言い、

ズッ……!!!

「っ…!!」

圧倒的な呪力のオーラが教室全体に広がっていく。
シノンは何とか立っているが、自身の"鬼呪装備"以上に強いそれには流石に少々体が堪える。
シノンの他には優一郎・シノア・君月・与一・そして呪符を構えた小百合が立っている。
君月に関しては息苦しいのか胸元を掴むように押さえているのが見受けられる。

「(これ、が…。グレン中佐の、"鬼呪装備"……)」

グレンはこんなにも邪気の強い鬼呪装備を余裕でコントロール出来ているのか……。
改めてグレンの凄さを体感していたそのとき、

「シノン……」

「っ、え……」

もういないはずの"もう1人の姉"の声が、一瞬だけ聞こえた。
その声に気を取られていた間に既にオーラは収まっており、倒れている生徒が多数いる中グレンは「立っていられた奴は、自分が持っているのと同じ『黒鬼』シリーズに挑戦出来る」と言い、今現在立っている人数を数え始めた。

「…おい、柊双子。おまえらは気絶しろよ」
「ははっ」
「えっ、あ…。す、すみません……」

シノアはとぼけるように笑い、シノンは頭を下げながら謝る。

「呪符無しで余裕な顔しやがって……。さすが、日本帝鬼軍の当主筋−−−柊家様ってわけか?シノンはともかく、シノア。おまえ可愛げないぞ」

その言葉を聞いたシノアは「こんなにも可愛いじゃないですか〜?」と言うが、「死ね」と返された。
すると、小百合が与一が『黒鬼』シリーズに挑戦するには少し無茶があるのではないかとグレンに意見を述べ、グレンは「強さがなければ死ぬ。そういう世界だ」と答えてから与一にどうしたいのか問い掛ける。
優一郎や君月はやめた方が良いと言う中、与一は……

「グレン中佐!! 僕やります!!」
「! 与一様……」

与一の答えに、彼も優一郎や自分と同じなのか…と思ったシノンは腕を強く握りしめる。
この後、彼女達はグレンの案内である場所へと向かうことになる。
それは、『黒鬼』シリーズが保管されている地下だった……。

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