漆黒のアシュラ 2






「さーて、ここだ」

扉が開き、すぐ目に飛び込んできたのは巨大な鬼と思われる幾つもの銅像だ。
その銅像の前には魔法陣…否、"鬼呪装備"・『黒鬼』シリーズの封印呪が施されていた。

「ここが、『黒鬼』の……」

シノンは銅像を見上げる。
優一郎達はこの『黒鬼』シリーズにこれから挑戦する。
『黒鬼』は鬼呪装備の中でも最高ランクではあるが、同時に扱いこなすのが難しいと聞く。
それに彼らは本当に挑むのか。
もし、失敗したら……。
そんな心配をするシノンをよそに優一郎達はドンドン話を進め、

「はは、いいねえ。俺はずっとこういうのを待ってたんだよ」

そう言った優一郎はゆっくりと刀の"鬼呪装備"の封印呪に近付き、

「力を手に入れて、家族を−−−"ミカ"を殺した吸血鬼どもを皆殺しにする!」
「!?"ミカ"……?」

優一郎の言葉にシノンは耳を疑う。
たった今、"ミカ"という言葉が耳に入ってきた。
名前だけで初恋の人と同じという保証が無いのに。

「ミカ、様……」

ふと思い出し、誰にも聞こえぬ声音で初恋の人の名を呟く。

「抜け。そしたら始まる」
「……わかった。じゃあやるぞ」
「優様…」

初恋の人との思い出は一旦記憶の隅に置き、手を重ね合わせる。
優一郎が無事に鬼と契約出来るように、ただ祈る。

「俺に力を寄越せよ、クソ鬼が!!」
「! 優様っ!」

刀を鞘から抜いた瞬間に封印呪が光り、…優一郎は横たわるように倒れた。

「始まったか……」
「君月さんや与一さんも、始まったみたいですよ」

グレンとシノアは平然とした様子で彼らを見守っていた。

「あの、グレン中佐……」
「ん、何だ?」
「優様達は…」
「まぁそう慌てんなって。もしアイツらが鬼になったら…そん時は、俺らが対処すればいいだろう?」
「で、ですが……」

本当に彼らが鬼になってしまったら、きっと迷いが生じるのかもしれない……。
より不安を募らせていると、

「…えいっ♪」
「ふにゃっ! シ、シノア姉様……?」

シノアに両頬を押し寄せられ、一瞬驚いた。

「その時はその時です。今の貴女に出来ることは、彼らが成功するのを祈るだけですよ?」
「…そう、ですね」

シノアなりの励ましに思わず笑みがこぼれ、彼女の言う通り優一郎達の儀式を静かに見守ることにした。
それから十数分後、最初に起き上がったのは……





「っ…。たく、タチの悪い鬼だな……」
「君月様!」

君月は髪をかき上げながら上半身を起こす。

「君月さん、クリアしたみたいですね」
「まぁな……」

シノアの言葉に答えられるが、起きたばかりだからか瞼が重たそうに開いている状態だ。

「君月は成功。さて、次はどっちが起きっかな?」
「……」
「あら、どこに行くのですかシノン?」
「えっと…。優様の所に、行きます」
「なるほど〜? 愛しい愛しい想い人が「違いますっ!!!」

茶化されたシノンは顔を赤くさせたまま、今だに眠っている優一郎の元へと歩み寄る。

「優様…」

彼の横に座り、そっと顔を覗こうとした。その時、

「…シノン?」
「っ……!?」

タイミング良く彼は目を覚まし、朧気な意識の中シノンの名前を呼ぶ。
それに気付いたシノンは咄嗟に立ち上がり、目を見開かせたまま後ずさる。

「ゆっ、優様…!?」
「お、うまくいったか? 優」

グレンに声を掛けられた後に刀を見た優一郎は何だか嬉しそうな表情を浮かべていた。
優一郎も成功したみたいだ…と安堵すると、

「余裕こいてんじゃねえよ」

今度は君月が彼に話し掛け、先程契約に成功したばかりの"鬼呪装備"を持ちながら歩いている。
…が、与一は−−−。

ドンッ!

「なんだっ」
「!? これはっ……!!?」
「あーあ、まじぃな。与一はやっぱちょい力が足りなかったか」

グレンは優一郎と君月に「"人喰いの鬼"を始末しろ」と命じた。
そして、その"人喰いの鬼"とは……

「…危険な人間は、皆殺しにしよう」
「与一…!?」
「っ、与一様……」

弓を持ち、頭に角を生やしている与一が天井付近にいた……。

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