三葉のチーム 1






「風が、少し強いですね……」

渋谷の城壁外付近でシノンは優一郎、シノアが来るのを待っていた。
日本帝鬼軍の制服を身に纏い、髪も下ろしている彼女は少しだけ大人びた雰囲気を感じさせる。

「優くんとシノアさん、まだ来ないねぇ」
「ったく、俺らは早く着いたっつーのに」
「き、君月様……」

先に着いていた与一や君月も2人を待っているのだが君月は若干苛立っており、シノンはまぁまぁ…と彼を宥める。と、

「おう、お前らもう来てたのか?」
「グレン中佐、おはようございます」
「おっ、おはようございます!」

グレンが反対側から現れ、シノンと与一は挨拶をする。

「お? 君月、妙に機嫌悪いなぁ?」
「別に、何でもないです」
「ほぉーっ、まぁ良い。シノン」
「えっ? あっはい、何でしょうか…?」

突然呼び掛けられたシノンは目を丸くさせながらグレンの返答を待つ。

「…女"共"の面倒を頼んだ」
「ど、"共"…ですか?」

何を言っているのだろうか、グレン中佐は…?
そう思いながら言葉の意味を考えようとした。その時、

「っ……!」
「? 誰だアイツ?」
「本当だ、誰だろ?」
「え、誰かいらして……! 三葉様!?」

こちらに向かって来る金色の髪を上に2つ結っている少女に驚くシノン。

彼女は三宮 三葉。
シノンやシノアの幼馴染で、名門・三宮家の次女である。
何やら納得の行っていない表情を浮かべているみたいだが……?

「グレン中佐!! あたしは納得いきません!!」

「!? え、えっ!?」

唐突にグレンに抗議する三葉。
グレンはそんな三葉に少々困り果てているような様子を見せる。

「みっ、三葉様!」
「シノン! これはどういう事だ!!」
「えぇえっ!? わ、私に聞かれてもっ!?」

声を掛けた矢先に今度は自分に向けて問い掛け、目が回るような感覚に見舞われていると……

「あ、優くん!!」
「! 優様……!」

与一の反応に気付き、視線をずらすと優一郎とシノアの姿があった。
その時、三葉は再びグレンの元へ行っていた。

「シノン。何かあった……」

ようやく解放されたシノンはすぐさま優一郎達の元へ小走りで向かう。
全く状況を把握していない優一郎は何があったのか訊ねようとしたが、学校にいたときとは違う彼女の姿を改めて確認した途端に見惚れ、聞こうとしていた内容を全て忘れてしまった。

「…優様? あの、どうかなさいましたか?」
「あ、いや…。何でもねぇよ」
「そ、そうなのですか……?」

身長差が大きいこともあり、シノンは上目遣いで彼を見る。

「お、おぅっ……」

優一郎は全く直視できず、不自然に顔を逸らした。

「シノンったら〜、この天然小悪魔さんめっ☆」
「えっ? て、天然小悪魔さん……?」

シノアの言っている意味が分からず、目をパチクリとさせる。

「ってか……アイツ何なんだよ?」
「新しい仲間だとさ」
「三宮 三葉さんっていうらしいんだけど……」

三葉の方に視線を戻せばまだ抗議していた。
しかし、その内容に耳を傾けると…分隊長がシノアになるようだ。
そのとき、グレンは優一郎とシノアが来ていたことにようやく気が付き、

「ああ揃ったな。じゃ、今からおまえらに命令を……「現れたな柊 シノア!!」
「はーい、私が現れましたよみっちゃん」
「シ、シノア姉様…。ここは、穏便に……」

揉め事が起きぬようシノンはあらかじめ注告しようとするのだが、その前にシノアは三葉の神経を完全に逆撫でし、互いの鬼呪装備をぶつけ合う。

「あぁっ、もう……!!」

ちゃんと言ったのに…! と顔を覆いながら嘆いている間にグレンが2人の鬼呪装備を弾き飛ばし、一旦収束した。

「とにかく、こいつがおまえらの新しい仲間−−−三宮 三葉だ」

三葉の頭をポンポン叩きながら改めて優一郎達に彼女を紹介するグレン。
その後、隊についての説明をし、シノアは優一郎にちゃんと聞いていたか確認するのだが……

「はっ、約束できねぇな」

優一郎は続けて話していた…次の瞬間!

「!? 三葉様! 優様っ!?」

三葉が優一郎の顔を目掛けて蹴り上げようとしたが、彼は腕でそれを止めた。

「ふぅん、反応はいいな。だが、あたしはおまえのような馬鹿が一番嫌いだ」
「三葉様……」

三葉のその言葉に深い意味を持っている事を知っているシノンは少し俯く。
それと同時に本当にこのチームで行動して大丈夫なのだろうか…という不安も募らせる、と。

「つか、まだアイツ来てねえのかぁ?」
「? あの、この6人で行動するのではないのですか?」
「あー、言ってなかったっけか? おまえらのチームには『黒鬼』シリーズ持ちが3人もいるだろ?」
「『黒鬼』が3人っ…!?」

グレンは驚く三葉を気に留めず、話を続ける。

「んで、そこでだ…。優・君月・与一。おまえらよりも早く『黒鬼』シリーズをゲットした奴を監査官としておまえらのチームに入れる」
「優様達よりも先に……」

シノンはその人物に心当たりがあった。
いや、シノアや三葉も恐らく同じ相手が浮かんだのであろう。

「まぁ、すっげぇぶきっちょで常に仏頂面してる奴だが仲良くしてやってくれ」
「グレン中佐……」

そう言いつつとグレンは苛立っていた。そのとき、

「"大将"、今来た」

淡々とした口調をした少女の声がし、声が聞こえた方へ顔を向ける。
その声の主は、

「やはりでしたか…真音様!」
「シノノン、久しぶり」
「おまえもなのか、真音……」
「久しぶりですね〜、まっちゃん♪」
「三葉、シノアも久しぶり」

シノン・三葉・シノアに次々と声を掛けられる濃紺の髪に藍色の瞳をしている少女こそ、グレンが言っていた優一郎達よりも先に『黒鬼』シリーズの保持者になった虎賀 真音だ。

「遅えよ真音。完全遅刻だ」
「"ヨハネの四騎士"倒してたから遅れました。大将」
「だから、俺は大将じゃねえつってんだろ」

全く反省をしている素振りを見せぬ真音にグレンはくしゃっと頭を掻く。

「師匠が「大将って呼んであげたら、きっとグレン喜ぶと思うよ」って言ってた」
「…アイツ」

グレンは彼女の師匠で自分の友人である人物を思い浮かべた。

「まぁいい…。ホラ、そこでポカンとしてる3人に自己紹介しろ」
「了解。僕は虎賀 真音。多分後は大将から聞いてるだろうから言わないでおく」
「えと…真音様は三葉様と同時期に殲滅部隊に入られて、私達と同い年ですよ!」

真音の簡潔的な自己紹介にシノンはすかさず補足する。

「シノノン、ありがとう」
「いえいえ……」

シノンは苦笑しながら彼女のお礼に答える。

「…本当に無愛想だな、アイツ」
「本当に俺らの監査官になるのか?」
「あ、あはは……」

優一郎と君月は彼女を凝視し、与一は何とも言えず乾笑いするしかなかった。

「真音様、こちらの方々が真音様と同じ『黒鬼』シリーズの保持者である優一郎様・君月様・与一様です」
「フーン……!」
「えっ…?」
「真音様…?」

シノンから優一郎達の紹介をされた真音は流すように優一郎・君月と順に見ていたが、与一が視界に入った途端に目を見開かせ……

「……」
「え、ぼっ僕…? あ、あの何か……!?」
『!?』

与一は無言のまま自分の元へ歩み寄る真音に不安を抱きながら直接訊こうとしたのだが…気が付いた時には、彼女に抱きしめられていた。

「ずっと、会いたかった……」
「えっ、え……!?」

何を言っているのか理解できないだけでなく、初めて女の子に抱きしめられたことで一気に顔が赤く染まり口もパクパクと開け閉じさせる。

「真音様、与一様とお知り合いなのですか?」
「そ、そうなの……!?」
「…覚えて、ない?」
「え、っと……」
「……」

与一の様子を見た真音は少し悲しそうな表情を浮かべながらゆっくりと彼から離れた。

「そっ、か……」
「ご、ごめんねっ…。あの、どこかで会った事が……?」
「…………」
「ったく、色恋沙汰するくらいなら帰れよおまえら」
「すみません、大将……」
「えっ!? あ、すっすみません!」

釘を刺すかのように言うグレンに、真音と与一はそれぞれ謝った。

「……」
「真音様……」

普段の真音を知っているシノンからしたらとても珍しい出来事だ。
無表情気味である彼女が、ここまで感情をハッキリと見せるなんて……。

「な、何が起きたんだ……?」
「分からないんですか?優さんはまだまだ子供ですねぇ」
「はぁ!?」
「ギャーキャー騒ぐなおまえら、まだ話は終わってねえぞ」

面倒くせえ…と再び頭を掻いた後、グレンはようやくシノン達に任務を与えた。
まずは原宿に行き吸血鬼達が人間を狩り家畜化している集落を潰し人間を解放したのち、新宿に向かえという内容である。

「それでは皆さん、行きますよ」
「おう」
「はい……!」
「…ん」

こうして、柊 シノア隊となるシノン達の初任務が始まった……。

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