殲滅のハジマリ 1






「いったいあの百夜 優一郎とかいうのはなんなんだ!!」

そう叫びながら、体を洗う三葉。
そのすぐ後にシノアにからかわれるように声をかけられたが、過去の事を指摘され冷静を保つように勝手に入ってくるなと告げる。
が、それが余計にシノアの悪戯心を助長させてしまう結果になった。
そんな事が起こっている中、シノンは……

「…………」

昼間の優一郎の事を思い浮かべながら、ただぼぅっとシャワーを浴びていた。

「(あの時の優様、少しだけ…怖いって、感じた……。以前、グレン中佐から前に吸血鬼の都市に連れ去られたというのは聞いていたのですが……)」

前にグレンから聞いた話も思い出し、より考えに耽っていると……

「……シノノン」
「! …真音様」

真音が、仕切っているカーテンから顔を覗かせながら声をかけて来た。

「シノアと三葉が騒いでたけど、シノノンの声だけ聞こえなかったから心配した」
「え…。あ、すみません……。少し、考え事に耽っていて…………」
「……そっか」

シノンの答えを聞いた後、真音はそのままカーテンを開け中に入って来た。

「ふぇっ!? 真音様……?」

シノンは唐突な事にギョッとするが、入って来た瞬間からその引き締まった腕脚やスラッとしている体型に、思わず見惚れる。

「……? どしたの、シノノン?」
「あ、いえ…。真音様、本当にスタイルが良いな……って」
「そうなんだ?」
「はい。私なんて小柄過ぎるし、胸元だって余分な程のものが付いてますし……」

そう言いながら、視線を落としつつ自身の胸元を見る。
そこには小さな体にはとても似合わぬ程のふくよかな2つの膨らみが主張していた。

「…うぅっ」

改めて見えるそれが何故身長に行かなかったのかとへこんでいたら……

「…僕は、その胸筋が羨ましいと思うけど」
「羨ましく思わな……。え、今なんて?」
「? その胸筋が「待ってくださいっ!!?」
「何で…?」

何でそんなに驚いているんだ…?と言うように、目を丸くさせながら首を傾げる真音。
どうやら、シノンが慌てている理由に気付いていないみたいだ。

「いやあの真音様…? ここは胸筋ではなくて……。ちっ」
「ち……?」
「…赤ちゃんが、母乳を吸う所です…」
「ふーん、そうなんだ」

直で言うのが恥ずかしくなったシノンは、敢えてぼかした。
教えてもらった真音はふんふんと頷く。

「真音様、ここが胸筋だというのは誰から教わったのですか?」
「聖璃パイセンから」
「聖璃様…………」

真音の口から名門・九鬼家の長女で自分の従者である聖璃の名前を出され、シノンはやっぱり…とため息をついた。その時、

「シノンちゃん〜っ♪」
「ふぇああっ!!?」
「あ、シノア」

真音との会話に気を取られていて気が付かなかったが、ひそひそと忍び足でやって来ていたシノアに突然抱き付かれた。

「ほっほ〜う、流石は姉さんや私の妹。ここが良い感じに実ってますねぇ♪」
「あああ、やめ…ひゃうっ!?」

胸を弄り始めるシノアを何とか止めようとするのだが、上手く止められず最早されるがままの状態になっている。

「真音様っ、シノア姉様を止めてくださいっ……」
「……姉妹水入らずの邪魔になりそうだから、先に出る」
「え、待ってくださっ…真音様あああ−−−っ……!!?」

叫ぶように真音を呼び止めるシノンは、しばらくシノアの若干(?)激しいスキンシップを受け続けた……。





「はぁ…。やっと、解放されました……」

10分くらいしてシャワールームから上がったシノンはノースリーブブラウスとハーフパンツといったラフな格好に着替え、誰よりも長い髪を丁寧に乾かし右側に緩く結った後ようやく廊下に出た。

「全く、シノア姉様ったら……」

まだシノアに散々触られた感触が体から離れず、少し口を尖らせながら眉をひそめた。その時、

「ほいっ」
「わひゃっ!? あ、真音様…」

頬に冷たい感覚がしすぐに振り返ると、真音が2つのコーヒー牛乳を手に持っていた。

「飲む?」
「あ、ありがとうございます……」

折角の厚意を断るわけには行かないとコーヒー牛乳を受け取り、そのままちびちびと飲む。

「姉妹水入らず、楽しかった?」
「出来れば、止めて欲しく思いました……」
「そうなんだ。でも、凄く楽しそうに見えた」
「そんな事ないですってば……」
「…僕、姉ちゃんと離ればなれになったから」
「……! ご、ごめんなさい真音様…」

真音のその一言を聞いたシノンは慌てて謝った。
それは、真音の過去を知っている故である。

「大丈夫、姉ちゃんはきっと…生きてる、はずだから」
「っ、真音様……」

こちらを見つめる瞳から、純粋にそう信じているのがハッキリと分かる。
その瞳を見た瞬間に何とも言えなくなったシノンは、俯く事しか出来なかった。すると、

「ん…。シノノン、あそこ」

真音の呼びかけに気付いて顔を上げたら、同じくシャワー上がりであろう優一郎達の姿が見えた。
昼間に助けた少女もそこにいるが、三葉の姿はどこにも見当たらない。

「三葉様、まだ優様に怒っていらしてるのですね…。って、あれ?真音様……?」

安易に想像がつきやすく苦笑するしかなかったが、いつの間にか隣にいたはずの真音の姿が無くキョロキョロと見渡すと……

「あっあの、真音さ…「真音で、良い」
「真音…ちゃん」
「ん。どうしたの?」
「えぇっと……」

突然自分の隣に来た真音に、与一はどう言えば…と困惑している。

「オイ真音、与一が何か困ってんぞ?」
「うるさい優二」
「優一郎だよっ!!!」
「何漫才しているんだよ、おまえら」
「何、君玉子?」
「…ワザと間違えてんだろおまええぇええっ!!!」
「おっ落ち着いて皆……!?」

ワザとに近いくらい名前を呼び間違える真音に腹を立てた優一郎と君月はグググッ…!と拳を作り始め、与一は必死に2人を宥める。

「あっはは〜、もう仲間割れですかぁ?」
「シノア姉様、そう言っているお暇があるのなら止めましょう」

それを楽しそうに眺めているシノアにツッコむシノンの近くには、女の子がかなり不安そうな表情を浮かべていた。

「一体、何をされていたのですか?」
「ああ、シノンは今来たばかりでしたもんね。この子から情報を教えてもらっていたんですよ」
「情報……?」

シノアは、シノンに女の子から聞いた情報を全て伝える。

「成る程……。ありがとうございます、今日はもうお休みになられても大丈夫ですよ?」
「あ、はい…。あの、お兄ちゃん達は……」
「大丈夫です。私が場を収めますので」

そう言い、笑顔を見せたまま女の子を見送った後……

「…落ち着いてくださいっ!!!」
『!!?』
「って、シノン!いつからいたんだ?」
「つい先程こちらに来たばかりなのですが……」
「オイ、アイツ何とかしてくれよ……」

君月は、まだ与一の側から離れない真音に指差す。

「え、えぇっと…。あの、真音様にも事情がありまして……。すみません…………」

シノンは、深く頭を下げた。
しかし、当の本人は……

「与一、髪の毛乾いてない」
「えっ、あの……!?」

与一の髪が半乾きなのが気になり、与一の首に掛かっているタオルで水分を全部取るように拭く。
その様子を見た優一郎達は、

『…………』

これ以上怒っても意味ねえな…と諦めた。
それと同時に、シノアの楽しげな笑い声も聞こえてくる。
とりあえず、明日に備えひとまず部屋に戻る事にした時……





「ん? なぁシノン……?」
「はい? どうしました……ふぁっ!? ゆ、優様っ…?」

優一郎に声をかけられたシノンは、どうしたのかと尋ねようとしたら…優一郎の手が両頬を包むように触れ、一瞬肩を竦めた。

「あっ、悪りぃ…。熱でもあんのかな? って思って」
「あ、えっと…。私、シャワーだけでもすぐに頬が火照りやすくて……」
「そうなのか?それなら良いけどさ」

パッとすぐに手が離れたのだが、まだ頬に熱を感じる。

「……優、様」
「ん?」
「お、おやすみなさい…ませ」
「おう、おやすみ」

また明日な、と言いながら優一郎は部屋へと戻って行った。
そして、1人残ったシノンは……

「…………ま、まだ…。熱いっ……」

一体、何が起こっているのだろうか…という疑問を抱きつつ、フラフラとした足取りで部屋に向かう。
その後、吸血鬼達が潜んでいるとされる場所へ朝早く向かう為に、ベッドに入ったと同時に先程の事を一旦頭の隅に置くように深い眠りへと入った……。

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