襲撃のヴァンパイア






『……』

顔にキズがついている助手席の優一郎と運転席の君月、暗いオーラを身に纏いながら俯く予備シートのシノン。
後部席では窓際にはシノアと三葉、真ん中には肩身が狭そうに縮こまっている与一と彼の腕に自分の腕を絡めている真音がいる。
どうして優一郎と君月だけキズだらけかというと、現在君月が運転しているこの車に乗る前に様々ないざこざがあったから、とだけ言っておこう。

事の発端はこの2人なのだが、関係のないシノンはシノアが指摘された背の小ささがグサリと精神に刺さり、今の状態に至る。

「もう…シノアを身長でからかうのはやめよう」
「…ああ、そうだな」
「…………」

シノンは、ただ2人の会話を聞き入れる事しか出来ずにいる。

「…あの、シノン?」
「何ですか……」
「その、何かごめん……」
「言っとくけど、別にお前に言っていたわけじゃないからな」
「…私、この中で一番背丈が小さいですよ……」
「「えっ……」」

衝撃的事実を告げられ、そうだったのか…と開いた口が塞がらない。

「あー、えっと……」
「本当にすまん、双子妹…」
「お気になさらないでください。言われ慣れてますし…。後、よく小学生と間違えられてますから……」
「「……」」

何だか、より罪悪感を感じる。

「大丈夫、シノノンの良い所沢山ある。ねっ、与一?」
「えっ、うっうん…。真音ちゃんの言う通りだと思いますよ、シノンさん」
「真音様、与一様……」

真音と与一に持ってかれた…と思った時、背後から殺気を感じ取った。

「あっはぁ〜…? シノンには謝って、私には謝らないんですね……?」

いつも以上に黒いその笑みを見た2人は、「すんませんでした!!!」と叫ぶ。

「シノンもシノンだ。背が小さいくらいでいちいち根に持つな」
「うっ…。すみません、三葉様……」
「寧ろ、そっちの方が…」
「……?」
「…何でも、ない」

三葉は、心なしか頬を赤く染めながら再び窓の方を向いた。
すると、遠くの方から爆発音が聞こえてきた。

「? なんだ?」
「また《ヨハネの四騎士》か?」
「…違い、ます」
「ん……?」
「新宿辺りだと思う」

真音はフロントガラスをじっと見つめる。

「みなさん、とりあえず臨戦態勢であらゆる状況に対応できるようにしてください」
「…はい」

シノアの言葉を聞いたシノンは、既に戦闘態勢に入っていた。
そして、角を曲がり目の前に広がっていたのは……

「あれは…新宿が襲われてる…!!?」
「っ……!」

新宿が、戦火に包まれていた。と、その時……

「!! うわっ!!なんだ!?」
「あの服…吸血鬼の…貴族だ!!」
「! 貴族、あれが……」

目の前に人が現れ君月はブレーキを掛けようとしたが、優一郎の言葉を信じてそのまま走り続け…全員、素早く車から離脱した。
しかし、吸血鬼の貴族と思われる男はいとも簡単に車を片手で止めた。

「このっ…!」
「はっ…!」

与一と真音が真っ先に攻撃をするが…あっさりと弾かれた。

「うそっ!」
「ちっ…!!」
「真音様っ!! 与一様っ!!」

貴族が2人に向けて剣撃を放つが、間一髪という所でシノン・シノア・三葉が受け止め何とか弾く事が出来た。
しかし…そのとてつもなく重い威力に、手に痺れが生じる。

「っく、強過ぎ…るっ」
「みなさん!独断で動かないで!!」

警告を告げるシノアだが、途中で背中を取られ万事休すかと思われた時…優一郎が貴族の腕を勢い良く斬り捨てた。

「シノア姉様!! 大丈夫ですかっ…!?」

すぐに駆け付けたシノンはシノアを守るように前に立ち、槍を貴族に向けながら構える。
一方の貴族は…腕を斬られたというのに、余裕の表情でいる。

「なっ…!? っ、シノア姉様……」
「落ち着いてください、シノン。今考えて……! な…!?」

どういう形で戦おうか考え始めるが…目の前の貴族と恐らく同じであろう吸血鬼の女2人が現れるという、最悪の事態が起きてしまった。

「…どうする? また撤退か?」
「道を開ける役目は、私が……」
「逃げられるならそうしたい。ですが…あのレベルが三人もいては無理でしょう」

「だから、鬼が暴走するギリギリまで全力で戦うしかない」と、全員に告げるシノア。
それに加えて、三葉や真音も……

「死者が出る。だが、それが戦場だ」
「与一達、それを分かっててここにいるんだよね」

与一と君月は、無言で頷く。

「(『黒鬼』が4人いても目の前の三人に勝てる確率は極めて少ないはず。なら……)」

シノンは考えた末、渋谷を出る前グレンに使用を一時的に止められている"とあるもの"を発動させようとするが……

「じゃあねぇ、かわいい家畜君たち」
「なっ」
「! 去っ、た……?」

気が変わったのか、クローリーと呼ばれた貴族は飛ばされた腕をくっつけた後、女吸血鬼達と共に去って行った。

「や……やった…。助かった…」
「っはぁ……」

緊張感が一気に解けたのか、シノアの後に続いてシノンも膝から崩れ落ち、尻をつく。
優一郎は先程までの貴族の態度怒りを顕にし、「鬼呪装備を使っても、ここまで力の差があるのか…」とシノアに訊く。
シノアは包み隠さず言える事を全て話し、

「命を助けてくれてありがとう。あなたは、グレン中佐が言った通り仲間想いですね」
「…いや、その…」
「優様……」

少し照れている優一郎を見たシノンは、柔らかな笑みを浮かべる。

「…シノノン、変わった」
「え、そうですか?」
「ん。前だったらこういう場の時、もっとピリピリしてた。けど、今は違う。特に…優二といる時」
「優様と……?」

真音の言葉に首を傾げる。

「うん。優二といる時のシノノン、凄く優しい」
「…………」
「シノン、真音! ぼさっとしてないでさっさと行くぞ!!!」
「わっ! はい三葉様……!」
「ぼさっとはしてない」
「1番ぼさっとしてる奴が言うセリフか!!!」

更に三葉を怒らせながら歩く真音と、走りながら三葉を宥めるシノン。
そして、シノア達の所に着き……

「シノン、真音と何話してたんだ?」
「なっ、内緒…です」
「? まっ、話したくないのならそれで良いけどよ」
「……」

真音の言っていた事が頭からずっと離れないまま、改めて新宿へ向かう……。

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