動き出すハグルマ






「っはぁ!!!」

一方、戦場と化している新宿では…肩よりも少し下まである栗色の髪を靡かす麗人が自分の体躯よりも巨大なハンマーを振り回し、次々と吸血鬼を滅する。

「ったく、どこからウジャウジャと湧いてくんのよ。本っ当面倒い……」

一時的だが周りの吸血鬼を殲滅した所でハンマーを置き、辺りを見渡しながらぼやく。

「一瀬君め、こんな面倒い任務押し付けやがって……」

「終わったら、飛び蹴りを食らわしてやる」と続けて言う彼女の名前は、九鬼 聖璃。

柊の分家の一つ・"九鬼"の長女で、日本帝鬼軍の大佐であると同時にグレンが率いる"グレン隊"の1人でもある。
だが、聖璃は現在グレンの命によってグレン隊の面々がいる所から少し離れた場所で前線を走り抜けている。

「そりゃ、確かにあたしの鬼呪装備は中・遠距離向きだし。一気に敵をぶっ潰すには持ってこいとは思うけど……」

聖璃は自らの鬼呪装備"大鎚地"を横目で見る。

「…さっさと蹴散らして、グレン隊と合流すっか」

やれやれ…とため息をつきながら"大鎚地"を持ち上げた。その時!

「! そこかっ!!!」

後ろから殺気を感じ、俊敏に大鎚地を後ろに持って来た事で相手の攻撃を難無く防ぐ。
その際、「チッ…!!」という舌打ちが聞こえた。

「不覚だったわ、後ろを捉えられるなんて。まっ、あたしがそれで油断するとでも思ったのが……大間違いよっ!!!」
「ぐっ…!」

大鎚地による風圧を受けた吸血鬼は息苦しさを感じ、すぐに勢い良く後ろへ飛ぶ。

「さぁて、こっからが本番……」

威嚇攻撃が成功した所で改めて自分に攻撃した吸血鬼の顔を確認しようとしたが、目を疑った。
何故…目の前に8年前に何度も会い接した事がある少女がいるのだ、と。
しかも、少女は他の吸血鬼達と同じ服装をしていて、一級武装であろう大剣をいとも簡単に持ち上げ、構えている。

「どういう事なのよ、これ…」

頭の中で考えが入り交じり合っているが、聖璃も大鎚地を構えた。

「…世も末ね。まさか、アンタと戦う羽目になるなんて。……依音」

覚えていないのか聖璃の言葉が届くはずもなく、依音と呼ばれた少女は剣を振りかざし、剣の風を起こす。
しかし、聖璃は顔色を一つも変える事なく避ける。

「っ! 何なの、あの女……!!!」

最初の攻撃から一向に当たる気配が無く、じわじわとプライドを傷付けられているような気がする。

「絶対にぶっ潰す!!! 剣よ、アタシの血を吸って…その力を発揮しなさい!!」

そう言った後、発動の言葉だったのか鍔から3つだけ薔薇の蕾がある茨が現れ、依音の腕に絡み付いたと同時に腕に食い込み…刃の色が、紅く変わった。

「! (成る程、アレが一級武装の真髄ってワケね……)」
「ちょっとは手加減してやろうと思ったのだけれど、さっきから気に入らないのよ。アンタのその態度が」
「へぇ〜、餓鬼がよく言えるもんねぇ?」
「っ…!! うっ、さい!!!」

ワザと癪にさわる発言をする聖璃。
そして、思惑通りに依音は激昂し、突っ込んできた。

「アイツがグレン隊の所に行ったら、面倒い事になるかもしれないしね。仕方ないから、足止めしとくか。−−−天地に轟け、大鎚地!!!」

これ以上の依音の進軍を止めなければならないと察した聖璃も目付きを変え、大鎚地の柄を地面に叩きつける。
それによって、2人の周囲に雨雲が広がり始めた……。





「! 知人、アレ……」
「ん? アレ…? って、何だあの雲!?」

聖璃達から数m離れた所から大鎚地により発した雨雲を確認する2人の少年。
彼らは、"皆本隊"の"双翼"と呼ばれている。

1人は、皆本隊隊長で特務少尉の皆本 清吾。
もう1人は、清吾と同じ特務少尉で皆本隊の斬り込み役である五士 知人。

他の皆本隊メンバーと共に吸血鬼達を殲滅していた最中に、清吾が雨雲を発見した。

「アレは、恐らく九鬼大佐が発している雨雲だろうな……」
「聖璃姉ちゃんが? うっわぁ、聖璃姉ちゃん容赦ねーな!」
「…知人」
「んー?」
「頼むから、もっと緊張感を持ってくれよ……」

はぁ…と深くため息をつく清吾。
それに対し知人は、

「んな事言われてもよー、もう周りに吸血鬼いねーし」

口を突き出すように尖らせながら、鬼呪装備である"閃珠丸"をブンブン横に振る。
確かに、知人と清吾の連携攻撃のおかげで辺りには吸血鬼の姿がどこにもいない。

「だからと言って、これで任務が終わったワケではないからな……」
「わーってるよ。典人兄ちゃん達もまだ戦ってるしな」

知人は1番上の兄で日本帝鬼軍大佐である五士 典人がいる方を向く。が、

「いや、大佐達はあっちだから」
「ありっ…?」

反対方向を向いていたらしく、清吾に指摘される。

「お前、本当に五士大佐の弟なのか…?」
「そーだけど?」
「……」

この瞬間、大丈夫なんだろうか…と心底知人の将来を心配する。

「っし、鈴花達もきっとカタついただろうから合流すっか?」
「そ、それもそうだな……」

知人は自分の心配をする相棒の考えなど露知らず、他の皆本隊メンバーと合流すべく歩き始めた。その時!

「!? 知人っ!!!」
「! なっ…!?」

まだ一匹だけ残っていた吸血鬼が知人を目掛け、剣を振り上げながら向かって来る。
清吾の呼びかけに反応出来たが、咄嗟の事に構えが間に合わず万事休すかと思われた…次の瞬間、

「はああぁあっ!!!」

知人の幼馴染である三葉が吸血鬼の後ろから現れ、巨大な斧−−−"天字竜"を横に振り、吸血鬼を滅した。
そして、心配をしているのか知人の元へすぐに駆けたかと思いきや……

「馬鹿知人!! あれ程戦場では一時も油断するなと言っただろうっ!!!」
「いだだだだっ!!?」

こめかみが三葉の拳によってグリグリと押し付けられ、ギブアップ寸前になる。

「わ、悪かったって三葉…。助けてくれてありがとな?」
「フンッ……!」
「あ、後結構久しぶりだよな?」
「さっきの話を聞いてないのかっ!!?」

ガハハハッ! と豪快に笑う知人に呆れ果てる三葉。
清吾は何事なんだ…? と目をパチクリとさせる。と…そんな時、

「みっちゃん、愛しの知君は助けられましたか〜?」
「っ!? シノア!!!」
「おっ、シノアも久しぶり!」
「お久しぶりです〜♪」

幼馴染の1人であるシノアを筆頭に、シノア率いるシノア隊のメンバーも知人達の所に集う。

「知人様!? 大丈夫でしたか!!?」
「おっ、シノンも久しぶり! 三葉のおかげで、この通りピンピンしてるぜ?」
「…こめかみに、痕が付いてます……」
「数の子、またアホな事言ったでしょ」
「だから数の子じゃねえって真音っ!!?」

シノア隊の女子と全員顔馴染みである知人は、次々と声をかけられた。

「なぁシノン、コイツら誰なんだ?」

優一郎が、知人に向けて指を差す。

「清坊、久しぶり」
「真音ちゃん。えっと…久し、ぶり」
「真音ちゃん、この人は……?」

与一が真音に声をかけた瞬間、清吾はキッと強く与一を睨む。

「えっ!? あ、あのっ……」
「清坊こと皆本 清吾。特務少尉…だっけ? で、僕が前いた皆本隊の隊長」
「よ、よろしくお願いします……」
「…よろしく」

今だにこちらを睨み付ける清吾に与一は冷や汗をかく。

「えっと…この方は、五士 知人様です。私やシノア姉様、三葉様の幼馴染で特務少尉になられています」
「あたしよりも立場が上なのは少し癪だが……」
「へぇー、そうなんだ」
「つー事でよろしくな! えっと…」
「知人様、この方は百夜 優一郎様。知人様と同じく、私達シノア隊の斬り込み役です」

シノンの紹介に少し照れ臭く感じた優一郎は人差し指で鼻をこする。

「分かりやすくテレてるな」
「単純ですねぇ、優さんも」
「う、うっせぇ!!!」
「そっかそっか! よろしくな、優!!」
「! おっ、おう……」

手を差し出された優一郎は戸惑ったが、同じように手を出し硬い握手を交わし合った。

「オイお前ら、そんな事をしてる場合じゃないだろ?」
「? そんな事…?」

首を傾げる知人と清吾に、シノアが現状を全て説明する。

「マジで!? そんな事になってたんだ…」
「とにかく、あたし達は急いでグレン中佐の元へ向かわなくちゃならない」
「皆本隊は、どうしますか?」
「こちらのメンバーがまだ全員揃っていないから、揃い次第向かうよ」
「分かりました」

「では、私達はこれで」と知人と清吾に告げた後、シノア隊は再びグレンの元へ走り出す。
しかし、三葉は一度止まり……

「知人!!」
「ん? どうしたー!」
「…待ってる、から」
「え? …おう! 待ってろよ三葉!」

知人の返答を聞いた三葉はほんの少し笑みを見せ、シノア達の方に向き直してから走り去った。

「清吾! オレ達も急ごーぜ!」
「そうだな…!」

知人達も少しして、他のメンバーが揃ってから同じ所へ向かうべく走り出した。
…これが歯車が狂い出す始まりになるとも知らずに。

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