安全なクスリ






「死ね!」
「……」

吸血鬼に背後を取られたが、シノンは振り向かず風を切るように槍を後ろに振り、咄嗟の事に構えが取れなかった吸血鬼は声を上げる事なく消滅した。
真音の方も、

「邪魔」
「ぐあああっ!!!」

真音が放ったクナイが心臓に突き刺さった吸血鬼が息苦しそうに声をあげ、すぐに灰となった。

その時、君月がこのまま戦い続けても埒が明かないから先に行くべきだと全員に提案する。
シノン達はその意見に賛成し、後は優一郎の答えだけだ。

「行きましょう、優さん」
「よし、行くぞ!!」
「はい…!」

優一郎の返答の後、全員先へ向かうべく走り出す。
そんな最中、シノアが突然「第一回目の修業を始めまーす♪」と優一郎に言ってきた。

「はぁ? 修業?」
「シノア姉様、唐突ですね……」

優一郎とシノンの言葉を気にせず、シノアは「はい、足を止めないで〜」と言い、走りながら話を進める。
が、その途中……

「もうね、あれです。地面に落ちてるう「シノア姉様!! 淑女がそんなはしたない事を軽々と言ってはいけませんっ!!」
「お、お…?」

シノンが突然シノアの言葉を遮り、優一郎は疑問符を浮かべまくる。
シノアはあはは〜っとからかうような笑いをし、「ま…冗談はさておき」と言いかけた時、

「冗談言ってる余裕ねぇだろ。で…一体何すりゃいい?」

優一郎は「吸血鬼を殺せるならなんでもするぞ?」と続けて言う。
そのやり取りにシノンは少し嫌な予感がした。

「っ……(まさか、"アレ"を出すのでは…)」

その予感は見事に的中し、シノアはポケットからクスリのような物を取り出した。

彼女が持っている"鬼呪促進剤"は、飲むと鬼と同化しやすくなり本来の力を引き出せるが、二錠以上飲むと体への負担がとても酷くなる為、あまり推奨出来ない。
それに加え副作用が沢山あり、しかも日本帝鬼軍のお墨付きだとか……。
また、効果が発揮される時間も15分と限られいる。

「シノン、これ飲んだ事あんのか?」
「はい、一応……」
「僕も、飲んだ事ある」
「えっ!?」

優一郎の問い掛けにシノンはあはは…と苦笑し、真音も飲んだ事があると答えた時、与一は思わず驚いた。

「…副作用、あったのか?」
「あった」
「はい…。私は、季節外れのインフルエンザに罹りました……」
「インフルエンザ…」
「僕は筋肉痛が酷くて1週間動けなかった」
「き、筋肉痛……」
「どんだけ重いんだよ…」

優一郎・与一・君月はこの瞬間、「本当に大丈夫だろうか…」と心から不安を抱く。

「あはは、だから極力飲みたくないんですが〜。今回は仕方ないので皆さんに配りまーす」
『……』

シノア以外の全員は、「オイオイ…」と思った。

「で、飲むタイミングは?」
「通常は上官が命じる」
「貴族と戦う時にしか飲まないですからね」
「じゃあ、今回はシノアさんが?」

シノアは首を横に振った後、前線にグレンがいるのなら彼がすると答えた。

「ですから、中佐の命令に従ってください。まあ、中佐にその暇がなさそうなら私がしますが」
「前線……」

これから向かう先を見つめながら、シノンは気を引き締め直す。
ここからは、常に死と隣り合わせになる。
その前線となっている新宿五丁目の交差点では戦いが激化していた。





「はああああっ!!」
「ホンット…しつっ、こい!!!」

勢いが全く衰えぬ依音の剣撃を、大鎚地で躱し続ける聖璃。
しかし、そろそろ現状を維持し続けているのが面倒くさく思い始めてきた。

「(何なのこのガキ…。全く疲弊してないわ、こんなに攻撃を躱され続けてもまだ攻撃してくるわ……)」

どこからそんな気力が湧いてくるのか…? と考えた。その時!

「チッ、剣よ!! もっと血を吸えっ!!!」
「おっと……」

ドゴオオ…ン!!! という音と共に、受け身を取ったにも関わらず前線のど真ん中まで吹き飛ばされた。

「!? 聖璃かっ……!!」
「ひーちゃんさんっ!?」
「ごっめーん。一瀬君、さゆちゃん。そこのバ怪力娘を食い止めれなかったわ……」

近くにいたグレンに謝りながら大鎚地を構え直す。
一方、追い詰めたと確信しながら聖璃の元へ歩み寄る依音は……

「依音、今までどこ行ってたんだよ?」
「そこのデカハンマー女をぶっ潰している最中…よ!!」

ラクスと話をしてるというのに、左右から来た敵を顔色を変える事なく薙ぎ払う。
そんな依音にラクスは「相変わらずえげつないなぁ」と言う。

「…今、忙しいから」
「フーン、頑張れよー」

フンッ…! とそっぽを向いた後、再び聖璃の所へ向かおうとした。が、

「あれっ!? 依音!よかったーっ! どこに行ったのかなって心配してたんだよーっ!」
「っ…! ちょっと、エリザ……!」

依音を吸血鬼にした第八位始祖の貴族吸血鬼−−−エリザ・リッテが依音を見つけてすぐに抱き付いてきた。

「ねぇ依音、誰とたたかっているの……?」
「…あそこの女よ」

依音は、聖璃を指差す。

「へーっ……」
「エリザ…?」
「…依音、あとはアタシにまかせて?」

そう依音に告げたエリザは剣を取り出し、血を吸わせる。

「ちょっ、何でアンタが…「依音、みてて。アタシのたたかい方を」
「見ててって……!?」

呼び止められる間もなくエリザは聖璃の所まで飛び、依音の時よりも倍は重い剣撃をかます。

「っ…!? ちょっと、随分唐突過ぎんだけど……。アンタ、もしかしてアイツの飼い主なワケ?」
「しゃべらない方がいいよ、人間。だって、このたたかいで勝つのはアタシたち吸血鬼なんだから」
「ハッ…どうだかっ!!!」

貴族と遭遇して火が付いたのか、聖璃は先程よりも不敵な笑みを浮かべながらエリザと交戦する。

「…何、よ。これじゃあアタシは、雑魚だって事になるワケなの……」

依音は歯を食いしばる。

「聖璃! ソイツ、貴族だ…「よそ見してる暇、無いよ」
「っ! チッ…!!!」

グレンは聖璃に忠告しようとするが、今現在剣戟を交わしているミカエラにより遮られ…鬼呪装備を、飛ばされてしまった。
これはまずいな…と悟りかけた。その時、

「! 敵の、援軍……」

遠方からこちらに向かって来る敵を察知した依音は睨み付けながら剣を強く握り締め、敵の陣形を崩そうと動き出した瞬間…!

「!! ミカエラッ−−−…!!?」

グレンの心臓付近を刺したミカエラは4年前に離ればなれになったはずの家族の姿が視界に入り、その家族の持っている武器に体を貫かれた……。

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