幼馴染のサイカイ 1
「シノア姉様! 優様がっ…!!」
「シノン! 私は中佐の所へ行くので、貴女は早く優さんの所へ!!」
「分かりました……!!」
優一郎が刺した吸血鬼がグレンの拳を食らう前に離れたと同時に、シノン達は優一郎とグレンの元へ急ぐ。
「ミカエラ!? アンタ、何で避けなかったのっ!!?」
「……」
駆け込んで来た依音に声をかけられるが、ミカエラは刺された所を掴むように押さえつけ、優一郎の方を向いたまま息を切らしている。
「あ、そこに…。僕のっ……」
優一郎の事を言おうとした。その時…
「優様っ!!!」
「っ…!!?」
まるで、全ての時が止まったような錯覚がした。
走る際に風に靡いているその綺麗な髪の色。
優しく、穢れを知らぬであろうその瞳に見覚えがある。
少し勇んでいるが、その声色にも聞き覚えがあった。
「……ま、さかっ…」
幻覚なのだろうか…と疑ったが、目の前にいる少女は紛れもなく、ずっと恋い焦がれていた初恋の少女そのものだった。
そして今、彼女は優一郎の隣にいる。
「っ、シノン…ちゃんっ……」
「えっ…!?」
ミカエラの様子の変化に気付いた依音は、彼が見ている方を向こうとするが、近くに現れたフェリドに気付き、即座に一歩後ろへ引く。
「おやおや、もしや君…。"刹那姫"と知り合いか何かかい?」
「"刹那姫"……。シノンちゃん、が…」
ミカエラは目を見開かせる。
"刹那姫"。
それは特別な香りで吸血鬼を惑わし、その血を吸うと…死に至る。
つまり、呪われた血を持つ者の事を指す。
以前に1度だけその話を聞いていたのだが、その正体がシノンだとは知らなかった。
「あの少女が、"刹那姫"…?」
「そうだよ。ホラ、今も僕らを惑わす甘い香りが漂っているでしょ?」
フェリドは、大袈裟に腕を広げる。
「……微かに、なら」
依音と同意見であるミカエラは静かに頷く。
「あはぁ、君達は"元人間"だからまだそれぐらいなんでしょうかね?」
「…そうかも、しれないですね」
依音は謙虚を装ってはいるが、何かと食えぬフェリドに対しかなり警戒している。
「さぁ、どうします? ミカ君、依音ちゃん?」
「っ…」
「ミカエラ……」
ミカエラの頭の中では、様々な考えが混沌している。
欲深い人間から優ちゃんを救わねば。
そして、シノンちゃんの元へ今すぐ行きたい……。
そんな彼の考えを知らずにいるシノンはミカエラを見据える優一郎の手をそっと取る。
「優様、本当に優様の家族があちらに…?」
話しかけてみるが、優一郎は動揺しているからか何も答えられない。
それを察したシノンも、同じ方に目をやると……
「……。う、そ…」
どういう事だろうか……。
見据えた先には、想いを抱き続けていた初恋の人がいた。
「っ…!!」
「! シノノンッ…!?」
溢れ出しそうになる気持ちを抑えるように口を両手で押さえ込むが、耐え切れずその場で崩れ落ちた。
「〜〜っ…!!!」
もう逢えないと思っていた。
どんな理由があったとしても、シノンにとってそれはどうでもいい事だった。
ミカ様は、生きていた……。
声にならぬ声を発しながら涙を流す。
シノア達がそんな優一郎とシノンの様子の変化に狼狽えていた時、グレンは総員離脱の指示を出す。
「ち…ちょっとまってくれよ! 向こうにミカが…! 俺の家族がいるんだ!!」
「ミカ様、が……。優様の、家族…」
「! シノン、おまえミカの事を……?」
「わっ、私、もっ……。ミカ様の所へっ…」
言いかけた時、グレンが口を挟む。
「おまえらは、ここで皆殺しにされりゃいいってのか」
「っ…!」
ハッとなったシノンは今にもまた泣きそうになり…揺れる。
自分の勝手な行動でここで全員の命を危険に晒したくない。
けど、ミカエラがあんなにも近くにいるのに……。
考えれば考える程呼吸がままならなくなる。
「…シノン、優さん。今は…」
「シノアっ、姉様……」
シノアの方に振り返った時、瞳に溜まっていた涙が頬を伝う。
「っ、シノン……」
優一郎はシノンの手を握る。
「優、様っ…。わた、しっ……」
「……っ」
初めて彼女の涙を見た。
同時に、そこまでミカエラを想っているのが強く伝わる。
「……シノア、シノンは俺が連れてくよ…」
「分かりました。お願いします…」
「ああ…。シノン、走れるか?」
「……」
優一郎の問いに小さく頷く。
それからすぐにグレンは陣形を保ったまま新宿城壁内に後退すると告げ、それを聞いた全員は指示通りに後退しようとするが……
『!!』
「逃がさないよ〜ん」
「く…!!」
フェリドが、その道を塞ぐように立っていた。
「シノノンっ!」
離れた所から走っていた真音がシノン達の危機を察知し、振り返った瞬間……!
「っ! くっ…!!」
「おまえバカなの? わざわざこっちに戻って来るなんて?」
ラクスの剣が眼前に現れ、当たる寸前で咄嗟に出したクナイで何とか受け止めた。
が、力の差故か踏ん張っている足元がめり込み始めている。
「ハッ、人間のくせによく耐えてんじゃん」
「だ、まれっ…」
「オーイ、コイツ食い止めてっからトドメよろしくー」
「人任せにするんじゃないわよ、全く……。剣よ」
「っ…!!?」
もう、ダメだ。
真音は死を悟った。が!
「真音ちゃんに、手を出すなっ!!!」
「!!」
「与一っ……!!!」
与一の弓攻撃がラクスの顔を擦り、それによってラクスは真音から離れた。
「っ、え……」
依音はその一瞬の間に耳を疑い、改めてラクスが食い止めていた敵を見ると…8年前に生き別れた妹の姿があった。
「真音…………?」
「!」
名前を呼ばれた真音は臨戦態勢を取ったが、
「……依音、姉ちゃん…………?」
皮肉にも、これが…彼女達姉妹の再会となった。