幼馴染のサイカイ 2
「真音…………?」
「依音、姉ちゃん…………?」
確かめ合うように互いの名前を呼ぶ真音と依音。
「姉ちゃん、どうして…?」
「っ、それはっ……」
あの時と変わらぬ純粋な目で見つめられ、戸惑う。
吸血鬼になってしまったなんてとても言いづらく目を逸らすと、
「……吸血鬼に、なったの?」
「…!?」
もう一度真音の顔を見る。
だが…嫌悪を抱いたような表情ではなく、瞳には大粒の雫が溜まっている。
「姉、ちゃんっ…。姉ちゃんっ!!」
「真音っ……!」
感情が込み上げた依音は、真音の所へ走りすぐに抱きしめた。
「生きてっ、た……。姉ちゃん…」
「良かった…。生きていたっ、真音……」
「あの人が真音ちゃんのお姉さん……」
「アイツが依音の妹…?」
与一とラクスは初めて見る姉妹の片割れに驚く。
「真音ちゃ…!?」
「!? 与一っ!!?」
「ダメよ! 真音!!」
真音は吸血鬼に捕らわれた与一の元へ向かおうとするが、依音に手首を強く掴まれる。
「姉ちゃん! 与一がっ、助けないと…!!」
「何言ってんの!アンタは、人間にっ…!!!」
言いかけた依音だが、真音の背後を狙おうとする吸血鬼に気付き容赦無く斬りつける。
「この子には…絶対、手出しはさせない」
8年間という長い時を経て、依音は今度こそ妹を守れる力を手にした。
その強き思いによって放たれている殺気は、辺り周辺に広がり渡る。
「…初めてだな、あんなにおっかない依音を見るのは……」
ラクスは油断出来ないな…と一滴の汗を頬に伝わせている。
その頃、フェリドに翻弄されているシノン達は必死に応戦し、その最中上手く後ろを取れたはずのグレンが吹き飛ばされ……
「グレン!!」
「グレン中佐…っ!!」
シノンはグレンを案じ叫ぶ優一郎の後ろに回り込もうとしたフェリドの動きを寸前で止めた。
「おや、気付かれてましたか」
「シノンッ!?」
「優様! 早くグレン中佐の所へ行ってくださいっ!! 私が、食い止めている間にっ!!!」
優一郎に強く言った後、見えぬ程素早い動きで槍攻撃を連続で繰り出す。
しかし、フェリドは余裕の表情を浮かべながら軽々と槍攻撃を受け止める。
「っ!!!」
「シノン!!」
「ほぉ〜っ…。流石、刹那姫と呼ばれているだけありますねぇ。ですが……」
「っ! きゃ…!!?」
フェリドは2つの槍をまとめて剣で弾き、それによってシノンは無防備状態となり、
「!? うっ、ぐぅ……」
「あはぁ、この芳しくも甘い香りが堪りませんねぇ……。すぐにでもその血を吸いたいくらいだ」
殺さない程度に片手で首元を掴み、顔を首筋まで近付けた…その時、
「シノンを…離せっ!!!」
「おっと」
激昂した優一郎の一閃すらも片手だけで止める。
「なっ……!!?」
「君は後で味見するつもりだから、大人しく待ってて貰えるとありがたいですね」
「ゆ、さまっ…。にげ、て……」
「では、頂きます…」
「っ、クソオオオッ……!!!」
「…い、やっ……」
力がこれ以上入らないシノンは一筋の涙を流し、例え"血の呪い"の効果があっても、このまま死ぬのだろうか…と死を悟った。次の瞬間!!
ジャッ…!!!
「……!」
掴まれていたはずの首元に苦しさが無くなり、振り向いた先には…ミカエラの姿があった。
どうやら、フェリドの腕を斬り飛ばしたようだ。
「あは、可愛い冗談じゃないかミカちゃん」
「そんなに怒るなよ〜」と飛ばされた腕を掴んで言うフェリドは少し離れた場所まで距離を取る。
「ミカ…」
「ミカ、様……」
シノンと優一郎は、こちらに歩み寄るミカエラを見据えながら息を呑む。と、その時……
「優ちゃん。…」
「! あっ、の……!」
「…!」
ミカエラは、シノンの方に視線を向け…優しく、抱きしめる。
「…シノンちゃん、だよね……?」
「……ミカ、様…っ!」
答える代わりに、シノンは強く抱き返す。
8年前と変わらぬその温もりを確かめるように。
「……」
そんな2人の様子を目の前で見た優一郎は入れない何かを感じ、握り拳を硬く作る。と、そのとき。
「…2人共、全部捨てて僕と逃げよう!」
「えっ!? あの、ミカ様……」
「逃げるって…」
「いいから!」
「っ、ひゃ……!?」
「! ミカ、おま…!?」
キョトンとなる2人を気にせず、ミカエラは片腕でシノンを抱き上げ、もう片腕を優一郎の腰に回し……
「シノン!! 優さ…!!」
シノアが叫ぶ前に、2人はそのままミカエラに連れてかれてしまった。
「ミッ、ミカ様! 待ってくださっ…!」
「ふざけんなミカ!!いったいどういうことだよ!!」
「…優ちゃんも、シノンちゃんもあそこにいちゃだめなんだ。人間に利用される、だから…」
ミカエラが話をしている途中で優一郎は自力でミカエラの腕を振り解き、その場に着地した。
「ミカ様…。人間に利用されるって、どういう事なのですか……?」
ストン…と地面に降り立ったシノンの問い掛けに、ミカエラは顔をしかめる。
更に、優一郎が「吸血鬼になったのか…?」と訊き、何も答えずにいる彼の様子に自分のせいだと責め始めると……
「違う!! 優ちゃんは悪くない!!」
「ミカ様……」
ミカエラは震えた声で「一緒に行こう」と言うが、優一郎もシノンも首を縦に振る事は出来ず、「仲間の元に戻らなくちゃ」と告げるが、ミカエラが「仲間は僕だけだ!!」と言ってきた。
「2人共騙されないで!! 人間どもは君達を利用……!! 「いやあああああっ!!」
「!? 今の……!!」
「っ、シノア姉様っ!!!」
シノアの叫び声が聞こえたシノンと優一郎は振り返ろうとしたが、ミカエラに肩を掴まれ「振り返らないで!! 後ろには何もない!!」と言われる。
「放せよ…!!」
「ミカ様、お願いしますっ!! 私の、大切な姉様が!!!」
「っ……!?」
シノンの言葉が心中に響いたのかミカエラは手を放し、その瞬間にすぐ振り返ると…シノア達は吸血鬼に完全に捕らわれ、血を吸われていた。
「あ、あっ…。シノア、姉様っ……!」
「シノン……優、さんっ…。逃げ…」
「家畜が喋るなよ」
「!? っ……!」
シノアの口を手で塞ぐクローリーに殺意が芽生えたシノンは、弾き飛ばされたはずの槍を再び手に収め、無我で向かおうとした瞬間……!
「う……うわああああああああ……!!!」
「!? 優…っ、様……」
優一郎の背中に真っ黒く染まっている羽のようなものが現れた。
「ゆ、うっ…さま……?」
その恐ろしくも禍々しい姿に恐怖を抱き、立ち竦むと……
「シノンちゃんっ!!!」
「っあ、…!!?」
再びミカエラに抱きしめられたと同時に、今まで見た事もない程凄まじい威力の剣の風が真横を通る。
「つ、つ、ツツツツツ罪人は…………罪人は……ミナミナミナ皆殺しだ」
「だ…だめだ!! 優ちゃん!!!」
「……………優、さまっ……」
変わり果てた優一郎に、シノンは意識が遠のきそうになった……。