みんなツミビト
「つ……つ……ツツツツツ罪人は…ミナミナミナ……皆殺しだ…」
「……………優、さまっ……」
変わり果てた姿になり、シノアの元へゆっくりと歩き出す優一郎。
そんな優一郎に、シノンはずっと体の震えが止まらない。
「(怖、い…。動きたいのに、体が…動け、ないっ……)っ! ミカ様ッ…!?」
体が思うように動かせず、ギリッ…と歯を食いしばっていた時…いつの間にか自分から離れていたミカエラは優一郎の前に立ち、再び優一郎の剣が体を貫く。
「だ…だめだ優ちゃん!! 人間を殺しちゃ…!!!」
「あ、うっ……」
頭の中が真っ白になりそうだ。
目の前に起こっている全てを夢だと信じたい。
その時、グレンがシノアに「優に抱きつけ!!」と告げ、シノアはその通りに優一郎に抱き付いたが……
「うあああああああっ……!!!」
「っ…!?」
「シノア姉様っ…!!?」
「…ヤバい事に、なったって事か……」
状況の悪化にグレンは一滴の汗を伝わせる。
そして…優一郎はシノンの方へ顔を向ける。
「…っ!?」
「シノン、ちゃっ……。くっ…」
シノンの元へ向かいたいが、傷が深く膝をつくミカエラ。
「シノンッ!! 逃げてくださいっ!!!」
「優様……。っ…!」
どうしたら、優一郎は元に戻るのだろうか……。
思考を巡らせると、ふと…幼少期を思い出した。
それはまだ、姉の真昼が生きていた頃。
よく読んでいた"眠り姫"を読み終えた時の事であった……。
「真昼ねえさま……」
「? どうかしたの、シノン?」
本を持って問い掛けてくるシノンに、真昼は優しく微笑む。
「どうして、"眠り姫"さまは王子さまのキスで目がさめたのですか?」
真昼は、一瞬考え…こう答えた。
「王子様が、"眠り姫"の事を強く想っていたからなんじゃないかしら?」
「おも、う…?」
「そう。"早く目を覚ましてほしい"、"貴女の笑顔が見たい"…そういう想いをキスに込めたから、"眠り姫"はその想いに応えたと思うわ」
「……」
「シノンには早過ぎたかしら?」
うーん…と首を傾げるシノンに、思わず「フフッ…」と笑う。
「いつか、シノンもそう想える人が現れるかもよ?」
「そう、なのでしょうか……?」
「ええ、私みたいに…ね」
「…?」
真昼の言っている事がまた分からないシノンは再び首を傾げた……。
「真昼姉様が言っていた事、やっと分かった気がする……」
深呼吸をし、ようやく動いたその足で優一郎の元へ走る。
「シノンッ…!!?」
「…お願いします、優様。目を、覚ましてっ」
優一郎のすぐ近くまで来たシノンは彼の両頬を包むように手を添え、唇を重ね合わせた。
「っ……!!」
「ん、っ…」
シノンは強く祈る、想う。
早く戻って欲しい、もう一度笑顔を見せて欲しい。
その強い想いが通じたのか優一郎の腕が背中に回り、体を預けるように共に座り込んだ後…眠りにつく。
「優様、良かった……」
シノンは、安堵の涙を流しながら優しく抱きしめる。
「何なの、あの子…」
「シノノン……」
「シノンちゃん、優ちゃん…」
様々な思いが交錯する中、吸血鬼達が次々と撤退を始める。
「! …依音、行くぞ」
「待って、今からエリザにこの子も…真音?」
気が付いた時、真音は依音から少し距離を取っていた。
「…僕は、行かない」
「真音。まだ人間どもを信じて……「与一達は…そんな事しないっ」
「……!」
真音の瞳から涙が零れ落ちた。
「僕、は…っ!」
「真音……!?」
駆け去る真音を追いかけようとするが、ラクスに肩を掴まれ動けなくなる。
「離しなさいよっ!!! 真音がっ「あー、うるさいなぁ〜っと」
「ちょっ……!!?」
唐突に担がれ、思わず目を見開かせる。
「エリザ様に頼まれたんだよ。"依音をよろしくね"って」
「…っ、真音……」
そのままの状態で連れて行かれる最中で見えたのは、妹が人間の少年に抱きしめられている後ろ姿だった。
「真音ちゃん、無事だったんだね……」
「よいっ、ち……。僕、ぼくっ…!」
伝えたい事が沢山あり、上手く言葉が出せない。
「さっきの吸血鬼は、本当に真音ちゃんの…」
「う、んっ…。生きてた、けど……」
「……っ」
何も話さなくて良い。
そう言うように抱きしめる力を強めた。
「三葉っ!!!」
「知人…」
知人は三葉の元へ駆け寄ってすぐに、彼女の右手を両手で包み込む。
「またっ、オレは…」
「違う……。これはあたしだけの責任…「ふざけんなよっ!!!」
「っ…!?」
突然怒鳴った知人の表情は、悔しさが滲み出ている。
「そうやってまた1人で抱え込んで!! オレを、頼れよっ!!」
「…調子に乗り過ぎだ、馬鹿……」
三葉は瞳を潤ませる。
「馬鹿じゃねえよ、オレはいつだって本気だ!」
「それをバカだって言っている…」
憎まれ口を叩く三葉だが、その顔には笑顔がほんの少し浮かび上がっていた。
それから少しして、シノア隊は全員無事を確認した後シノンと優一郎の元に行く。
「シノン! 優さんっ…!!」
「シノノンっ!!」
「皆様……」
シノンは全員に微笑みかける。
「2人共、無事で良かった…」
「……」
シノアにもう一度微笑んだ後周りを見渡すが、ミカエラの姿はどこにも見当たらない。
「ミカ、様……」
ミカエラの名を呟いた時、「新宿にいる吸血鬼を残らず皆殺しにしろ!!」というグレンの声が聞こえた。
シノアはグレンに尋ねたい事があると言ったが…「お前の話に興味がない」と言った後去ってしまった。
シノアのやるせない表情に、シノンも眉をひそめる。
その後、優一郎は病院に運び込まれ−−−新宿攻防戦は、帝鬼軍の勝利として収束した。