人間のセカイ

side:dream heroine 1





「……っ」

新宿での吸血鬼達の襲撃から10日以上の時が過ぎた。
私は月に一度の"献血"を終え、歩いている途中で突然目眩が起こり、咄嗟に壁に体を寄せた。

「体が、上手く…動け、なっ……」

今回が初めてという訳ではないけれど、何回やっても流石にこれは慣れないです……。
だけど…私の持っている鬼呪装備・"雪浅鬼"の能力の一つとされる"血の呪い"は既に帝鬼軍全体に知れ渡っている。
「君の血液に流れている毒が、吸血鬼達にとって致命的な効果があるから」と諭され、雪浅鬼と契約を交わしてからずっと血を抜かれ続けている。

「く、すり……」

毎週1週間分程支給される増血剤を飲まなくてはと、ポーチの中を探していた矢先……

「っ…。ど、しよ……」

段々と視界が霞んでいく。
このままだと、ここで倒れてしまう……。

「ん、シノン?」
「…優、様……っ」
「!? 危ねえっ…!」

後ろから優様の声が聞こえ、振り返ったと同時に膝の力が抜けてしまったけれど…気が付くと優様の腕の中にいた。

「す、みませっ……」
「んなことよりも、大丈夫か!?」
「ポーチの、中に…。くすり、がっ……」
「! ちょっと待ってろ…!!」

優様が薬を取り出してくださったおかげで、何とか意識を失わずに済んだ。

「ありがとう、ございました……」
「ああ…。なぁシノン、何であんなに具合悪そうにしてたんだ?」
「……」

正直に話せば、多少なら気持ちに整理がつくかもしれない。
でも、優しい心を持つ優様がこのことを知ったら……。
そう思った私は頑なに口を閉ざす事にした。

「…言いたくねえのなら、別に構わねえけど。おまえ、本当にしんどそうにしてたからさ……」
「すみません…」

どうしても、優様にこれ以上心配を掛けさせたくない。
この前の件以降その気持ちはより一層強くなる一方で……。

「…」
「ほわっ…!」

優様に頭を撫でられ、吃驚してしまったからかよろけてしまった。

「ゆっ、優様……?」
「えっと、まぁ…」
「あ……」

もしかしたら、先程のは励ましてくださっていたのでしょうか?

「……あ、ありがとうございます。優様」
「お、おう…」
「でも……」
「ん?」
「…と、唐突に頭を撫でないでください……」

そう優様に話した時、少しだけ頬が熱を帯びている気がした。
でも、優様の撫で方は…何だか凄く安心する。

「そうか? んじゃ、なるべく気を付け…」
「……」
「シノン?」

咄嗟に優様の裾を掴んでしまった。
迷惑かもしれないのに、…まだ撫でてもらいたいと思ってしまっている。

「…もう少し、撫でてくださっても大丈夫ですよ」
「……」
「はうあっ!? グシャグシャしないでくださいいっ…!?」
「じゃあどうすりゃ良いんだよ?」
「う〜っ…。さっきみたいに、優しく撫でて欲しいです……」

首を傾げ眉を寄せる優様は「こうか?」と言いながらもう一度撫でてくださった。

「…えへへ、優様の撫で方、凄く好きです……」

何度もやって頂いて申し訳ない気持ちもあるのですが、思わず頬が緩む。

「お前、そんなに撫でられるのが好きなのか?」
「はい、よく真昼姉様に撫でてもらって…。真昼姉様の撫で方も、とても好きでした……。優様とはやり方が違いますけれど」

優様は「フーン…」と頷いた。

「シノアはしなかったのか?」
「…シノア姉様も、される側でしたから」
「そうなのか?」
「はい……」

シノア姉様にもやって頂きたいという気持ちは勿論ある。
だけど、シノア姉様は……。

「…あっ、優様」
「ん…?」
「あの。もしかして、柊家に呼ばれたのですか……?」
「ああ、これから行くつもり…。ん? って事は、シノン"も"柊になるのか?」

"も"、ということは、シノア姉様が既に話したのですね……。

「…はい。でも、お気になさらずいつものように接してください」
「? 分かった。まぁシノンはシノンだからな」
「……!」

そう仰ってくださる方がまだいらしていた。
やっぱり、優様は本当にお優しい方です……。

「…あっ、すみません。引き止めてしまって……」
「別に気にすんなよ。じゃ、行ってくるな」
「あの、優様…!」
「?まだ何かあるのか?」
「……ミカ様の事、言うのですか?」

優様は少しお考えになられた後、「…そんときに考えるよ」と答えてくれた。

「そう、ですか……」

もし、"暮人兄様"があの時の事を知ってしまっていたら……。
不安がこことぞばかりに過ってくる。

「…シノン」
「! はい……」
「あの時、約束したろ?」
「…はい、行ってらっしゃいませ。優様」
「おう!」

優様の笑顔を見た瞬間、何も言えなくなった。
そんな彼の姿が見えなくなるまで見送った後も……

「きっと、大丈夫ですよね…」

まだ、後ろ髪を引かれるような感覚がした。

「っ、優様……」

再び不安が募り始めた私は、シノア姉様の所へ急いで向かった……。

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