3つの特殊ノウリョク 4
〜遡ること、十数分前……〜
「前から思ってたけどさ」
「? 何でしょうか、優様?」
「シノンって、どうやってあの槍を出してんだ?」
「え…?」
優一郎の言葉にシノンは疑問符が浮かび上がっていそうな表情で首を傾げた。
「気付いた時にはもう槍を持ってるし、本当は具現化タイプじゃねえの?」
「いえ、憑依タイプですけれど…」
優一郎は「本当かぁ?」と言わんばかりに目を細める。
「あはは…。私の《鬼呪装備》は、憑依タイプの中でもとても特殊ですからね……。えっと、改めまして…これが《鬼呪装備》になります」
苦笑してから顔の両脇にある長い横髪を優一郎に見せるが、
「? 髪の毛が……?」
「ちっ、違いますよ! これですっ…!」
これ以上変な誤解を生まぬように分かりやすく指を差した先にあったのは蝶々の形をした白の髪留めだ。
「え、そんなの付けてたっけか……?」
「全然気付かなかった……」と目を丸くさせる。
「一応、初めてお会いした時から付けていたのですが…。とりあえず、今出しますね」
両腕を広げ、深く息を吸い込んだ後……
「姿を現せ、《雪浅鬼》」
そう言った瞬間に髪留めが槍へと変化し、手に収まったと同時に舞うように回る。
優一郎はまるで時が止まったかのような感覚で魅入る。
「…お待たせしました、始めましょう」
「え? あ、ああっ……」
シノンの呼びかけで我に返り、《阿朱羅丸》を構える。
「あの時とは全然違うな」
「あ、そうですね……」
初めて会ったときを思い出したシノンは困ったように笑う。
「今は俺も《鬼呪装備》を持ってるしな」
「でも、あのときの優様も相当強かったですけれどね…」
「少し危うかったのですよ…?」と付け加える。
「そうか? まっ、とりあえず始めようぜ!」
「はい。なら、早速本気を出してもよろしいでしょうか?」
「本気?」
「優様の《鬼呪装備》と同じタイプという事は…後は、分かりますよね?」
「!」
優一郎は勝ち気な笑みを浮かべ、
「おう! かかって来いよっ!!」
より気合いを入る。
「ありがとうございます。では……」
にこっと微笑んですぐに無表情に変わり、《雪浅鬼》を前に構え直す。そして……
「…私の心を依代とし、その力を振るえ。《雪浅鬼》」
「っ…!! (グレンの時と、似てる……)」
一気にシノンの雰囲気と周りの空気が変わった。
数日前にグレンが同じようにやっていたのを目の前で見ていたので、そんなに驚く事はない。
だが、そういう季節だからなのか少しだけ寒さを感じる。と、そのとき……
「!? お前、目の色が……」
こんな事が有り得るのだろうか?
よく見ると彼女の瞳の色が普段の鮮やかな赤茶色ではなく、空をそのまま写したかのように澄んだ水色に変わっていた。
「…始めましょう。今すぐ……」
「お、おうっ…」
声色が何となくワントーン低く聞こえ、仕草や行動もいつもとどこか違って見える。
何が起こっているんだ…? と頭の中で混乱していた。次の瞬間、
「っ!?」
シノンの先制攻撃をギリギリという所で受け止めるが、武器がぶつかったことによる金属音が街中に響き渡る。
何の予告も無しに攻撃してきただけでも驚いているが、それ以上に恐らく普段の倍以上であろうその素早さに一番驚かされた。
「(これが、シノンの本気…)っ、うおぉおおーっ!!!」
「……!?」
押し返されたシノンは一旦距離を取るように後ろへ飛ぶ。
だが、そこから間も無く……
「…舞い飛べ、"千蝶乱舞"」
「! っ、うわ…!?」
槍が幾数の蝶へと変化し、風に身を任せるように優一郎の元に飛び、逃げ場を無くすかのように包囲する。
「このままやられるのか…!?」と息を飲む。が、
「……?」
一向に蝶達が襲って来る気配がせず、首を傾げる。
「…安心して。その子達は吸血鬼だけを喰らうから……」
「? そう、なのか?」
「ええ…」
蝶達のこと以上に、口調すらも
変わっていることに疑問を抱く。
そして、頷いたすぐ後にシノンは憑依化を解き、雰囲気や瞳の色は元に戻っていた。
「これが、《鬼呪装備》の真の力になります」
「…なぁ、シノン」
「どうしましたか?」
優一郎は先程まで浮かび上がった沢山の疑問を言おうとしたが、やはり心の中にしまい込むことにした。
「…いや、何でもねぇよ」
「はい……?」
シノンは何だろうか…? と言うようにキョトンとする。
「で、どーすんだ? まだ戦っても良いのか?」
「まっ待ってください!? 憑依化を解いてしまいましたから、2回目はちょっと…」
「? って、事は……」
「今日は、ここまでに…」
まだ思うように戦えていない優一郎は納得が行かない意思を表すようにムッとした顔になるが、シノンの顔に疲れが出ているのを察し、
「シノン、そこに座ってても良いぞ? 今からシノア呼んでくっから」
「えっ、でも…」
「良いから、休んどけって」
「う…。すみま、せん……」
これ以上述べてもきっと聞いてくれないだろうと思い、素直に優一郎が指差した所に腰を掛ける。
「おっ、真音達も終わったみたいだな。じゃ、行ってくる!」
「いっ、行ってらっしゃいませ…!」
慌てて手を振りながら見送った後、胸元に手を添え……
「…また、意識が飛んでた…」
憑依化していた時のことを思い出そうとするが、最終的に思い出す事は出来なかった……。