悪魔のアクム






「寒く、なりましたね……」
「そうですね〜。寒さや暑さに敏感なシノンが言うのなら、眠ってる人にとってもそうなのでしょうね」

シノアの言葉にシノンは「あはは…」と苦笑いする。
優一郎が眠ってから二十時間以上経った。

「優くん風邪引いちゃうかな?」
「ふむ、毛布とか持ってくればよかったか?」
「あ、じゃあ僕街まで取りに行ってこようかな」
「与一、僕も行く」

一緒に立ち上がる真音に与一は「ありがとう」と微笑み、すぐに手を繋ごうとしたタイミングで君月が上着を脱ぎ、それを優一郎に掛ける。
その様子に面々は一斉に君月に視線を向け、それに気付いた君月は困惑しながらわざわざ聞いていないことまで丁寧に話し出す。

「あの、君月様…」
「なっなんだよ、双子妹」
「別に、そこまでお聞きしてはいないのですが……」
「…そ、そうか」

頭をかいた後、焚き火のある所へ急ぎ足で向かい暖を取る。
すると、シノアと三葉が唐突に演技をし始め……

「優!!」
「君月くん!!」
「「つづく」」
「つづくじゃねえよ!!!」
「シノア姉様、三葉様……」

シノンはあの2人は恐らく君月をからかう為にワザとやっていたのだなと察し、眉を八の字にする。

「君月くん……」
「ふーん…」

与一も同様に困惑した表情を見せ、真音はどうでも良いと言わんばかりに白けたような目を向ける。

「やっぱ、士方って良いヤツだよなー」
「はあああっ!? 何誤解してんだぶっ飛ばすぞ!!!」
「? 何怒ってんだよお前?」
「知人!! そんな趣味があったのかっ!?」
「三葉まで何なんだよっ!?」

何故両者に怒られているのか全く分からない知人は理由を問い掛ける。
そんな大分ややこしい展開になりかけている中……

「いや〜、とんでもない脅威が現れましたね。シノン?」
「えっ!? な、何で私…!?」
「惚けちゃって〜。さっきからずーっと優さんの手を握っているじゃないですかぁ?」

シノアはシノンの手を指差す。

「!? いやっ、これはそのですね! しっ、心配だから…」
「だから?」
「うっ、うぅう……」

返す言葉が見つからなくなり、口を閉ざした。そんなとき、

「与一、与一」
「? どうしたの…?」
「あのね…」

耳元で囁かれたその言葉に与一は「えっ…!?」と目を見開かせ、

「う、うん…。分かった……」

頷いてから少し咳払いをし、

「シノンっ、ず…ずっと手を握ってくれてたのかっ?」
「優様! 良かったっ、無事でいてくれて……」

「!?」

こちらも唐突に始まり、自分の名前がハッキリと聞こえたシノンはギョッとしながら真音と与一の方を見る。
因みに、優一郎を演じているのは与一。
シノンを演じているのは真音である。

「ごっごめんな。心配させちまって」
「いえ、待つのは慣れてます…。愛しい方なら、尚更……」
「え、まさか…」
「ずっと、お慕いしておりました……」
「シノン…。俺も、おまえを愛してる」
「優様……」
「シノン……」

「わーっ!!?」

シノンは演技が長引いていく内に顔が一気に赤くなり、早く終わらせてほしさに必死に叫ぶ。

「まっちゃん、与一さん。ナイス演技です♪」
「違いますってぇええっ……」

シノンは完全に恥ずかしくなり、右腕で顔を隠しながら違うと嘆く。
と、その瞬間…優一郎の体がドンッと跳ねた。

「! 優様…!!」
「始まった…?」
「よし、優が怪我しないようみんなで押さえるぞ」

三葉が全員に呼びかけた同タイミングで、ヨハネの四騎士の雄叫びが遠方から聞こえた。

「! うしっ、ひと仕事してくっか」
「俺も行く」
「おう、分かった」

倒す準備を整えた知人と君月はシノアの忠告を聞いたすぐ後走って行った。

「…優様、大丈夫ですよ。私達が貴方を守ります。だから…無事に、戻って来てくださいっ……」

その思いがより強まる様にぎゅっと彼の手を握る。
それからしばらくして、優一郎がようやく目を覚まし……





「ゆ…優!! 目が覚めたか!?」
「…あれ、もしかして俺迷惑掛けた?」
「も、戻ってる! これ戻ってるよね!?」
「ったく、とんでもない暴れっぷりだったぞ」
「へぇ、そんなつもりなかったんだけど…!?シノンッ!?」

面々の話を聞いていた最中で、シノンが突然抱き着いてきた。

「良かったっ…。優様……」
「シノン……」

本当に心配していたことが伝わるくらい震えているシノンの頭を軽く撫で、

「ただいま、シノン」
「お帰りなさい、ですっ……!」

ふにゃりとしたその笑顔にフッと目を細め、背中をポンポンと叩く。
その一部始終を見ていた面々は、

「はぁ、ツッコむのが面倒くせえ…」
「無自覚って恐ろしいですね〜」
「……」
「ん? どーしたんだ、三葉?」
「何でもない…」
「……?」
「シノノンと優二、言われたい放題」
「い、言われたい放題って…」

真音の言葉に与一は戸惑いながら苦笑する。

「しかし、やはりちょっと待ち疲れたな。君月の修業は来週にしよう」
「だね」
「ああ!!?」

君月が三葉と真音にキレ、また賑わい始めてきた。

「あ、そうでした……。優様」
「ん…?」
「鬼に、心を傷付けられませんでしたか……?」
「いや、そういうのは大丈夫だったよ」

優一郎は精神世界での事をふと思い出す。
本当はかなり傷付いたが、ミカエラを救うという思いやシノア達の存在、そして……

「シノンがいてくれたからな……」
「え…?」
「いや、何でもない」

「気にすんな」と言った後、もう一度シノンの頭を撫でる。
こうして、優一郎の修業は無事に成功したのだった……。

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