鬼箱王のハコ
「おい君月!! しっかりしろ!!」
「士方! 大丈夫かっ!?」
「ぐ、がががっ…がっ、があああああああ!!!」
「っ、これは……」
ようやく君月も修業に入ったのだが、始まってから三十時間経過していた。
「こんな事、って…」
「シノン! どうなってんだよ一体……!?」
優一郎の問い掛けにシノンは次第に表情を曇らせ、
「…もしかしたら、君月様は鬼に体を乗っ取られる可能性が高くなるかと……」
「!?」
その言葉に目を大きく開かせる。
「…このまま暴走したら……最悪、始末することになります。…準備をお願いします、優さん。知君」
「…シノア姉様「嫌だよ、オレ」
「! 知人様!?」
シノンの呼びかけに答えず、ジッとシノアを見つめる知人。
「どうしてですか?」
「…勝手にそんな前提で話進めんなよ。コイツの事だから多分大丈夫だろ?」
「馬鹿かおまえは!」
「いーよ馬鹿でも!!」
「っ…!?」
三葉の言葉に怯むどころかキッと睨み付ける。
「模擬戦で思ったんだよ、コイツはきっと強くなる。だから、優のときみたく鬼に勝てるんじゃねーかな?」
「知人……」
「信じよーぜ、優?」
「…そうだな」
「与一も、な?」
「うん、そうだね…!」
知人の笑顔に安心したのか、優一郎と与一の顔に笑みが現れた。
「やれやれ、これだから男の子は」
「はぁ…。どこまで単純脳なんだ、あの馬鹿は……」
「でも、知人様の言う通りだと思います。優様の時みたいに、信じましょう」
「別に君玉子がどうなっても良いけど、与一の悲しい顔は見たくない」
男子達の絆にやれやれと呆れつつ、その通りだなと改めて思い微笑み合う女子達。
すると、少し経った時……
「来い、《鬼箱王》」
「へ?」
「ん?」
突然剣を向けられた優一郎と知人は素早く《阿朱羅丸》と《閃珠丸》を構え、その剣撃を受け止める。
「ちょ…君月くん暴走しちゃったの!?」
「…いや、目が覚めた。正気だ」
「へ?」
「あ?」
「よ、良かったです……」
それぞれが困惑や驚きの表情を見せる中、シノンだけは安堵する。
「ならなんで斬りつけてくんだよ!?」
「憑依後、おまえと俺。どっちが強いか決める必要あんだろ?」
「ん? じゃあオレは?」
「おまえの場合は、たまたまそこにいて腹が立ったからだ」
「マジかよっ!?」
知人は目を白黒とさせる。
「確かに、数の子は目の前にいたら腹が立つ顔してる」
「オイイッ!?」
「ま、まぁまぁ…!」
知人を落ち着かせようとしたときに優一郎と君月は既に戦い始め、それに気付いたシノン達はそちらに視線を向ける。すると、
「開け!! 《阿朱羅観音》!!!」
「! 剣が、沢山……!」
どうやら、優一郎は特殊能力を会得したみたいだ。
「凄い……」
シノンは初めて自分や真音・知人以外が使っているそれに思わず魅入る。が、
「…鬼箱に入るまでの九つのカウントを始めろ。《鬼箱王》」
「士方も使えるのか!?」
特殊能力を使えるのは優一郎だけではなかった。
頭上に現れた棺がカウントを数え始めると、危険を察したのか優一郎は瞬時に後ろに下がった。
「ありゃ、もう終わったのか?」
「さ、流石に私でもあれは身の危険を感じますね……」
「僕なら迷わずに撃つけど」
シノンと知人は真音の安定したブレのなさに言葉を失う。
「シノンー」
「優様!」
「真音ちゃん!」
「ん、与一」
「オイ知人」
「んお、どーした士方?」
こちらに向かって歩いて来ている優一郎達に声をかけられた。
「シノン! 俺も特殊能力使えたぞ!」
「はい! 見てましたよ! 凄く、カッコ良かったです…!」
「え、いや…まぁ」
特殊能力のこととはいえ、シノンにそう言ってもらえて嬉しく思った優一郎は照れ臭そうに頬をかく。
「何赤くなってんだよアホが」
「分かりやすく真っ赤」
「あぁああっ!!?」
「優様っ!? 落ち着いてください……!?」
「あ、あはは…」
「何怒ってんだ、優?」
賑わいを見せるシノン達。
一方、少し離れた場所にいるシノアはそんな様子を見ながら三葉にとあることを教えていた。
「あの三人の詳細な過去データ、それにまっちゃん、知君…シノンのデータも、軍の情報部から消されているんです」
「!? まずいだろ、それは…。アイツらもそうだが、何で知人やシノンのまで……」
「……」
シノアは静かにシノンと知人を見つめた後、こう答える。
「…シノンや知君の中にいる鬼が、吸血鬼"ではない"からなんじゃないかと」
「え……?」
「? シノア姉様……?」
そんな話がされていたとは知らないシノンはふとシノアと目が合い、目を丸くさせた……。