真偽のエリザ
「…真音」
依音はペンダントを見つめながら愛する妹に思いを馳せていた。
「どう、して……」
新宿での戦い以来、ずっと心残りになっていた。
彼女の手を、無理やりにでも引っ張らなかったことに。
「っ…」
いくら後悔しても、時間は元になんて戻らない。
そう思いながらペンダントを握りしめていると、
「依音〜?」
「! エリザ……」
エリザに呼びかけられ、ペンダントをしまいすぐに向かう。
「何か用なの、エリザ?」
「うーうん、依音どこにいるのかなーって思って呼んだだけだよ?」
「……」
呆れるような理由に依音は深くため息をつく。
「心配しなくても、アタシは勝手にここか任務地以外の場所に行く事なんてないから」
「そっか! それもそうだね!」
無邪気に笑うその姿に何だか安心感が芽生え、少し口角が上がる。すると、
「……」
「な、何よ…」
「依音、さいきんたくさん笑ってるね?」
「えっ……?」
ニコニコと微笑みながらエリザは話を続ける。
「はじめて会ったときはもう死んじゃう〜って悲しいかおしてたけど、今はいっぱい笑ってるなーって思うんだぁ」
「エリザ…………」
それは、吸血鬼とは思えぬ優しさをよく見せてくる彼女だからこそなのではないか…と思ったが、それだけではないことにも気が付いた。
「もしかしたら…」
「んー?」
ずっと言おうか迷っていたが、意を決して妹が生きていたことを話す。
「そうなんだ!? よかったねぇ、依音!」
「…えぇ」
意外な反応に少々戸惑ったが、すぐに微笑む。
「ん〜、どうやったらいっしょに来てくれるんだろうね……?」
「…難しいの、かな」
「え……?」
「あの子は人間の味方をしていて、それに…」
途中で言葉を飲み込んだ。
それは、エリザの前ではとても言えないことだからだ……。
「依音……?」
「…やっぱり、何でもないわ。ちょっと出掛けて来る」
後ろめたさから依音は屋敷を出た。
「はぁ……」
歩き続けていく内に先程の考えがようやく抜け、ひと息つく。
「言えるわけ、ないわよ…」
腕を乗っけている手すりを見つめながら項垂れていた。そのとき、
「おやぁ、依音ちゃんじゃないですか?」
「…珍しいですね。貴族様がこんな所でフラついていらしてるなんて」
「随分と警戒してますねぇ」
そう言いつつもニヤッと妖艶な笑みを見せるフェリドに依音はより警戒心を強める。
「私の主様が口癖のように言っていますからね。「フェリドはなにを考えているのかサッパリわからないから気をつけて」、と」
「なるほど、流石は"第二位始祖の妹君"と言った所でしょうかね」
「? "第二位始祖"…?」
「おや、本人の口から聞いてないのかな?」
いちいちおちょくるようなその物言いは気に入らないが、勝ち目がない相手だというのはとうの昔から分かり切っているのでとりあえず頷いてみた。
すると、フェリドは更にニヤッと妖しく笑み……
「ではでは、話して差し上げましょう♪ とても美しい絆で結ばれていた姉妹達が吸血鬼の道を歩むこととなった、暗く悲しい物語を……」
「姉妹、達…?」
嘘か真かは定かではないのだが、彼自身が飽きるまで話していたその内容は本当に悲しいものであった。
おまけに、その主人公となる姉妹達の1人があまりにもエリザと特徴が似ている。
「ということで、続きはまたいつか」
自分から話を進めておいて、あっさりと終わらせ先に帰るフェリド。
だが、依音は茫然とすることしか出来なかった。
「っ、あの話が本当なら……」
踵を返し、一目散に屋敷に戻る為に走る。
エリザに真実を問う為に……。
「あ、おかえり〜依音!」
「エリ、ザッ…!」
「どっどうしたの!? そんなに息きらしちゃって!?」
やっと帰って来たと思いすぐに振り返ると、何故か息切れしていることに驚くエリザ。
「エリザ、アンタっ……」
聞かなければいけないはずなのに、段々言い出し辛くなる。
聞いてしまったら、彼女は一体どんな顔をするのだろうか……?
「依音…?」
「…………」
依音は首を横に振る。
「心配を掛けさせたから、早く帰らなくちゃって思って走って来ちゃっただけよ」
「そうなの…?」
「ええ」と笑みを見せれば、エリザの表情に笑顔が戻る。
「そっかー! よかった♪」
「……」
いずれ彼女の口から真実を告げてくれるときが来るだろうと思い、問うのをやめた。
…エリザが、本当に"吸血鬼と人間のハーフ"であるかどうか−−−。