帝鬼軍のヤボウ 1






「シノノン、おはよう」
「あ、おはようございます。真音様」

廊下で声をか掛けてきた真音に笑顔で答えるシノン。
今日はシノアが住んでいる部屋でシノア隊の会議を行うことになっている。

「いつも思うけど、何でシノノンとシノアの部屋って別々なの? 食べる時は一緒だって聞いたけど」
「ああ……」

真音の問い掛けに困惑した表情を見せる。

「その、色々と事情がありまして……」
「…そっか」

何かを察した真音はこれ以上訊くのをやめた。

「料理は順番制?」
「いえ、私が毎日作っているのですが…。今日は三葉様と2人で作りたいとの事で」
「ふーん……」

シノアと三葉の料理の腕を信用していないのか、明らかに疑心の目を向けている。

「だっ大丈夫ですよ! 昨日夕食の支度をする為に行ったときに料理本を用意していらしてたので、何とかなると思います!」
「それはどーだろ」
「真音様…。あっ、着きましたね。とりあえず入りましょうか」

「きっと大丈夫なはずだ」と心の中で暗示しながらドアを開け、キッチンへ向かったのだが……

「シノア姉様、三葉様。おはようござ…「「きゃああああああ!!!」」

にこやかな表情を浮かばせながらキッチンの様子を覗き込むと、フライパンの中が燃え上がり慌てふためいているシノア達の姿があった。

「…やっぱりこうなったね」

予想が的中したと顔をキリッとさせる真音。

「…………いやああああっ!!!」

シノンは叫んですぐに貧血を起こしてしまい、後から来た君月のおかげで問題を解決するまで優一郎に介抱してもらった。





「落ち着いたか、シノン?」
「すみません…。取り乱してしまって……」

深々と謝った後、紅茶を少しずつ口に含ませる。
因みに、現在君月が料理をしている。

「おっ、すげぇな君月」
「確かに、本当に何でも出来るのですね……」

そんな彼の器用さに優一郎とシノンは目を輝かせる。
すると、君月が明らかにシノアと三葉に向けたような発言をし、その張本人達は顔を逸らしながら言い訳を呟いている。

「お二人共……」
「ま、まぁまぁ! あ、僕もなんか手伝おうか?」
「もう終わった。運ぶのを手伝ってくれ」
「うん!」
「与一がやるのなら僕もやる」

与一の様子を見た真音も君月が作ったオムレツを運ぶのを手伝う。と、そのとき……

「つか、話しようぜ。飯のために呼んだんじゃないんだろ?」
「…!」

皆、優一郎に視線を向けた。
その後に「自分だけ仲間外れで秘密にされるのは嫌だ」と続けて言い、シノアがその言葉に答える形で話を進めていたのだが……

「実は君月さん、コッチ系なんです」
『え!!?』
「いきなり嘘つくんじゃねぇよ!!!」

そんな冗談が入りつつ、ようやく優一郎に本題を話す。
優一郎が何らかの実験による被験体で、新宿攻防戦でシノアを殺しかけたこと。
そして、グレンは優一郎達を利用しているのか。
それとも本当に仲間だと思っているのかを。

「グレンが味方かどうか? そりゃいったい…」
「中佐はたぶん、軍上層部と揉める火種…ましくは、もっとなにか大それた計画を持っている」
「ついていくかどうか…いえ、私たちはそれぞれどういうスタンスで今後この世界と向き合っていくかについて、意見のすりあわせをしましょう」
「……」
「優様…」

その後しばらく、朝食を取りつつ互いの意見を包み隠さず話し合った末にまとまりつつあったとき、優一郎は……





「あの…こういうの言うの恥ずかしいんだけど……グレンは、俺たちを家族だと言ったよな」
「…ええ」
「シノア、与一、シノン、君月、三葉、真音が…おまえらが新しい家族だって。最近、俺も…そう思い始めてる。おまえらのことは大事だ」
「……」
「でも、ミカのことを忘れられない。大切な家族だから」

優一郎は自分なりの答えを皆に全て話した。
例えグレンが裏切ろうが、ミカエラが吸血鬼になっていようが、家族は…ずっと家族だと。
その答えに真っ先に反応したのは、

「! シノン……」
「私も、同じです…」

優一郎の手の上に自分の手をそっと置き、ふわりと微笑む。
そんなシノンに続くかのようにシノア達も優一郎の意見に同意し、

「なので、シノア隊はその方針で動きましょう。『家族を大事に』、こんな世界でそんな方針になるとは思いませんでしたが−−−じゃ、それで戦っていきましょう」

結論が出たことにより更に賑わうシノア達。
そんな中で、優一郎は少し嬉しそうな表情を浮かべている。

「優様、良かったですね」
「シノン、…ありがとうな」
「いえ、皆様は優様がその答えを出すのを待っていらしてたんですよ?」
「え……?」

「そうなのか?」と問い掛けると、こくっと頷いた。

「私やシノア姉様は幼少期の頃からグレン中佐にお世話になっていますし…それに」
「それに?」

真昼のことを言いかけたが、これ以上は彼に言うべきではないと判断し「何でもないですよ」と首を横に振る。

「? ま、別に良いけど…」
「ありがとうございます……。あ、そうでした」
「どうした?」
「先程のお詫びという訳ではないのですが…。もしよろしければ、お好きな物をお作りしたいです……」
「!?」

優一郎は唐突に勢い良く立ち上がるが、「どうしたんだ…?」と目をパチクリとさせるシノア達の視線に気付き座り直す。

「ダ、ダメなのですね…。すみません、急に「いや寧ろ食いてえから。全っ然大丈夫だから」
「は、はい……?」

今度は安堵する。

「えっと、明日でも大丈夫でしょうか……?」
「全然構わねぇよ」
「ありがとうございます。では…早速、お好きな食べ物をお聞きしますね!」
「おう!」

優一郎はテーブルの下で小さくガッツポーズをした後、シノンの質問に即答で答える。と、

「そういや、一つ聞き忘れていたな。双子妹」
「? 何でしょうか、君月様…?」
「この前言ってたよな。優の家族とどういう関係なのか話すって」
「……!」
「ミカと…」

君月の一言によって全員シノンに視線を向け、シノンは少しだけ悲しげな表情を浮かべながら告げる。

「……。ミカ様とは、幼少期にお会いして。たったの2年しか過ごすことができなかったのですが。…私にとって、とても大切な方です」
「……」

話し方で察したのか、部屋に沈黙が流れる。
その沈黙を最初に破ったのは、

「…そうだったんだな。どうりでアイツが嬉しそうに話してたわけだ」
「優様……?」
「優さん。何か知っているのですか?」
「まぁ、そんな大したもんじゃないけど。シノンにだけ後で話すよ」
「はっはぁ〜ん。さては優さん、それを口実にシノンと秘密のデートを…「優二許さん」
「違ぇよ!?」

気が付けばまた何気ない賑わいに戻り、シノア達が目を離している合間に……

「優様、先程の話は…」
「ん? ああ、分かってる。ちゃんと明日話すから」
「分かりました……。本当に、ありがとうございます」
「お、おう…」

この後も、シノアに再び指摘されるまで二人はたわいない会話を続けた。

prev  On the other side of the fairy tale.">back  next